第76話「”管理者の箱舟”」
異世界”イート・イン”を支配する”美食魔王”クイシンボウが真の姿を出して暴れ始める。
しかし、そこに天空から巨大な空中戦艦が現れて・・・?
異形となった”美食魔王”は暴れながらあたりにいる”伝説のグルクリ”をなぎ倒して何かに突進している。
この異世界において圧倒的な力を持つ”伝説のグルクリ”をいとも簡単に吹き飛ばす”美食魔王”は間違いなくこの異世界の頂点に存在していた。
今、”美食魔王”が突進しているのは”O.W.H.L”のコートを羽織っているスーツ姿の男性だった。
”美食魔王”は突進を繰り返すが変形する盾によって全て防がれていた。
「クイシンボウといったかな?諦めることだね。我が”権能”である”デルタガーディアン”は絶対防御。いつ、いかなる時、どんな方向だとしても攻撃は通さない。」
「ぐぅ・・・!アタシの”調理”形態が通用せぬとは・・・!お前何者なの・・・!」
「そういえば自己紹介が遅れたな。私としたことが・・・。私は”O.W.H.L.”の第二聖を担当しているネゲテーテ。
君のような欲にまみれたものには私の”デルタ・ガーディアン”を貫くことはできまいよ。」
「”O.W.H.L”・・・!」
”美食魔王”はギリ、と歯ぎしりした。
この異世界において頂点だったアタシが、全ての美食を食い尽くしてきたのに、全く歯が立たないだと・・・。
「あなた、こまっているのね!」
「わたし達が助けてあげる!」
気づくと”美食魔王”の両肩に黒髪の女性と白髪の女性が立っていた。
”魔王連合”の四天王である双子の美少女魔王キ・ラとイシ・ムだった。
実は、異世界転生武料理大会が始まってからいつの間にかデリトたちのもとから離れ、異世界”イート・イン”を放浪していたのだ。
「あんたたち・・・何者・・・」
言いかけて”美食魔王”は目を大きく開けた。
「まさか・・・」
「ん?何?」
双子の魔王がむしゃむしゃと食べている黄金色に輝くものに見覚えがあった。
それはこの異世界の”伝説のグルクリ”の中でも頂点に立ち、その出現生の低さから幻のグルクリにしてグルクリの王様と呼ばれるゴールドレインフェニックスの翼だった。
実は”美食魔王”も一度目にしたことはあったが、倒すことができず逃げられてしまったのだった。
「んー、なんか散歩してたらキラキラ光っててきれいだったから刈りとっちゃった!」
「ザコだったしね~、でも食感パリパリしてるのにジューシーな肉汁にも溢れててうんまい!」
ケラケラと笑う双子の少女の姿をした魔王を見て”美食魔王”はおののいた。
「この異世界最強とも言われるゴールドレインフェニックスをそんな、いとも簡単に倒すなんて・・・。」
二人は”美食魔王”の肩からぴょんとおりると、盾を持つネゲテーテに言った。
「私達が相手になってあげるよ。」
「なんかアンタださーい。弱そうだし・・・」
「確かに!絶対防御ってなんなの?守ってばっかで攻撃してこないとかダサすぎ!ワロタw」
ネゲテーテはピキピキと額に筋を浮かべて怒りの表情を顕にした。
「貴様ら・・・!いきなり現れたかと思えば・・・!」
しかし、その時、突如として空が光り輝き、巨大な空中戦艦が現れた。
「「”魔王連合”の皆さん。美食魔王” 喰神母雨”。そして、デリト。安心してください。あなた達はこの”ジェネシス・フォートレス”で守ります。
さぁ、ここへ戻ってくるのです。」」
脳に響くその声は先程一瞬空中に現れた”反逆の女神”ウルレカッスルだった。
エライトが持っているであろう”方舟の鍵”を警戒して、彼女単体ではなく空中戦艦型異世界”ジェネシス・フォートレス”ごと異世界”イート・イン”へ突っ込んできたのだった。
”ジェネシス・フォートレス”は異世界の法則に干渉し、別の異世界に巨大空中戦艦として実体化することができるのだった。
「ふーん、ま、いいや。そろそろこの異世界も飽きてきたし。命拾いしたね。臆病者さん。」
ネゲテーテに向かってそういうと黒髪の美少女魔王キ・ラは跳躍して”ジェネシス・フォートレス”へと向かった。
「ほらアンタもいくよ。」
白髪の美少女魔王イシ・ムは自分の体の数十倍はある”美食魔王”の体を軽々とひっぱると遥か上空の”ジェネシス・フォートレス”へと跳んだ。
「デリト君たちもさぁ、いくよ!」
他の異世界転生者たちと戦っていたライゼレがデリトたちのもとへと戻ってきたが、エライトともうひとりの異世界転生者がその道を阻んだ。
「おやおや、”魔王四天王”ライゼレ。君の相手は僕だ。
”ライト・ウォーカー”を使っても攻撃をほとんど流されるとは恐れ入った。君は相当に強いようだね。
・・・デリト、君とは色々あったが、僕は君に謝りたいことと、伝えたいことがある。
信じられないと思うが、今は、信じてくれ。お願いだ。」
エライトはライゼレから目をそらさぬよう振り返らずそう言った。
デリトは黙っていた。
エライトとの確執はあったが、その声には真摯な気持ちを感じた。
なによりかつて”ギガンテス・オケアノス”にて本来望んでいなかったベイスレとの避けられなかった戦いを思い出し、今回は和解できると思いたかった。
「おやおや、デリト君。いいのかい、そんな奴のいうことを聞くのかい。エライトが君や、そして彼自身の異世界の人々に何をしたか覚えていないとでも?」
ライゼレはエライトが彼自身の兄を葬ったこと、その国の人たちごと世界中から記憶を消したことを言っているのだった。
「・・・ライゼレ。お前には助けられた。俺らは、魔王は、勇者たちは戦う必要があるのか?一旦、話し合ってみないか。」
「デリト君。君は何もわかっていないね。わかり合うとかそういった次元じゃないんだよ、この戦いは。」
出会って初めて、ライゼレはイライラとした表情を見せた。
「すまない。俺が今、馬鹿なことをしているのは分かっている。だが、可能性に賭けたいんだ。エライトが、異世界転生者たちが本当に信じられるかどうか。」
「・・・君は何もわかっていない。」
ライゼレはもう一度そう言うといつの間にかそばに来ていた秘書のレーゼを抱きかかえ”ジェネシス・フォートレス”へと途方もない跳躍力で跳んだ。
途中、振り返ったその目は憎しみや怒りではなく哀しみのみがあるように見えた。
「「「デリト。聞こえますか。」」
ウルレカッスルの少し焦った声が脳に直接響いた。
「ウルレカッスル。俺は、お前を信じるかどうか悩んでいる。”戦国乱世”に転移したとき、お前はわざとボッチェレヌとゾーレを置いていったな。
俺だけを1人にしようとした。それがわかっていないとでも思ったか?」
「「デリト・・・これには理由があります。どうか・・・」」
しばらく黙っていたがウルレカッスルは懇願するような声で言った。
「それなら今説明してくれ!」
「それは・・・」
ウルレカッスルがためらいながら何かを言いかけた時、
またしても空が光り輝き”ジェネシス・フォートレス”と同じくらいの大きさの空中戦艦が現れた。
真っ黒で禍々しい姿をした”ジェネシス・フォートレス”と対象的にまばゆく光るような真っ白な戦艦はところどころ金や銀の装飾で彩られ荘厳さが漂っていた。
「あれはまさか・・・!」
珍しくウルレカッスルの声が震えているのが分かった。
「何あれ・・・!?」
ゾーレは”ジェネシス・フォートレス”だけでも驚いていたが、もうひとつの巨大戦艦の出現に頭が追いついていけなくなった。
どちらの巨大戦艦もそれぞれ、今数万人単位で集まっているこのグランキッチン・コロシアムよりも遥かに大きく、空を覆いそうだった。
「我らが母艦”管理者の方舟”さ。異世界”ジェネシス・フォートレス”はあれを模して造られた戦艦型異世界だ。」
エライトがゆっくり歩いてきて落ち着いた雰囲気で説明した。
「”管理者の方舟”・・・。」
デリトは呟いた。
その名に聞き覚えがあるような気がした。
「そう。異世界を転移するための異世界が”管理者の方舟”。異世界というものが始まった時、全ての異世界の創造神たる”管理者”が各異世界へ渡るために作り出した異世界型の装置とでもいうべきか。」
「異世界の創造神”管理者”だと・・・?」
ウルレカッスルからその存在を聞いたことが無かったデリトは驚いてエライトを見た。
嘘を言っている顔ではなかった。
ボッチェレヌもゾーレもあまり話についていけずポカンとしていたが、デリトは知らない事実が出てきてさらにウルレカッスルへの疑念が深まっていた。
「かつて異世界が始まった時、転生の女神はおらず、”管理者”と複数の異世界転生者のみだった。彼は直接的に異世界転移させる能力を持っておらず、異世界転生者は”創造神の方舟”にのって”原初の異世界”から、そうだな、デリバリーされていたというべきか。」
エライトは何か自嘲気味にフッと鼻で笑ったようにみえた。
「Uv●r Eatsならぬ、Uv●r Herosってわけか・・・!」
ボッチェレヌが神妙な顔でボケていたが、あまり分かっていないということらしかった。
その時、”創造神の方舟”の側面に無数についている大砲から一斉射撃が行われ始めた。
雨霰のように砲弾が”ジェネシス・フォートレス”に撃ち込まれ各部が破壊された。
”ジェネシス・フォートレス”の司令塔では大きな衝撃を受けてウルレカッスルが慌てていた。
「くっ・・・”ジェネシス・フォートレス”反撃しながら転回・・・!離脱します!」
”管理者の方舟”を模して造られた”ジェネシス・フォートレス”にも全く同じく砲台が無数についていたが、意表をついた先制攻撃を受け、既に不利な状態だった。
対抗して射撃を始めたが、”反転して異世界”イート・イン”から離脱を始めた。
「逃げてく・・・!」
ゾーレはまだ真上を見上げながらポカンとしていた。
「デリト必ず・・・!」
ウルレカッスルは離脱する”ジェネシス・フォートレス”の司令塔で唇を噛んで呟いた。
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