第66話「少年ヤンチスのフルコース」
異世界”イート・イン”で”最果ての料理人”ヤンチスからフルコースをご馳走された一行。
デリトはその中で、今まで気づいていなかったゾーレの少女らしさに微笑みを浮かべる。
「・・・天下一武料理大会?」
デリトは聞いたことがあるような無いような聞き慣れない言葉に面食らっていた。
「ああ。世界中の料理人が参加し、そこら中にいるグルクリを狩りながら、世界一の料理をつくる場所だ。
そして、世界一の称号をもらったものは”美食の魔王”と呼ばれ、全ての食材、全ての料理人を従え、世界を支配するのさ。」
「な、なるほど。」
なんだか分かるような分からないような話にデリトとゾーレは何となく頷いていた。
「ふーむ、料理人の異世界ときたか。また、異色の異世界に飛ばされたものだね。」
ライゼレがさすが”異世界転生殺し”だというふうに首を振った。
そういえば、ウルレカッスルは双子の魔王を護衛に付けると言っていたのに、なぜライゼレも来ているのだろうか。
「ていうか、そんな平和な異世界に暴虐の限りを尽くす異世界転生勇者がいるもんなんですかね?
お前の料理はクソだ!これなら俺のションベンの方が100倍旨いぜ!ヒャッハー!とか言うんですかい。」
ボッチェレヌがいつもどおりブラックジョークを挟む。
「やめろ。汚い。」
デリトは綿菓子のようなボッチェレヌの口をひっつかんで黙らせた。
「グルクリって何?」
これまで黙っていた双子の魔王のひとり白髪のキ・ラが少年ヤンチスに聞いた。
「・・・おめえら、グルクリ知らねぇってどんな人間だよ・・・。常識だろ?ジョーシキ。
まさか異世界から来たわけでもあるまいし・・・。」
そのまさかだとは、まだ少年ヤンチスがどういった立場のものか分からないうちには言えなかった。
「いいかぁ、グルクリっていうのはなぁ。
グルメクリーチャーの略で、土や空気など元素的なもの以外はグルクリなのがこの異世界なんだよ。
肉や魚、野菜はもちろんのこと、金属に至るまでほぼ全てがグルクリの体から採取されるものなんだぜ。」
「なるほど~!そのグルクリを狩るのがグルメハンターとか呼ばれているわけね!」
黒髪の双子魔王イシ・ムがポンと手を叩いた。
「なんだグルメハンターって。グルクリを狩るのは基本的には料理人さ。
料理人以外からはバトルコックとか呼ばれてるけどな。」
「ロボコ●プ?」
「じゃあ、君もバトルコックなの!?」
ボッチェレヌの小ボケを無視してイシ・ムがヤンチスの手をとった。
「あ、ああ。そうだぜ。俺は世界一のバトルコックになる男さ。
今日のナナイロブスターは明日から始まる大会に向けての個人的な前夜祭みたいなもんだ。」
ヤンチスは美少女に手を握られてデレデレしている。
「いいなぁ~!美味しそうだなレインボーロブスター!私も食べた~い!」
白髪の双子の魔王キ・ラもヤンチスのもう一つの手をとった。
「お、おう、いいぜ。明日からの戦いに向けて一人じゃ盛り上がんねぇって思ってたとこだからな。わいわいとやるのも悪くねぇ。
明日は早くないしな。どうだ、お前らも来るか?」
ヤンチスの顔は照れで真っ赤になっていた。
「行く行く!」
ゾーレも興味津々という感じだった。
残った男性陣は顔を見合わせたが、相談の上、異世界転生勇者や魔王のいる可能性が高い天下一武料理大会の見学に行ってみることにした。
ヤンチスはその日は天下一武料理大会の会場がある崖の下までナナイロブスターを運んでいくのは大変だからと崖の上で調理しようとしたが、魔王ライゼレはひょいとナナイロブスターを持ち上げた。
「これを崖の下まで持っていけばいいのか?」
「おぉ・・・お前力持ちだべ・・・。トロいけど力はあんだなぁ。」
ナナイロブスターに襲われそうになっていたので、ヤンチスはライゼレのことをトロいと思っていた。
ただ、たしかに、ライゼレはゆったりと構えていて、素早い印象は受けたことが無かった。
そうやって、ひょいひょいとライゼレは自分の体の何十倍もあるナナイロブスターを片手で持ちながら崖の下まで運び一行は、天下一武料理大会の会場を見上げるような位置でヤンチスの手料理を振る舞ってもらうことになった。
あたりにも明日の天下一武料理大会に参加するのであろうバトルコックらしき人が何百人、何千人という単位でおり、
それぞれテントを張ったり、火を起こして料理をしていた。
「うわぁ、すごいいい匂いに溢れてる・・・。」
ゾーレは鼻をくんくんとした。
意外にもゾーレは美味しい料理に目が無いようだった。
あたりのバトルコックの料理にも興味津々でよだれがたれそうだった。
あまり自分から主張をしないのでデリトはゾーレのことがまだ良くわかっていない部分が多かったが、勝手にクールで大人びた印象を持っていた。
美味しい匂いに誘われてぴょんぴょんとはねてどこかへ行こうとするゾーレの服を右手で捕まえながら可愛い部分があるんだなと思った。
「さーて、できたぞ!”最果ての料理人”ヤンチス様による、ナナイロブスターのフルコースだ!」
そう言ってヤンチスは一行の前に料理を並べた。
ナナイロブスターのボイルからロブスタークリームパスタ、スープにいたるまでナナイロブスターづくしだった。
ちなみにパスタも野菜もグルクリの一種から採ってきたものだった。
「すごい!ナナイロブスターのボイル、ぷりぷりのほくほくでぎゅっと旨味がつまってるし、このソースも美味しい!」
ゾーレがさっそく料理にかぶりつき、舌鼓を打つ。
「ああ、それは細かく砕いて炒めたソラトビオニオンとナナイロブスターのエビミソを混ぜ合わせた特製ソースだ!
ソラトビオニオンはその名の通り、鳥みたいに空を飛んでぎゅっと栄養が詰まっている。
オニオンの甘みとエビミソのコクがいい感じだろう??」
バトルコックのヤンチスはどうだと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「おお、これは素晴らしい香りと食感だな!」
魔王ライゼレもふわりとスパイスの香るエビカツカレーをかきこんでいた。
「おう、それはな。ライスミミックつって、土鍋ご飯みたいな見た目の擬態グルクリの身を使ってんだ。
普通の米に加えてツヤとモチモチ感が特徴だ。しかも自分で炊く必要もないし、ライスミミック自体の息の根を止めないで動けないよう縛っておけばホカホカの状態でしばらく保っておけるんだぜ。
さらに衣もそのご飯を潰してもち粉みたいにすることでカリカリにコーティングしているからカレーに浸かってもカリカリが持続するってわけよ!」
その後もナナイロブスターのフルコースは全て美味しく、〆にはアイスクロウと呼ばれる溶けないアイスクリームの体を持つ鷹の卵、アイスエッグだった。
割るといろいろな味のアイスが出てくるのだが、そこにナナイロブスターのえびせんが加えられ、甘くてしょっぱい味が楽しめた。
デリトはゾーレの喜ぶ姿を見て安心した。
ゾーレを旅に加えてからというものの、常に戦い続きだったが、やっとゆっくりと安心できる瞬間ができた。
今までずっと緊張していたように見えた彼女の表情も柔らかく年齢相応の無邪気なものに見え、一瞬、
なぜかゾーレと瓜二つだった”異世界転生無双”刀子と重なってみえ、デリトは慌てて目をこすった。
それから大会前夜祭として宴は楽しく続いた。
しかし、そんな一行の姿をじっと見つめる者がいたことには誰も気づいていなかった。
「あれが”異世界転生殺し”・・・。」
その人物はひとり物陰で呟いた。
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