第94話「父と娘」
『私は当初それを”アンチヒーローデリートプログラム”と名付けたが、やがて大きくなってくると”ゾーレ”と名付けて、娘として育てていったのだ。
最初は愛情などは無く、あくまでも”異世界転生殺し”に対抗するための兵器として作った』
ここまで読んで、ゾーレは黙った。
「・・・どうした?ゾーレ・・・」
デリトが話しかけたが、はっとして口を閉じた。
ゾーレは目に涙をいっぱいためてマクスガムの手記を見つめていた。
「・・・・・・!」
突然、ゾーレは手記を放り出して走り出した。
「おい、ゾーレ!」
デリトは追いかけようとしたが、ふと、ゾーレが落とした手記を拾い上げ、中を読んでみた。
そして、デリトは手記を読み終えると、すぐにゾーレが走っていった方向へと走り出した。
「ぐす・・・ぐす・・・。」
しばらく経った頃、ゾーレはまだ泣いていた。
父マクスガムとの記憶を思い出し、ある時、優しい父が言った言葉をまだ覚えていた。
『ゾーレは私の大切な娘だ。だが、魔王の娘ということはあまり考えず、何不自由なく幸せになってほしい。』
その言葉には嘘偽りが無いと思っていたが、手記を読んでみてそれが見せかけの愛情だったのではないかと思い、またしても涙が溢れてきた。
ゾーレが大きくなるにつれ、父は当たりが強くなっていったのは兵器としての才能が開花しない自分に苛立ちを覚えたのではないかと考えた。
冷たい父の態度は魔王化の進行によるものだと思いたかった。
ずん、と暗い思いになり手持ち無沙汰になって魔法で短剣を出現させた。
そういえば魔法で武器を出現させたり、物を創り出すこの能力は父に教えられたものだった。
『お前は私の本当の子だから、他の人にはできないこういうこともできるんだ。誇らしいぞ、ゾーレ。』
ニコニコと笑いかけてくれる父の姿が嬉しくて小さい頃はよくこの力、父は”創造”といっていた力を良く練習していたものだった。
ゾーレは魔力を集中させ、宙にユニコーンのぬいぐるみを創り出してみた。
『純潔の象徴ユニコーンだ。だが、私には深い意味はなく、ただ単に美しく見える。
純白で繊細だが、力強い角を持つユニコーンはまぶしすぎるが、お前にはとても似合うよ。』
そう言ってゾーレによくユニコーンを見せてくれたのだった。
「ゾーレ、ここにいたのか。」
そこへデリトが現れた。
「・・・・・・来ないで。」
ゾーレは珍しくすねて、ぷいとそっぽを向いた。
「・・・俺には、父親はいない。」
はっとしてゾーレはデリトの顔を見た。
そこにはどこなく哀しげにも見える無表情だが、力強くまっすぐ見つめるデリトの目があった。
「厳密には、父親のものらしき記憶はあるが、今となってはルシファーの記憶をコピーされたものだと自分で分かる。
自分のものではなく、他人の記憶だという印象しかない。」
再びうるうると瞳を輝かせはじめたゾーレにデリトは慌ててつけ加えた。
「だ、だが、それが嫌ということじゃない。俺にはルシファー・・・いや、ボッチェレヌや、戦いあった仲間たち、エライトたちもいる。
もしかしたらウルレカッスルも本当は味方で敵じゃないかもしれない。
そして、ゾーレ。君も。」
「デリト・・・。」
「俺は君のことを大切に想っている。おそらく、単なる仲間ではなく色々な感情から。」
本来は空っぽの戦闘人形であるデリトにはこの心に感じる温かいものが何なのか、本当にそこにあるものなのかが分からなかった。
「だが、君の父も俺とは違った意味で君のことを大切に想っていたんだ。ほら、ここを見てみて。」
デリトは先程ゾーレが放り投げたマクスガムの手記を手渡して、続きを読ませた。
『私は当初それを”アンチヒーローデリートプログラム”と名付けたが、やがて大きくなってくると”ゾーレ”と名付けて、娘として育てていったのだ。
最初は愛情などは無く、あくまでも”異世界転生殺し”に対抗するための兵器として作り、兵器として育てた。』
「これが何なの!?私は・・・お父さんの、マクスガムの本当の子供じゃない。
しかも、兵器として育てられたなんて・・・。」
「その通りだ。だが、続きをよく読んでみろ。」
「続き・・・。」
ゾーレは先を目で追い始めた。
『しかし、”アンチヒーローデリートプログラム”を兵器として育てていたつもりだが、この子が感情を持ち、ニコニコと笑い、ギャアギャアと泣くようになっていった。
いつの間にか私はこの子を娘として認識し、愛するようになっていった。
この子は文字通り、私の血肉を分けた存在だ。決して無味乾燥なプログラムなどではなく、私の娘なのだ。』
「・・・・・・。」
ここまで読んで、ゾーレは呆然としながら再び先を急いだ。
『現実世界では”メメント・モリ(死を想え)”という「いつか死ぬことを忘れるな」という意味の言葉があるが、異世界”タンファージ”には楽観的な格言で”ゾルレ(生きていることが一番幸せなことだ)”という格言がある。
死ぬことを考えずに今を楽しく生きようという意味だが、私はこの言葉が好きだった。
”異世界転生殺し”として死を超える恐ろしい所業をしてきた私はこの言葉に救われていたのだろうか。
とにかく、私は”生きる喜びを感じてほしいと考え””ゾーレ”と名付けて、娘として育て始めた。』
「・・・・・・。」
ゾーレの涙がぽたりと手記にこぼれ落ちた。
それから先はマクスガムの手記はゾーレについての成長日記となっていた。
その間、魔王軍と敵対する王国軍とは苛烈な戦争が続き、異世界タンファージが荒廃していったのは事実だったし、年が経つに連れ段々と父が冷たくなっていった感じがあった。
手記にも進む魔王化に苦しむマクスガムの心情がそこには綴られていた。
しかし、ゾーレにとっては最高の父親であったし、娘に対する愛情がその手記にはこもっていた。
最後のページには異世界転生者ブラックウィンドの侵攻とおそらく”異世界の大原則”によって、それに負けるだろうという予測が書かれていた。
そして、最後のページにはそれまでの手記に記してあった精緻な文字ではなく、感情が抑えきれず書いたのだろうか。
走り書きで、気持ちをそのままあらわしたような文字でこう書かれていた。
『我が娘ゾーレ。愛している。』
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・異世界転生殺し
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・SEX ANDROID(完結)
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