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7.話し合いって、大事だと思うんです。

 あの後、お母様はすぐに王妃様のお茶会に参加するため、そしてお父様はわずかに残っていた仕事と新たに出てきた案件と格闘するために、それぞれ慌ただしく部屋から出て行った。


 そして取り残された私とジョエルは、終始笑顔のオズワルド…いや、お師匠様と談笑しながらお茶会をすることになったのだが。


「ええ!?オズワルド様は、ドラゴンを単独で討伐なさった事があるのですか!」

「ああ。しかしあのドラゴンは大分低位のドラゴンだったからな。アンデット化もしていたから、知能も低かった。とても弱い部類になるだろう。そう大げさに言われてもな」

「いえいえ!ドラゴンですよ!ドラゴン!きっとそれを討伐なさるオズワルド様も恰好良かったんだろうなぁ……ねえ、お姉さま!」

「ええ、そうね」


 もう一時間ほどこの調子なのだ。


 お師匠様に会えた事でテンションが跳ね上がり、一向に降りて来る気配のないジョエルと、それに文句の一つも言わずに終始にこやかに対応するお師匠様。そして胃の痛みと格闘するもはやイエスマンと化している私。笑顔が引き攣っていないことを願うばかりだ。

 そして定期的に私に話を振るのをやめて欲しい。先程のアンデットドラゴンについても、実際に私は隣で討伐を見ていたのだ。


 お師匠様はああ言ったが、ジョエルの言う通り、ドラゴンはドラゴンだ。いくらアンデット化していようと、いくらドラゴンの中でも低級であろうと強いものは強い。もう一度言う。ドラゴンはドラゴン。

軽々とドラゴンを屠る人物など、この世界を端から端まで探しても、お師匠様以外にはいないと断言できる。

しかも、その時は丁度、私と新しい魔道具の発明、および展開について休憩がてらに論議していたのだ。

師匠は会話を遮られるのをとても嫌う。にも関わらず、出てきてしまったのだ。お師匠様よりも弱い私をピンポイントで狙って。近付いて来ないならばと見逃していた愚か者が、一瞬でお師匠様の地雷を踏み抜いた瞬間。


ーー消えたのだ。首が。


 絶命の嘆きを与える暇さえなく、一瞬にしてドラゴンの命は刈り取られた。今でもはっきりと覚えている。

あり得ないほどに早く展開された風魔法は、音すらも置いてきて、ドラゴンの首をスッパリと切り落とした。そして、数秒後に遅れてやってきた音と風に攫われ、大地は抉れ、木々は薙ぎ倒された。それによって北の領地にある領主の城の裏手にあった森の一部の景観が変わった。大変申し訳ない。

その後も暫く機嫌の悪かったお師匠様は、ブツブツと何かを呟きながらもう動かないドラゴンの死体を足蹴にしていたが、満足したのかパッと振り返ると、魔法を使って一瞬で死体を素材と腐肉に分けてしまい、サッサと処分していた。

 あれは正しく、討伐ではなく処分だった。そして私はお師匠様を怒らせてはいけないと再認識した。




 とまあ、このように。先ほどからジョエルとお師匠様の会話に上るのは、全て前世で私が関係しているものばかりだ。偶然ではなく、意図的にそうなるように会話を仕向けているのだろう。私がどう反応するのか、どう対応するのかを観察したいのか。


(意地でも反応してやるものですか)


 しかし、こちらもそう易々と正体をバラすつもりはない。バレているかどうかは別としてだ。気の持ちよう。何事にも諦めない心が大事。




「ーーところでオズワルド様。お姉さまは一体どんな訓練を受けるのでしょうか」


 暫くして、どうやらジョエルの興味は私の訓練内容の方に移ったようだ。キラキラとした目で私とお師匠様の顔を交互に見つめている。


「そうだな。マリーにこれから教えていくのは、主に魔力制御の方法になる。と言っても、ほとんど自分で出来てしまっているようにも見えるからな。しばらくしたらすぐに応用を教えることになるだろう。私は余りある才能を燻らせる趣味はないからな」


 そうなんですね!とまるで自分ごとの様にキラキラとした笑顔を咲かせるジョエル。私の癒しはここに。

しかし、今更感は無きにしも非ずだが、私の今世の目標はあくまでもお師匠様に近づかない事。このまま行くと昔の様に毎日お師匠様の屋敷に通うようになってしまう可能性がある。どうにかしてその事態は避けたい。


「ま、まさか!私なんてまだまだですから。それに才能なんて…」

「少なくとも、300年ほど前の過去の私くらいなら短い時間だが騙くらかせるだろう」

「そんな恐れ多い事」

「今度こそ、そう簡単に騙されるつもりはないがな」

「今度こそなんて…あはは、まさか誰かに騙された事でも?」

「…ほぅ?」


 あ、地雷踏んだ。


 先程まで表面上はにこやかに会話をしていたはずだが、お師匠様の笑顔が一瞬にして消え去って行った。気のせいか室内の気温も下がった気がする。私の首もドラゴンのように無くなってしまうかもしれない。いや、そんな薄情な事はしない人だと信じてはいるが。


(まずいまずいまずいまずい)


 過去にも片手で数えるほどだが、お師匠様の地雷を踏んだことがあった。

その時は散々で、一週間ほど部屋に監禁されたり、お師匠様の視線の中に必ずいるようにと鎖魔法をかけられたり。また、魔力が無くなるまで魔法を使わされたり…その他にも様々なお仕置きがあった。

大抵、身体的にも精神的にもキツイので、お師匠様は怒らせてはいけないというのが、当時お師匠様に訓練を監督してもらっていたアレクセイとアリアと私の暗黙の了解だったのだ。


 そして今、私はそんなお師匠様の地雷を踏んだ。


「…そうだな。ジョエル君。君は暫く中庭に行くといい。私が年中咲くようにと魔力で品種改良を施したマリーゴールドが咲き誇っているからな。中々に見応えがある」


(やめ、やめてお師匠様!私の癒しを!)


「マリーゴールドですか!お姉さまのお花ですね!あ…でも、中庭への行き方がわかりません…」


(そ、そうよね!ジョエル!行き方が分からないわよね!お姉さまが一緒に行きましょうか!)


「案ずるな。私が転移魔法で連れて行ってやろう。帰りは近くを歩いている侍女でも捕まえたらいい」


(お師匠様さっき私を運ぶ時に転移魔法使わなかったですよね!?)


「本当ですか!転移魔法!やったぁ!」


(納得しないでぇ!!喜ばないで!行かないで!私の癒し!)


 そして私の無言の叫びも虚しく、次の瞬間、笑顔のジョエルはお師匠様の発動した転移魔法でその姿を消した。



 そして。



「……あ、あの、オズワルド様」

「お師匠様」

「オズワ「お師匠様」

「お、お師匠様…」

「あぁ。それか『オズワルド』か『オズ』でも構わないぞ、マリー」

「お師匠様」

「…なんだ」

「この状況は一体…」


 目の前に、それもほど数センチ前に、この世で最も美しい御尊顔があるのですが。なんなら両腕を固定されて、腰の辺りを体が動かないようにと跨がれているのですが。


「出来の悪い、わがままな弟子を押し倒しているのだが?」

「……は、話し合いって、大事だと思うんです!」


 切実に。その顔貌と美声のせいで私の心臓が壊れる前に。

お久しぶりです。生きてます。m(_ _)m

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