第17話【リョウスケ】
5月1日(月)午前0時。張り切って休みも取るほどゲームを楽しみにしていた。リョウスケはタブレットの電源を入れた。
~オープニング~
『♪~リアル人生ゲーム、始めます!』
軽快な音楽とともに女性の声でアナウンスが始まった。
『本日は20XX年5月1日月曜日です。間違いがなければスタートをタッチしてください』
リョウスケは指示通り設定を進めていく。
『はじめまして。私はこのゲームの案内人タナカです。このゲームはあの有名なボードゲームを現実世界で楽しむために開発されました。幸か不幸か、未来は貴方の手にかかっています。まず初期設定を開始します。ログインIDを入力後、参加者は顔認証の為の登録をしてください」
タブレットの画面はインカメラで顔が写るようになっている。リョウスケは覗き込むようにし、自分の顔を撮影した。
『こちらでよろしいですか?よろしければ決定を押してください。♪~。参加者のデータを登録します。ゲーム終了後獲得したポイントの精算を行うため、正しく入力してください』
「ポイント?精算ってことは賞金が貰えるのか?」
氏名、性別は既に入力されており、生年月日と電子マネーの登録をした。
『こちらでよろしいですか?よろしければ決定を押してください。♪~。リョウスケさんですね。それではルールを説明致します。このゲームは1~10人プレイ用です。15ターンで勝敗を決定します。このゲーム内の仮想通貨単位はJP(人生ポイント)です。1JP=1円となります。毎週月曜日午前0時から午前9時までにルーレットを1回まわし、プレイヤーを進めていきます。マスには良い出来事が起こる"天使マス"、悪い出来事が起こる"悪魔マス"、カードが貰える"カードマス"、中継ポイントとなる"チェックマス"、何も起こらない"日常マス"があります。止まったマスに関する出来事が1週間の内に起こり、マスのイベントとして登録されます。必ず決められた時間内にルーレットを回してください。確認できない場合には脱落となり負けが確定します。途中脱落によるペナルティはマイナス1000万JPですのでご注意下さい。さらに脱落後もプレイヤーとしてチェックマスイベントには参加し続けるのでご注意下さい。最終順位により獲得する賞金の反映後、参加者全員の精算が行われます。また、事務局よりメールが届くことがございます。その際には必ず確認の上ゲームを進めてください。早速メールが届いています。確認してください』
画面のメールボックスには①のマークが付いている。リョウスケはタッチした。
『貴方が参加するゲームNo.はA23です。このゲームの参加者は10名です。今回はモニターゲームであるため、ゲーム機器をプレゼントしております。つまりスタート時のイベント【10万円相当のゲーム機器のプレゼントキャンペーンに当たる】が適用され、貴方の獲得ポイントは10万JPです。画面にてご確認下さい』
「10万?」
さっそくホーム画面に戻ると、ポイントに100,000JPが表示されている。
「おお。ポイント。多く貰えば勝ちなのか?」
プレイヤーがいてゲームをする。脱出ゲームだとチームでクリアしたり全員でクリアしたりということもある。対戦相手は主催者だったりするのだ。中には参加者同士で争うこともあるが、この人生ゲームは何が勝利なのか、何が成功なのだろうか。
『ルールを再度確認することも出来ます。右端にご用意しておきました。それではさっそくルーレットを回してみましょう』
ルーレットはタブレットに繋げるためのケーブルがついている。接続すると画面のルーレットのマークが点灯した。
『あなたの番です』
「おお。ゲームが始まった」
画面のアナウンス通り、リョウスケは目的も理解せぬままとりあえずルーレットを回してみることにした。
「3?」
画面にも『3』が表示され、リョウスケと名前がついている男がマス上を歩いている。3マス目で止まるとそこは日常マスだった。
「日常?」
『日常マスに止まりました。スマートウォッチをタブレットにかざしてください』
タブレットのタッチ決済マークがついている箇所にスマートウォッチを近づけるとスマートウォッチの画面が白くなった。
「マスの色と一緒?日常マスだってことが登録されたのか?」
10秒ほど表示された後、時計表示に変わった。
「へー」
タブレットの画面に目を向けると日常マスとスマートウォッチの表示が消えた。
『連動されました。それでは1週間お楽しみください』
アナウンスは終了しマップが表示されている。マップにいるコマは4人。
「参加者は10ってことだから、あと6人はいつログインするんだろうな」
休みであることを良いことに、タブレットのあちこちをタッチして操作してみた。シンプルなアイコンはあるがこれといって新しい情報はなかった。設定もタブレット本体に関するものだけで、音量や明るさが調節できた。9時まで眺めていたが、最終的には10人のプレイヤーがいて、それぞれスタートから出発しコマが移動した。意外とバラけており、とりあえずまわしてみた人が多かったと思われた。何のマスに止まったかは確認できるが、イベントに関してはわからない。
「イベントは1週間が終わったら登録されるんだっけ?今は何のマスに止まったかをスマートウォッチと連動するだけなのかな?思ったよりゲーム期間が長いな。1ターンが1週間。ゲーム終了まで15週ってことか。長いな」
そしてこの日は昼間の就寝となった。
日常マスだったリョウスケは真新しいこともなく平穏に過ごした。
◇◇◇
5月8日(月)
リョウスケは毎朝のランニングを日課としている。5時に起きると5キロ走りシャワーを浴びて汗を流すと、この日はパンとコーヒーをお供にタブレットに向かった。
日常マスに止まっていたリョウスケにイベントは発生しなかった。そしてポイントにも変動はなかった。
「日常マスは何も起こらないのか。ドキドキもなく休めるマスってことかな?」
「他の人はどうなってる?いろんなマスにみんなそれぞれ止まっていたよな」
画面の左端には10人のポイントランキングが表示されていた。
「え?1位は110,000JP?増えてる…」
他にも微妙な数字でも増えている人はいる。そして減っている人もいる。
どんなイベントだったのかは他の人にはわからないようだ。つまり自分のイベントも他人にはわからない。
「ランキングをみるに、天使マスに止まったやつはポイントが増えて、悪魔マスに止まったやつは減ってる。日常とカードはポイント変動なしか」
マップを見ると5から8マス先に悪魔マスがない。
「ここが狙い目じゃない?幅が広いし、ルーレットって狙って目って出せるかな?」
リョウスケはルーレットを回した。
『7』
そこは天使マスだった。リョウスケはガッツポーズをした。
「よし!良いことが起こる!」
スマートウォッチをかざすと支度をし仕事へと向かった。
◇◇◇
5月15日(月)
この日もランニングを終えてタブレットに向かう。『天使マス』だったこの週は月曜が来るのが楽しみで仕方なかった。タブレットに表示されている『イベントを見る』をタッチするとイベントが表示された。
【犬に吠えられ鳥のふんを回避する】
「あー!!あったねー!それあったよ。マジでラッキーだったよな。あれイベントだったのー?」
ポイントを確認すると、108,000JPになっている。
「8,000?このイベントで8,000円得したってこと?」
状況を思い出す。いつものランニングコース、いつもの散歩中の犬に遭遇して飼い主に挨拶しワンコを撫でさせて貰っていると、リョウスケに慣れているはずなのにワンコに吠えられた。ビックリして尻餅をつくと、目の前に鳥のふんがポトリと落ちた。もし尻餅をつかなかったら位置的に頭か背中に鳥のふんが落ちただろう。
「あ!新品のランニングウェアだ。この日おろしたてだったんだよな。そうだ。8,000円だったよ」
8,000円のランニングウェアに鳥のふんがつくことを回避できたというイベントだったのだ。
「すげぇな。リアルにゲームと連携してる!」
次のルーレットは同じ数字が出せるか、また5から8を狙ってまわしてみた。
『7』
「お!同じ!あの辺りを出したいって感じでまわすと7が出るのか?カードマスだな」
カードマスに止まると、カードが表示された。
【止まるマスが天使マスに変わるカード】
「なにそれ~!なんかすげぇラッキーなカードな気がするのに、使いどころがわかんね~」
この週はカードをもらう以外のイベントは起こらないと予想し、リョウスケは友人と飲みに出かけたり、恋人のエリと出かけるなど積極的に行動した。
◇◇◇
5月22日(月)
あれだけ積極的に行動したがどれもイベントにならなかった。そう、やはり、カードマスはカードが貰えるだけのマスなのだ。
「じゃあ、日常マスとカードマスは休めるってことだな」
15週間の間、何かイベントが発生するかもしれないとドキドキしながら過ごすには過酷すぎる。休めるマスはありがたかった。
「さて、次は何を狙おうか?」
まだ悪魔マスには止まってないが、悪魔マスだけは避けたい。他のプレイヤーがポイントを減らしているのを見ると、危険なマスであることは理解できた。ポイントを少しでも増やすか、進行度を進めるか。あまり考えていなかったが自分の位置ならば進行度ランキングの上位を狙える所を維持している。
「なるほど。先を進むか」
チェックマスイベントが謎だ。ルールに詳細の記載がない。さまざまなゲームのパターンを思い浮かべた。チェックマスイベントは脱落後も参加しなければならないということは、ゲーム側から賞金が出るのではなく、プレイヤーのポイントが動く可能性が高い。先頭が通過した後他のプレイヤーが通過する度に通行料を支払うパターンか、通過する人がいる度に祝い金を支払うパターンか。そもそもここはストップマスなのか。通過してしまったら何もイベントが発生しない可能性だってある。
「1つ目のチェックマスまでまだあと半分ちょっと。トップを追いかける為には7か8は出したいな」
また同じ狙いでまわしてみることにした。
『6』
「あー、惜しい!狙った目が出なかったっていうのもちょっとショック」
そこは、天使マスだった。
「お!ラッキーラッキー。どんなイベントが起こるんだろうな」
この週は仕事も問題なく順調で、週末にはエリと式場に打ち合わせに行き、席次や料理の最終チェックをした。お互いの実家に立ち寄り、結婚式の段取りや打ち合わせの進行具合を報告した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。