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当て馬にも心がある  作者: 千東風子
番外編:かませ犬にも心がある

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10/10

番外編の終わりの話です。


 

 ギルドにじいさん家の依頼終了報告をして、領主から指名で依頼を受け、この国を出ることを告げる。


 荷物らしい荷物はないが、二年も暮らしていると細々とした物が常宿にはある。宿屋の主人にでも処分して貰えばいい。


 そう考えていたら、道端でビビ親子を見かけた。……ガキ共に頼むか。


「よう、ビビ。シュリ坊にユリ坊も」


「あら、カルロ、依頼(仕事)?」


「ああ、国を出ることになった。急で悪いが、駄賃やるから坊主たちに宿の引き払いを代わりに頼みたい。いいか?」


「え……とうとう誘拐するの?」


 依頼って言ったじゃねぇかよ。


「違う。婚姻が許された。しばらく面倒だから国外の依頼を受けた。ここを離れる」


「まあ! おめでとう、ね? いいわ。ご祝儀代わりに宿の引き払いは任せて」


 そう言って、ビビは俺に一筆書かせる。

 宿の引き払いをビビを代理にする事、物の処分はビビに任せること。抜け目がねぇな。


 ビビにはアリーチェとのことがバレている。俺の顔見て、「好きな女が出来たでしょ?」だもんな。こいつの勘は怖ぇ。


「シュリ坊もユリ坊も悪いな。このまま行くから会えて良かった。部屋にある武器類は使うなり売るなりしていいからな。じゃあな」


「僕はユリじゃなくてユーリだってば、もう! ……カルロさんとは、また会える気がするよ」


 魔術に()けた者の勘は侮れない。なら、また会うんだろうな。


「そうかい。楽しみにしてるぜ。……シュリ坊も、コイツらの面倒見て大変だろうがな。頑張れよ」


 俺は二人の頭をくしゃくしゃに撫でてやった。


 わあわあ何か文句を言ってたが知ったこっちゃねぇ。

 もうデカくなっちまった弟たちの代わりに撫でさせろ。





 泉で待っていたアリーチェを抱きしめ、もう離してやれないことを告げると、アリーチェは笑って、言ったんだ。


「もう離れてあげません」


 三十男が情けねぇが、顔を上げられねぇ。


 寂しい、辛い、痛い、怖い。

 何で俺だけ。

 気持ち悪い、汚い、汚い、汚い。


 ガキみてぇな感情が溢れ出るが、ふと、昔、母が大事にしていた音匤(オルゴール)の音を思い出した。

 裕福だったガキの頃、寝る前にグズると、母が聞かせてくれた音匤(おとのはこ)は、キラキラしたキレイな音がした。

 ……金が必要で、真っ先に売ってしまったが。


 黒い感情は、音匤に吸い込まれ、蓋がパタンと閉まった。


 開けたら、もう、綺麗な音しか出ない。


 どす黒い感情が去った後。

 ああ、こんな俺でも、心があったんだな。


 アリーチェが、愛おしい。





 西の国には難なくたどり着いた。

 黒の森境の町に行く途中には、故郷がある。

 ただ通り過ぎるだけのつもりだった俺の目の前には、記憶とあまり変わらない父と母、おっさんになった兄と弟たちとその嫁たち、そして、甥と姪と甥と姪と姪と……妹!?

 俺が家を出てから妹が生まれていた。俺が知らぬ間に、俺は五人兄弟になっていた。


 一族揃って、ガキ共以外は大号泣してるんだが……?

 初めましての嫁たちは何でだ?

 あ、ほら、赤子が異様な雰囲気に泣き出したぞ!

 つられてガキ共まで泣き出したじゃねぇかよ!


 一体俺にコレをどうしろと。


 やめろ、アリーチェ、俺の背を押すな!

 何でお前まで泣いてんだ!


 俺は泣いてねぇよ!


 俺が一歩踏み出したのをきっかけに、号泣する男たちにもみくちゃにされた俺は、弟の魔術で拘束されて家に強制連行され、しばらく構い倒される日々を送ることになるのだが、……それはあまり、言いたくない。


 母が、音匤を買い戻していて大事にしているのを見て、「あなたの一番のお気に入りだったもの」と言うもんだから。


 泣いてなんかねぇぞ! 笑うな、アリーチェ!



最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


これで番外編が終わり、「当て馬にも心がある」は、完結です。


ミケーレ君やアリーチェの両親の話は、別の話の中や短編で考えています。


たくさんの方に読んでいただき、大きな喜びと、少しの恐ろしさも感じています。


これからもきちんと物語が伝わるように、頑張って書きますので、どうぞお付き合いください。


最後に、大事な時間を割いて読んでくださったことに、心からの感謝を!


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