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第14話【ハルト】

7月24日(月)


ハルトは日常マスだった為、イベントは何も起きなかった。


タブレットの画面を見ると、メールのアイコンに①と表示されている。ゲームが始まって残り3ターンのところで事務局から連絡がきていた。


早速メールを開いた。


『残り3ターンとなります。ここで参加者データを開示します。残りのゲームをさらにリアルにお楽しみください』


《グループNo.A23》

①足立レン


②今井ユウキ


③大橋リョウスケ


④大山アラタ


⑤佐藤マサユキ


⑥鈴木ケンタロウ


⑦野口コウヘイ


⑧本田ハルト


⑨松本ダイチ


⑩渡辺ショウマ




10人の名前が並び、その横には基本情報が書かれている。さらには顔写真まで載っている。そしてあることに気付く。


「何だこれ!?基本データがみんな同じじゃないか…。同じ条件の人をプレイヤーに選んでゲームしているということか…」


さらには、見覚えのある名前がいることに気がついた。


「今井!?あいつもこれに参加してるのか…。アキナと別れたり新しい彼女が出来たりもイベントだったのか?」


そして、改めてポイントランキングを確認すると驚愕した。


「何であいつ1,000万も越えてんの!?…まさか、金田さんが契約取ってきたから?」


すごくモヤモヤした。みんな天使マスに止まりポイントを稼いでいけばみんなが得して終われるゲームだと思ったが、今井の1,000万は今井の努力によるものではなく、むしろ失態があったからだ。


仕事の契約でもポイントに反映するケースがあるため、今週は天使マスに必ず止めたかった。マップを見ると8マス先に天使マスがある。


「少しでも先に進めたいからこれはちょうど良い。8を出す!」


ルーレットの針を合わせタブレットに接続すると心を落ち着かせまわした。


『8』


ここまでくるとルーレットの希望する出目の確率が100パーセントに近くなっていた。





出社すると今井と目が合った。何も話す訳ではなく互いに軽く手を上げ挨拶すると就業した。昼休みに入ると今井に近づき会話をした。向こうも同じことを考えていたようだ。ゲームについての話をした。


「本田も参加してたんだな、ゲーム」


「ああ。俺も驚いてるよ。実は今井にコーヒー奢ったの悪魔マスイベントだったんだぜ?」


「そうなの?それは俺のターンでは日常だったんだよ。その前の週の本田にビール奢ってもらったやつが天使マスイベントだったんだよな」


「まじ?俺今井に奢ってばっかじゃん。…なあ、お前勝算あんの?」


「え?勝算って?」


「は?だって、ゲームだぞ」


「ああ、ゲームだろ?それにしてもさ、現時点でみんなプラスってすごいよな、ついてるよ」


「ついてる?お前、この状態は運が良かったって思ってるのか?」


「え?だってそうだろ?出た目の数進んで止まったイベントで金が動くんだぜ?」


「じゃあ、今井のあれはたまたまか…。そっかそれはラッキーだな。ま、頑張れよ」


「なんだよ、意味深だなぁ」


「…。このゲームの主催側の目的がわからない以上、これ以上のプレイヤー同士の接触は控えとくよ。後々自分が不利になっても嫌だしさ。じゃあな」


「え?不利?え?おい、本田…」


ハルトは今井を残してその場を去った。


(あいつはどうすればこのゲームに勝てるか理解してないどころか考えもしてない。それなのに今はポイントランキング上位だ。ここまでに起きてる出来事の諸々の制裁を与えたいな)


みんなで仲良く利益を得ることに不満が生まれた。それはゲーム参加者が知人、それも良い印象のない人物であることを知ったからだろう。





帰宅しタブレットを見ると、メールのアイコンに①が表示されている。


「また連絡?」


早速メールを確認した。


『脱落者のお知らせです。


《脱落者》アラタさん、ケンタロウさんの2名

《理由》7月24日のルーレットの未確認、及び、スマートウォッチの脱着の為


アラタさんとケンタロウさんはペナルティで-1,000万JPとなります。2人の残りのターンはチェックマスイベントのみ発生します』


「脱落!?今日のルーレットがまわせなかったってことか?スマートウォッチ脱着?ということは、これを外しても脱落扱いになるのか。あまりペナルティのような言い方ではなかったのに」


気を付けようとハルトは改めて手首に巻かれたスマートウォッチを押さえた。



夜のニュースでは、ここ数日騒がれている元ミスキャンパス殺人事件の話題が取り上げられている。アキナから聞いていた為、この事件については他の話題と比べて注目していた。すると、あることに気がついた。


「この事件の犯人…、ゲームの脱落者じゃん…」


ハルトもアラタの脱落について理解できた。殺人を犯し逮捕されたからルーレットをまわすことが出来なかったのだ。そして身につけている物は外さなければならなかった可能性もある。どの時点での脱落だったのかはわからなかった。ではもう一人のケンタロウはなぜ脱落となったのか…。


ニュースを引き続き見ていると、犯人の男も重傷を負った男性も月曜を気にしていたことや天使や悪魔といった単語を呟いていて何か共通点があるのでは、同じ宗教のようなものに入っているのではという報道をされていた。


「まさか…!?この被害男性もゲーム参加者!?」


しかしこの話題は長引くことなく終わった。後の報道内容は被害女性のプライベートな話で盛り上がりをみせることになった。



ポイントランキングを確認すると、アラタは2,056,005JP、ケンタロウは-5,005,960JPとなっており、アラタは1,000万JP引かれたにも関わらず200万以上のポイントを残していた。


「脱落してもまだポイントが残ってるのか…。チェックマスイベントがどれくらい機能するのかわからないけど、こういうケースがあると、稼げるだけ稼いだ時点で脱落してゲームを降りる手もありなのかな…?」


ゴールに唯一たどり着けそうだったアラタの脱落を確認し、ゴールイベントが発生することはないだろうと考えた。自分も着実にポイントを増やしているが、他のプレイヤーもこの数ターンで確実にポイントを増やしていた。マップを見ると13ターン目で悪魔マスに止まっているのはユウキだけで、天使マスやカードマスに止まっているプレイヤーが多く、このターンで6人がチェックマスを通過している。


「ほんとに、あいつルーレットは運だと思ってるんかな?あいつを陥れるなら今週だ。決戦は明日になるだろう。俺もしっかり備えておこう」


こうしてこの日は早めに休むことにした。


◇◇◇


7月25日(火)


15時を過ぎたところで今井が秋山から呼び出されている。ハルトは作業を止めて二人の様子に注視した。


(あの呼び出され方ならきっとやらかしてるに違いない。そもそも今ここにアイツがいるのはおかしいはずだ)


様子を伺っているだけなのに、ハルトは緊張からか手汗と拍動がすごかった。


今井の顔は青ざめ、オドオドと挙動不審に動いている。秋山は呆れたように叱責し、この件にかんする責任は自分で取るように促している。すると、秋山から声をかけられた。


「おーい本田」


秋山は今井に話終えると、ハルトの元へとやってきた。


「すまないな本田。これから一仕事お願いしたい。経理に向かって先日作成した契約書を受け取って、その足で取引先に向かってくれ。経理には決済印をお願いしてある。今日中に必要にならなければ破棄して良いという形で先日の契約書を前もって渡してあるんだ。やはりアイツはやらかしたな。これで責任を問えるから、ここの契約は本田に担当を引き継いでもらうよ」


「わかりました」


先日ハルトが協力した取引が成立する条件とは、今井が契約更新を忘れ取引できないということだ。ハルトは経理に立ち寄り今井分の契約満了の書類とハルト分の新規契約書を受け取ると取引先へと向かった。作業は無事終わり、ハルトは新規契約という形で契約を取り付けた。取り付けたといっても前回秋山に同行して話は纏まっているものだったためスムーズだった。取引先からは『処分はうまく行きそうかい?』と聞かれ、今回の騒動への協力に感謝を述べた。自分が外に出ている間に社内では今井の解雇が宣告されていた。後に金田から聞いた話では、今井の叔父である専務にも処分はあったようだ。秋山は社内監査役で本来であれば部署に固定することはなかったのだが、小野田の仇を取るべく部長代理としてやってきて社内の膿を弾き出したようだ。これで目的は達成したが、今井の担当を引き継いだハルトと金田が落ち着くまではサポートしてくれると申し出てくれたそうだ。


自分が何か仕掛けなくとも、秋山が制裁を下してくれた。ハルトの心は晴れた。さらには新規契約は2年契約の1,152万円という数字だった。今週は天使マスに止まっているため、うまくいけばこの金額がポイントになる可能性が高い。ルーレットに失敗して悪魔マスにならなくて良かったと心から思った。



今井が自分の荷物をまとめ終わったのだろう。社に戻ると今井が荷物を抱え退社していく姿が確認できた。


◇◇◇


7月31日(月)


天使マスに止まっていたハルトは悠々と『イベントを見る』を押した。


【新規契約を獲得する】


「よし!これがイベントに選ばれた」


ポイントを確認すると、12,868,610JPとなっていた。


「あの契約金どおりだ。1,152万JP増えてる」


ここでハルトはポイントランキング1位に急浮上した。


「すごい。このまま終わりたいな…」


ユウキのポイントを見ると、大きくマイナスに転じている。


「そりゃそうだよ。悪魔マスで契約更新できず解雇って…」


そこへタブレットからアナウンスが流れた。


『♪~チェックマスイベントが発生しました。2位通過はリョウスケさん、ダイチさん、レンさん、ハルトさん、コウヘイさん、マサユキさんです。6人は全員から9万JPずつもらいました。おめでとうございます』



【90,000JPをリョウスケ、ダイチ、レン、コウヘイ、マサユキに支払う】


【810,000JPを全員からもらう】



ハルトのポイントは13,228,610JPとなった。


「おお!チェックマスイベント!」


ハルトは前回のチェックマス通過後大きい数字を狙って進んでいた。その成果が出たのであった。ポイント数は十分ある。ポイントランキングは1位だし、ここまでくると進行度ランキングも狙える位置にいる。


「よし、先を行こう」


今回チェックマスを通過した人は6人。つまり先頭集団がこの1ターン以内に犇めいている。とにかく先頭に行ければラッキーだ。8マス先は日常マスだ。これを狙う。


『8』


『日常マスに止まりました。スマートウォッチをタブレットにかざしてください』


ハルトはスマートウォッチをかざした。


『連動されました。それでは1週間お楽しみください』


ハルトはにやける口元が隠せなかった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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