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番外編の終わりの話です。
ギルドにじいさん家の依頼終了報告をして、領主から指名で依頼を受け、この国を出ることを告げる。
荷物らしい荷物はないが、二年も暮らしていると細々とした物が常宿にはある。宿屋の主人にでも処分して貰えばいい。
そう考えていたら、道端でビビ親子を見かけた。……ガキ共に頼むか。
「よう、ビビ。シュリ坊にユリ坊も」
「あら、カルロ、依頼?」
「ああ、国を出ることになった。急で悪いが、駄賃やるから坊主たちに宿の引き払いを代わりに頼みたい。いいか?」
「え……とうとう誘拐するの?」
依頼って言ったじゃねぇかよ。
「違う。婚姻が許された。しばらく面倒だから国外の依頼を受けた。ここを離れる」
「まあ! おめでとう、ね? いいわ。ご祝儀代わりに宿の引き払いは任せて」
そう言って、ビビは俺に一筆書かせる。
宿の引き払いをビビを代理にする事、物の処分はビビに任せること。抜け目がねぇな。
ビビにはアリーチェとのことがバレている。俺の顔見て、「好きな女が出来たでしょ?」だもんな。こいつの勘は怖ぇ。
「シュリ坊もユリ坊も悪いな。このまま行くから会えて良かった。部屋にある武器類は使うなり売るなりしていいからな。じゃあな」
「僕はユリじゃなくてユーリだってば、もう! ……カルロさんとは、また会える気がするよ」
魔術に長けた者の勘は侮れない。なら、また会うんだろうな。
「そうかい。楽しみにしてるぜ。……シュリ坊も、コイツらの面倒見て大変だろうがな。頑張れよ」
俺は二人の頭をくしゃくしゃに撫でてやった。
わあわあ何か文句を言ってたが知ったこっちゃねぇ。
もうデカくなっちまった弟たちの代わりに撫でさせろ。
泉で待っていたアリーチェを抱きしめ、もう離してやれないことを告げると、アリーチェは笑って、言ったんだ。
「もう離れてあげません」
三十男が情けねぇが、顔を上げられねぇ。
寂しい、辛い、痛い、怖い。
何で俺だけ。
気持ち悪い、汚い、汚い、汚い。
ガキみてぇな感情が溢れ出るが、ふと、昔、母が大事にしていた音匤の音を思い出した。
裕福だったガキの頃、寝る前にグズると、母が聞かせてくれた音匤は、キラキラしたキレイな音がした。
……金が必要で、真っ先に売ってしまったが。
黒い感情は、音匤に吸い込まれ、蓋がパタンと閉まった。
開けたら、もう、綺麗な音しか出ない。
どす黒い感情が去った後。
ああ、こんな俺でも、心があったんだな。
アリーチェが、愛おしい。
西の国には難なくたどり着いた。
黒の森境の町に行く途中には、故郷がある。
ただ通り過ぎるだけのつもりだった俺の目の前には、記憶とあまり変わらない父と母、おっさんになった兄と弟たちとその嫁たち、そして、甥と姪と甥と姪と姪と……妹!?
俺が家を出てから妹が生まれていた。俺が知らぬ間に、俺は五人兄弟になっていた。
一族揃って、ガキ共以外は大号泣してるんだが……?
初めましての嫁たちは何でだ?
あ、ほら、赤子が異様な雰囲気に泣き出したぞ!
つられてガキ共まで泣き出したじゃねぇかよ!
一体俺にコレをどうしろと。
やめろ、アリーチェ、俺の背を押すな!
何でお前まで泣いてんだ!
俺は泣いてねぇよ!
俺が一歩踏み出したのをきっかけに、号泣する男たちにもみくちゃにされた俺は、弟の魔術で拘束されて家に強制連行され、しばらく構い倒される日々を送ることになるのだが、……それはあまり、言いたくない。
母が、音匤を買い戻していて大事にしているのを見て、「あなたの一番のお気に入りだったもの」と言うもんだから。
泣いてなんかねぇぞ! 笑うな、アリーチェ!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
これで番外編が終わり、「当て馬にも心がある」は、完結です。
ミケーレ君やアリーチェの両親の話は、別の話の中や短編で考えています。
たくさんの方に読んでいただき、大きな喜びと、少しの恐ろしさも感じています。
これからもきちんと物語が伝わるように、頑張って書きますので、どうぞお付き合いください。
最後に、大事な時間を割いて読んでくださったことに、心からの感謝を!




