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8.にげ、逃げられッ…!なかったです

(まってまって本当にこの状況はまずい!)


 いつの間にか組み敷かれていた私は、どうにかしてお師匠様の下から抜け出そうとバタバタと暴れてみたりもした。が。


(相変わらず、なんでこんなに鍛えてるの、この人!?)


 そもそも前提として、年端もいかない少女が成人男性の体を持ち上げようとするのが不可能なことではある。

しかし、それに関しては、先程も使った身体強化の魔法でその体格差を埋めることはできる。訓練をしていないマリーでも、身体強化を使えば、成人男性1人ほどなら軽々と持ち上げられるはずだ。実際、今も背に腹はかえられぬと身体強化を発動させているのだが。


「ちょ、魔法使いが体を鍛えないでくださいな!」

「ほう。過去にも教えたはずだが、魔法を使えなくなった魔法使いがどれほど無能なのか知らぬ筈もあるまい?」


 お師匠様の純粋な筋力に負け、腕がピクリとも動かせない。


「物忘れの酷い愛弟子にもう一度教えてやろう。魔力の枯渇した魔法使いは砂に打ち上げられた魚と同義だ。普段から魔法にしか力を注がなかった結果、その源となる魔力がなくなった途端に、魔法使いはそこらの一般市民にも劣る。」


 ほら、過去にあった大型討伐の際、魔力枯渇を起こした阿呆がどこぞに居ただろう?とお師匠様が問いかけて来る。


(わたしだー!)


 そういえば、その年は異様に魔物が大量に発生し、国中の冒険者や騎士、魔法使いが討伐に駆り出されたのだ。


 もちろん私やお師匠様も例外ではなく、騎士団のいくつかの団と共に魔物の討伐に出たのだが。


 ペース配分を間違えた私は、魔力を無駄に消費してしまい、魔力枯渇を起こしてしまったのだ。攻撃を喰らう前にお師匠様が助け出してくださったのだが、それはもう怒られた。暫くはお師匠様の屋敷にある私の部屋から出して貰えないほどに。


「そ、そうなのですね〜!」

「そうだな」


 あはははは…と、私の乾いた笑い声が部屋に響く。気がついたら、にこやかな笑顔のお師匠様に身体強化の魔法を解除されていた。




「……さて、ところでだ、マリー」

「あ、あの、体勢は…」

「このままだ」

「え」

「このままだ」

「そ、そんな…いえ、はい、なんでもありません」

「よろしい」


 何もよろしくはないのだが、どうやらこのまま会話をするようだ。今すぐに逃げたい。

 仮にも初恋の男性が目の前にいるのだ。パニックにならない女性がいるだろうか。ちなみに私はパニック過多で、一周回って冷静になってきた。

……だめだ顔が近い。やっぱり離してほしい。




「それで、これからの住居の話だが」

「あ」

「私のタウンハウスが城下にある」

「の」

「暫く人の手は入っていなかったが、綺麗な状態で保存してある」

「ちょ、」

「丁度部屋もいくつか余っているのでな。既に君のご両親には話をつけた」

「自宅」

「な、の、で。急で悪いのだが今日から早速タウンハウスの方で過ごしてもらうこととなった」

「自宅から通わせて頂きます!」

「却下」


 即答で断られた。

もう少し一考の余地は無かったのだろうか。いや、あった筈だ。無いはずがない。なければ困る。というか、お父様にお母様。何を考えているのだろう。是非とも断って欲しかった。


「い、いやだって、何かと準備とか」

「問題ない。私が転移魔法で生活品を運んでやろう」

「い、いえ、侍女だって」

「1人だけなら侍女を許可してもいい」

「ドレスや習い事も…」

「ドレス?好きなだけ用意してやろう。明日には商人を呼ぶか。ふむ、習い事に関しても、サルファス伯爵に聞いたが、礼儀作法も、文学も、語学だって、全く問題ないほどにこなしているそうではないか」

「うぅ〜〜!」

「はは、もう終わりか?マリー」

「………ッわ、私!とっってもわがままな子です!なので、沢山の書物とか、ドレスとかのお洋服とか、キラキラした宝石とか、可愛いお人形とか!買ってくださらないと!」

「…」

「定期的に!お出かけでどこかに連れて行ってくださらないと、とっても怒りますし、そ、それに!沢山の綺麗なお花がお庭にないと!え、えっと、嫌ですし!美味しいお菓子も無いと、イライラしちゃいます!なので!」



 これ以上、一緒にいてはいけない。

 今日、この少しの時間だけでも。幸せを感じてしまったから。私はこの先一生、この幸せだけで生きていけるから。

例え、沢山の嘘をついても。私と、お師匠様の繋がりは、私自身が、身勝手にも、あの時一方的に断ち切ってしまった。だから、だから。


 私は、ひと時でもお師匠様の側に居るという幸せを甘受してはいけない。そのはずなのに。





「……いくらでも、叶えよう。好きなだけ、与えよう。マリー。君がもう要らないと、もう充分だと言い続けても」
















 どうして、そんなに嬉しそうに笑うのですか、お師匠様。


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