表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話 リューの変化

 翌朝、私はいつもより早く起きた。というか起こされた。


「ニャー」

「ん? なんか重い……ん、ん、んーーー?」


 何か知らない女の子が私の布団の上に乗っていた。


「ん? 誰、誰、誰---!?」


 私はパニックになりながら眼鏡を掛ける。だが、どれだけ見てもやはり知らない女の子だ。

 いつの間にか攫ってきてしまったのだろうか。いや、侵入された?

 堂々巡りの思考の迷路に嵌っていると、彼女はよく見覚えのある尻尾を振って「ニャー」と鳴いた。

 そこで私はやっと合点がいった。


「お、お前まさかリュー?!」

「ニャー」


 肯定するようにリューは返事をする。


「え、何で人間になってるの?」

「ニャン」

「どうしてサラマンダーから人間になったの?」

「ニャーン」

「いや、何言ってるか分かんないし。言葉は喋れないのかな」

「ニャー……」


 どうやら喋ることは出来ないらしい。とりあえず一つ分かった事があった。

 リューは女の子だったようだ。

 こうして私と彼女の奇妙な生活は始まったのだった。




 早起きしてしまったのでまだ外は薄暗く、出社するまで時間がある。

 私は取り敢えず朝ご飯を作ることにした。


「よし、リュー。朝ごはんにしようか」

「ニャー」


 リューはとことことついてくる。私は視線に困った。


「その前に服を着ようか。何かリューに着れそうな物はあるかな……」


 クローゼットの中を探す。といってもそんなに服を持っているわけではないのだが。


「あ、これなんてどうかな」


 私は白いワンピースを取り出した。何とも清楚な感じがする。

 捨てるのが面倒だと放っておいた古着も意外なところで役に立つものだ。

 リューにそれを着せてみるとサイズも丁度良かった。


「うん、似合ってるよ。可愛いね」


 私が褒めるとリューは嬉しそうにはにかんだ。


「それじゃあ、朝ごはんを食べよう」


 私はトーストと目玉焼き、それにサラダを用意してテーブルに置く。リューは興味深そうにそれを眺めていた。


「ほら、椅子に座って」


 私はリューの為に椅子を引いてやる。昨日までサラマンダーとして床を這っていたリューだったが、椅子に座れるのだろうか。私は心配しながら様子を見ていたが、どうやら問題ないようだ。

 リューは椅子を気にしながらも私と同じように座ってご機嫌な笑顔になった。


「ふぅ、これからは人間としてのふるまいも教えてやらないといけないかな」


 一息吐く私にリューは首を傾げる。まだ人間の言葉は上手く理解できていないようだ。


「ああ、何でもないよ。それじゃあ食べましょう」

「ニャー」


 私達は手を合わせて「いただきます」をする。私がやるとリューも同じように真似をした。どうやら私と同じ事が出来るのが楽しいようだ。

 そして、食事が始まると勢いよくパンを口に運び始めた。それはもうガツガツと貪る様に食べる。

 こんなところはサラマンダーだった時と変わらない。

 行儀よく食べる事を教えた方がいいのかもしれないが、目の前で美味しそうに食べる姿を見ていると何だか注意するのも気が引けた。

 食器の使い方や食事のマナーなんかはおいおい教えていけばいいだろう。

 朝食を終えると今度は洗面台に向かう。私が行くとリューもついてきた。


「お前も洗うのか? そうだなあ……」


 せっかくの機会だ。私はリューに洗面台について教えてあげる事にした。


「リュー、こっちに顔向けて」


 言われた通りにリューがこっちに来て顔を向ける。私は彼女の体をちょっと持ち上げて、顔に水を掛けてあげた。


「ニャッ!?」

「洗ってるんだよ、落ち着いて。はい、目を瞑る。そう、そのままじっとする」


 驚いたリューは顔を背けようとするが、私は洗いを続行した。リューの顔が食べ物で汚れていたからだ。


「ニャァ、ニ"ャー! ニ"ャン!」

「ほら、おとなしくして。綺麗綺麗しようね」


 水が掛かる度にリューは悲鳴を上げる。それでも私は構わずに彼女の顔の周りを洗い続けた。


「はい、終わり。綺麗になったねえ」

「フゥー……フゥー……」


 リューはまだ怯えているようだった。私は笑いかけながらタオルを渡して拭いてあげようとした。だが、リューはそれを拒絶するように後退りする。


「あれ? もしかして水は苦手だったのかな? お風呂には入ってたのに……。あ、もしかして熱は平気だけど冷たいのは駄目なのかな?」


 人間の姿になっていてもリューはやはりサラマンダーなのだ。私は自分の至らなさを反省した。


「分かった。じゃあ次からは温かいお湯にしてあげるからね」


 私はリューにそう言って今度は自分の顔を洗う事にした。温かいお湯で。リューはそれを羨ましそうに見ていた。


「さっぱりした。次は歯磨きだよ。リュー、口を開けて」

「ニャー?」

「こうやって、こうして……」


 私はリューの小さな口を指で押さえて歯ブラシを入れて上下に動かす。リューは驚いて固まってしまった。


「大丈夫だから、怖くないよ。おお、さすがサラマンダー。人間になっても鋭い歯が並んでるね」

「ニャー」


 褒めてやるとリューは喜んで笑顔になった。体の緊張も解けたようだ。今のうちに磨いてしまおう。


「よし、終わった。それじゃあ着替えて出社の準備をしなくちゃ」


 私はリューを連れて部屋に戻ることにした。


「リュー、私はこれから会社に行くからおとなしくお留守番しておくんだよ。私の言うことは分かるよね?」

「ニャン」


 リューはこくりと肯いた。私はリューの頭を撫でてやる。


「いい子だね。それじゃあ行ってきます」

「ニャー」


 私は玄関まで見送ってくれるリューに手を振り、アパートを出た。

 電車に乗り、会社に着くといつものように仕事を始める。今日は午前中に会議があるのでその資料作成に追われていた。


「ふう、これでやっと一段落ついたかな」


 昼休みになり私は弁当を食べ始める。すると机の上に置いてある携帯が震え出した。見るとメールの着信のようだ。


「ん? なんだろう」


 開いてみるとたいした事は無い普通のお知らせメールだった。


「驚かせないでよ。仕事が増えたかと思った」


 私はメールを閉じてスマホを見ながら考える。リューを撮っておけばよかったかなと。早く家に帰ってリューに会いたかった。


「その為にも……仕事を早く片付けないとね。よしっ頑張ろう」


 私は気合を入れなおすとスマホをしまって昼食を再開するのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ