第61話「時を超えて。」
デリトの反撃にエライトは負けたと思われたが・・・?
彼の頭の中に前世の兄の言葉が語り掛ける。
「<インフィニット・ウェポン>!」
デリトの放った呪文により、頭上から大量の爆弾が降り注いできた時、エライトは死を覚悟した。
前世を含めた記憶が走馬灯のように駆け巡った。
「兄貴・・・、俺、負けちまったよ・・・。」
エライトはスタンライト、兄・勇機のことを思い出しながら心の中で呟いた。
そのまま、頭上で爆発する大量の爆弾を見た瞬間、再び兄の声が聞こえた気がした。
「・・・何度でも立ち上がれ。光機。諦めるな。」
その言葉は記憶の中の断片のはずだったが、しかし、エライトは目の前で兄が笑って自分を励ましているような気がしていた。
「僕は、負けない。また、走り出す・・・!!!」
兄の言葉に後押しされるようにエライトは瞬間的に自分の感覚を研ぎ澄まし、自分の体を、心を探った。
それは完全なる一瞬にも満たない間だったはずだが、
やがて、彼は答えを見つけた。
「光よ、時間を超えろ。」
そう呟くと、
グン、とエライトは体が宇宙の彼方へ飛んでいくような感覚を覚えた。
そして、ゆっくり目を開けるとエライトは数分前に戻っていた。
目の前には数分前と同じく、怪訝な表情をし、兄スタンライトの姿をしたデリトが立っていた。
そう、なぜかは分からないがエライトは光の速さを体現できる自分の”権能”<光速の聖剣>を進化させ、時間をも超えることができるようになったようだった。
「何だ・・・?何かが変わった・・・?」
そのことに気づかず、数分前と同じくデリトは眉をひそめた。
「お・・・おい、ちゃんと立ったぞ・・・?」
ツヴェがそう言うと、ゾーレとボッチェレヌも警戒して構えた。
「エライト・・・」
メリオノーラスは涙を流しながら心配そうにエライトを見つめた。
細かい状況は正直飲み込めていないが、デリトとエライト、どちらにも勝ってほしくなかった。
戦いに決着をつけないでほしかった。
「僕は、負けない。負けちゃいけないんだ。
償いきれないほどの罪を犯したのは事実だ。だけど、償わないといけない。
この命をかけて、一生をかけて償う。」
エライトは聖剣ゴールドシルバーを持ち直した。
「「大丈夫か。エライト。」」
金髪幼女の姿をしたゴールドシルバーがエライトに語り掛けた。
「ああ、ありがとう。ゴールドシルバー。
僕はデリトを倒す。
”異世界転生殺し”を倒し、この異世界に、全ての異世界に平和をもたらす!」
エライトは先程までと打って変わって、強く地面を踏みしめ、一歩を踏み出した。
ここまで全て数分前とほぼ全く同じ流れだった。
しかし、唯一、エライトのみが違った。
「そして、この力を使う!
<光よ、時間を超えろ>!」
再びエライトは自分の体が宇宙の果てへと吹き飛んでいくような感覚を持ったが、前回とは少し感覚が違い、自分が早く飛ぶというよりかは周囲の時間が遅くなって見えたような気がした。
ここから先は、エライトではなく、周囲から見た彼の状況である。
「消えた・・・!?」
デリトが撃った弾丸はエライトのいたはずの場所を撃ち抜いたが、光の転生勇者の姿はそこには無かった。
「な、なにかがおかしいでやんす・・・。」
ボッチェレヌもキョロキョロとしたが、辺りには彼の姿どころか、気配すら感じなかった。
「くそっ、エライトどこに行った・・・」
デリトがそう言って辺りを見回した時、突如としてデリトは後ろに何かの気配を感じた。
「なっ・・・」
それは時を超えて今度は未来へ飛んだエライトだった。
エライトに吹き飛ばされ、再びデリトは広場の周囲の建物を破壊した。
2人の戦いで既に広場の周りの建物はほとんど倒壊してしまっていた。
「てめぇ、どこから現れた・・・。」
「・・・まだ正確にコントロールできていないな。ゴールドシルバー、お前はこの感覚は共有しているのか?」
『いや、一体なにをしたエライト・・・。私は意識が飛んでいてここ数秒の記憶がない・・・。』
エライトのにぎった剣の中でゴールドシルバーが答えた。
実はエライトとゴールドシルバーの2人は意識を共有しているはずだったが、エライトが時間を超えている間は例外だった。
「なるほど、やはり”権能”は異世界転生者本人のみのものという原則は継続されているのか・・・」
ブツブツとエライトはつぶやいていたが、デリトが攻撃してきたため素早くとびのいた。
「エライト、お前の本当の”権能”はそれか・・・?
てっきり光の速さで動くのが”権能”かと思っていたが、姿や気配を消すのか?」
そうではない、他の可能性だと思いながらもあえてデリトは聞いた。
「どうかな。確かに僕の”権能”は言ってしまえば”光の速さで動ける”それだけだった。ただ、今回の本当の”権能”という言い方は正確でないかもしれない。
新しい”権能”というべきか・・・?」
「新しい”権能”だと・・・!だが、”権能”は異世界転生者につき1つではないのか・・・?」
「さて、どうかな?」
ニヤリと笑うとエライトは再び消えた。
どちらかといえば”権能”の進化というほうがふさわしいのかもしれない。
”権能”が進化するなど転生女神長ユークリートは言っていなかったし聞いたこともなかったが・・・、自分の身をもってそれが感覚的に正しいと思えた。
「くっ、」
再びデリトはエライトの攻撃を受けたが、今度はどこからか来るだろうという予測があったため躱して反撃した。
「ちっ、外したか・・・!」
デリトの銃弾はかろうじてエライトの体を何回かかすめ、傷を負わせた。
「よく分からねーが、”チートキラー”の効果は続いているようだな!」
デリトの<チートキラー>が発動しているのに”権能”が継続しているなど前代未聞だった。
「<光よ、時間を超えろ>!」
エライトは再び叫び、今度はデリトに攻撃を受ける前に飛び、再び攻撃した。
それからは未来と過去を自在に行き来するエライトに一方的にデリトが翻弄される展開が続いた。
エライトも<光よ、時間を超えろ>をうまくコントロールできず、外したり、反撃されることは多かったが、だんだんと感覚を掴んで正確な位置や時間をつかめるようになってきた。
最初こそ、自分自身が光の速さを超えるような超常的な感覚があったものの、今は逆に周囲の速度が圧倒的にゆっくりに見えるような相対的な感覚になっていた。
「デリトの旦那が完全に押されているでやんす・・・」
「そんな・・・」
ボッチェレヌとゾーレの目の前でかつてないほどボロボロになっていくデリトの姿に二人とも涙がこぼれてきた。
もともと異世界転生者の中で最強と言われていたエライトが更なる力を得て、<チートキラー>によって弱体化しているはずの体ながらさらに強くなっているようだった。
エライトは感覚を掴むと、数秒単位で細かく時間を超えることができるようになってきたため、はた目にはデリトがコンマ1秒の間に連続攻撃を受けているように見えていた。
「くそっ、これじゃもたねぇ・・・!」
このままだと死ぬ、とデリトは悟った。
トラップをしかけても、エライトには見透かされ、躱されてしまっていた。
おそらく未来と過去を行き来することでトラップも予測できて、いや、実際に見えているのだろう。
遠すぎる時間には飛べないようだが、短い時間内で飛び回られるのはそれはそれで厄介だった。
だんだんとデリトの意識がもうろうとしてきた。
俺が死んだらどうなるのだろうか。
デリトは考えた。
<チートキラー>を使って異世界転生者を殺すと、完全に存在が消えてしまい、復活することはない。
ただ、<チートキラー>を使わずに単に異世界転生者が死ぬと別の異世界に別の人物として転生するのだそうだ。
しかし、再び転生しなおした異世界転生者はその異世界の魔王の手下として生まれ変わり、異世界に害をなす存在となるらしい。
だからこそ、悪い異世界転生者が再びそのように別の異世界へ転生しても、何度でも悪行を繰り返すので、ウルレカッスルは”異世界転生殺し”として、完全に悪の根を断つためにデリトに”異世界転生殺し”という役目を与えたのだった。
デリト自身は別の異世界に転生したらどうなるのだろうか。
やはり、自分も”異世界転生殺し”として悪行を重ねてきたということになり、別の異世界で魔王の手下として生きていくことになるのだろうか。
それも悪くない。
と、デリトは思った。
いつか罪を償う必要があると感じていたため、仕方のないことだと思っていた。
”異世界転生殺し”がどうしても必要だというのなら、ほかの人がやればいい。
俺には荷が重すぎた。
そう思ったとき、ゾーレやボッチェレヌが目に入った。
彼女たちはどうなるのだろうか。
”異世界転生殺し”の一味として捕らえられ、やがて”O.H.R.L.”に”異世界転生殺し”の残党として処刑されてしまうのだろうか。
ゾーレ自身が望んでついてきたとはいえ、そんな思いはさせたくなかった。
異世界”タンファージ”で、父や仲間を異世界転生者ブラックウィンドに殺され、彼女自身も殺されかけていた。
そのまま”異世界転生殺し”の旅に付き合わせてしまったのだ。
まだ少女なのに絶望と危険しか経験していないのだ。
ボッチェレヌ?・・・まぁ、あいつはなんとか生きていけるか・・・。
「これで終わりだ。さらばだ、”異世界転生殺し”。」
エライトがとどめの一撃を加えようと聖剣ゴールドシルバーを振り上げた。
その瞬間、聞き覚えのない声が聞こえた。
「おいおい、君には期待しているんだ。”異世界転生殺し”。こんな簡単にくたばってもらっては困るよ。」
突如として、デリトとエライトの間に見たことのない長髪の男が現れたのだった。
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