に
傭兵として契約して十年経ち、三年ほど延長して、契約は終わった。
色んなことをした。
雇い主に命じられるままに、汚れ仕事もたくさんした。
たくさんの命を奪った。
自分の身体も乞われるままに差し出した。
十年の契約が終わる時、後ろ暗い雇い主から継続を打診された。
まあ、俺を殺すのは惜しいと思ってくれた……訳ではなく、使い勝手の良い駒を惜しんだだけだろう。
このままでは飼い殺されることが目に見えていたが、例え逃げても、家に帰ることも出来ずに彷徨うだけ。
俺の名は悪い意味で割と有名になっていたからな。
……風の噂で、聞いた。
兄は金持ち商人の娘ではなく、自分が望んだ娘と婚姻し、子にも恵まれ、男爵を継ぎ、地道な領地経営が領民や周囲の領主に信頼されていることを。
すぐ下の弟は無事に町の学校に通い、教師の推薦を受けて王都の学校に進み、今では王宮に勤めていることを。
一番下の弟も刺繍の腕が有名な洋服屋の目に止まり、王家御用達の店で腕を奮い、やがて独立も夢ではないことを。
そして、三人と比べ、出来の悪い次男が道を踏み外し、ゴロツキとなってしょうもないと言われていることも。逆に言えば、俺がこうだから、兄弟たちの真っ当さが際だつ。……良いことだ。
それに、父が背負った借金は、兄弟たちが働き出してから一気に返済が進み、完済。
それどころか、父を陥れた詐欺師が捕縛され、全額とはいかなかったが一部金が戻ってきたらしい。
あいつら、頑張ったな。
まあ、俺はこのまま、雇い主の元で生きていく。
かませ犬? 上等だ。
そう、思っていたんだが、契約は呆気なく終わった。
雇い主が捕縛され、数々の罪状で処刑されたからだ。
その「数々の罪状」の実行犯は俺なワケで、王宮で働いているというすぐ下の弟に影響が無いことを祈りつつ、連座で処刑かぁ、と腹を括っていたんだが。
俺は取り調べもそこそこに釈放された。
なんでも、雇い主に逆らえない誓紋を刻まれ、操られていたに過ぎなかったからだそうだ。
禁術で俺を縛り付けていたとして、雇い主は罪状を加算されている。
……俺、誓紋なんて刻まれてねぇけどな。魔術が空っきしの俺でも、それ位は分かるぞ?
釈然としないながらも、出してくれると言うならばと王宮を出る時、遠くの窓から手を振る男がいた。
父より兄に似てるな……。
久しぶりに見る弟に軽く手を上げ、足を進めた。
取り調べの最中に弟に会うことはなかったが、俺が生きて王宮を出られるのは、あいつのお陰だろう。
片田舎の貧乏男爵の三男が出世したもんだ。
しかし、権力って、怖ぇな……。