第60話「兄の”権能”」
有利に思えた戦況の前にエライトの兄、スタンライトが現れる。
そこにはデリトの仲間のゾーレとボッチェレヌも現れ・・・?
エライトは突如として現れた兄・スタンライトの姿に驚き、開いた口が塞がらなかった。
「・・・兄貴・・・なんで・・・。まさか生きて・・・」
「「貴様の兄は死んだ。貴様が殺したのだ。」」
スタンライトの口から不気味な声がそう告げた。
その手にはエライトの持つ聖剣ゴールドシルバーと対となる聖剣シルバーゴールドを持っていた。
「な、何が起こってんだ・・・?」
王国第一騎士団副団長のツヴェもエライトと同じく驚いていた。
エライト以外はスタンライトの姿を知らなかったが彼の反応を見て、それが間違いなく兄の姿だということは分かった。
「あれはデリトです。」
突如横に現れたゾーレがそういった。
「あなた、誰?デリトの仲間?それとも他の何か?」
ガチャリと音をたてて<ドラゴスレイス>をメリオノーラスはゾーレに向けた。
突如現れた魔族の少女が敵である可能性を考え、警戒心を解いていなかった。
「私はデリトの・・・そうですね仲間です。私はゾーレ=ペリテット=マクスガム。
見ての通り、人ではなく魔族です。悪いやつに危うく殺されかけていたところをデリトに救われてから彼と共に行動しています。」
ゾーレはかつて別の異世界で会った女性、ネドカイと瓜二つなメリオノーラスのことが気にはなっていたが、口には出さず自己紹介した。
「ほいで、このふわふわのもこもこ可愛いぬいぐるみちゃんが、ボッチェレヌ様ですぜ。」
ふわっとボッチェレヌが空から降りてきてニヤリとした。
「おま・・・なんだお前?モンスターか?」
ツヴェが引きつった顔で言った。
「誰がぬいぐるみだ!」
「自分で言ったんだろ!?てか言ってねぇし!モンスターかよって言ったんだよ!」
ボッチェレヌのボケにツヴェが突っ込んだ。
エライトはふらふらとしながら、地面に突き刺した聖剣ゴールドシルバーに寄りかかった。
「・・・俺が殺した・・・?」
「「そうだ・・・」」
スタンライトが答える。
「「しっかりしろエライト!やつはスタンライト自身じゃない!」」
エライトの脳内に直接ゴールドシルバーが語り掛けたが聞こえていないようだった。
「あなたたち、聖剣シルバーゴールドを持ってきてどうするつもり?」
少し離れたところで固唾を飲んで戦いをみつめていたメリオノーラスがあくまでもゾーレとボッチェレヌを警戒しながらも聞いた。
「彼の、デリトの”権能”である<チートキラー>を発動するためには相手の弱みを知らないといけないのです。
そして、エライトの弱みは彼が殺した兄の存在。記憶から忘れていても、聖剣とその魂に刻まれたものは消えない。
だからデリトは聖剣シルバーゴールドの力で兄スタンライトの姿を再現したわけです。これでデリトの<チートキラー>が発動可能になりました。」
「<チートキラー>・・・。」
今はスタンライトの姿となっているデリトが唱えると、聖剣シルバーゴールドを持っている手とは別の手に一丁の黒い拳銃が現れた。
「貴様には罪を償ってもらう。」
素早くデリトは引き金を引いて少し離れたところにいるエライトを撃った。
「エライト!」
聖剣ゴールドシルバーが再び乗り移り、エライトの体を強制的に動かした。
「ぐはっ・・・」
それでも避けきることはできず、エライトの左腕を銃弾が貫通した。
デリトの”権能”である<チートキラー>の能力は異世界転生者の身体能力を前世と同様、通常の人間通りの能力に戻すものだ。
つまり、今のエライトのステータス値は防御力や攻撃力だけでなく、スピードも通常の人間と同程度になっているのだった。
「ぐあぁぁぁ!」
「「大丈夫か!しっかりしろ!エライト!」」
防御力が限りなく高い異世界転生者としてほぼ無敵の状態で受けるのではなく、普通の人間として銃弾を受けたことにより激痛が走った。
エライトは聖剣ゴールドシルバーに励まされ、激しい痛みに耐えながら思い出していた。
まだ幼いとき、兄と一緒に追いかけっこしてて、エライト、つまり前世で光機が転んでしまったときのことだった。
「大丈夫か!」
「うう・・・」
たたっ、と後ろからかけよってきた兄の勇機、のちのスタンライトが心配そうに光機の顔を覗き込んだ。
傷が大したことないと分かると、泣いている光機に向かって勇機は笑って言った。
「光機は足はやいよなぁ。」
「え・・・」
「さっき、転ばなきゃボク絶対追いつけなかったよ!」
それは幼い勇機の心からの驚嘆だった。
「でも・・・転んじゃって追いつかれた。」
またも泣き出しそうな弟の光機に勇機は手を差し伸べて言った。
「転んでもまた立ち上がればいいさ。そうして、ボクが追いつけないくらい早く走っていけば良いんだよ。」
「そうかな・・・?」
勇機に腕を引っ張られ立ち上がった光機は自信なさげにつぶやいた。
「うん!そうだよ!ボクは光機のこと自慢の弟だと思ってる!
だから誰も追いつけないくらいの速さで走っていって、誰もがうらやむ人になってほしい!」
「・・・なれるかな。」
「なれる!傷が直ったらまた走ろう!だから・・・」
エライトはかつて兄の言った言葉を思い出し、つぶやいた。
「・・・何度でも立ち上がれ。」
その瞬間、エライトは自分を取り戻し、スタンライトの姿をしたデリトをまっすぐ見据えた。
「何だ・・・?何かが変わった・・・?」
デリトは眉をひそめた。
「お・・・おい、ちゃんと立ったぞ・・・?」
ツヴェがそう言うと、ゾーレとボッチェレヌも警戒して構えた。
「エライト・・・」
メリオノーラスは涙を流しながら心配そうにエライトを見つめた。
細かい状況は正直飲み込めていないが、デリトとエライト、どちらにも勝ってほしくなかった。
戦いに決着をつけないでほしかった。
「僕は、負けない。負けちゃいけないんだ。
償いきれないほどの罪を犯したのは事実だ。だけど、償わないといけない。
この命をかけて、一生をかけて償う。
だけどその前に僕自身がこの異世界に絶対的に君臨することで全てを圧倒して平和にするんだ。」
エライトは聖剣ゴールドシルバーを持ち直した。
そう、彼が無意識下のうちにジャドドを使ってまでしようとしていたのは、エライトに誰も逆らえない状況をつくることで絶対的な正義として君臨することだった。
ただ、そこに聖剣ゴールドシルバーの邪念が入り込むことでゆがんだ方法で実行しようとしていることにエライト自身は気づいていなかった。
「「大丈夫か。エライト。」」
金髪幼女の姿をしたゴールドシルバーがエライトに語り掛けた。
「ああ、ありがとう。ゴールドシルバー。
僕はデリトを倒す。
”異世界転生殺し”を倒し、この異世界に、そして、全ての異世界に平和をもたらす!」
エライトは先程までと打って変わって、強く地面を踏みしめ、一歩を踏み出した。
異世界”ゴールド/シルバー”を平和にしたあとは”O.H.R.L.”として、他の異世界でも圧倒的な正義を行うつもりだった。
「チッ、厄介なことになりそうだ。<チートキラー>!」
「<光速の聖剣>!」
慌てて引き金を連続で引いたが、エライトの”権能”が発動し、弾は全て外れ、またほぼ同時にデリト自身は光の速さで攻撃され体が吹き飛んだ。
「クソッ、チートじゃねえか・・・!てか、<チートキラー>が効いているのになぜ”権能”も使える・・・?エライトお前何なんだ・・・。」
「異世界転生者にチートだと言われるとは光栄だな。君も光の速さで動けば楽しくお遊びできるぞ。いつ本気を出すんだ?」
瓦礫から起き上がりデリトが悪態をつくとエライトは真顔で冗談を返した。
しかし、動こうとしたエライトの体が固まった。
「残念ながら俺はノロマな亀なんでね。俺が早く動くよりもお前を遅くする方を選んだ。」
「何度も同じ真似を・・・!」
そう、デリトは攻撃を受ける瞬間、鋼鉄の蜘蛛糸トラップを張っていたのだ。
再三に渡る蜘蛛の糸攻撃に、エライトは動こうとしたが、固まって動けなかった。
「どういうことだ・・・?」
「これはスタンライトの”権能”・・・。追い詰められれば追い詰められるほど、スキル効果や能力値が上昇していくっていうクソ地味だが、クソ恐ろしい”権能”だぜ?」
「何・・・!?なぜ貴様が兄の”権能”を使える!?」
「ぶっちゃけ言うと棚からぼたもち的な感じで、俺も今認識したんだが、聖剣のおかげだ。
聖剣シルバーゴールドはパートナーである魔王スタンライトを殺したお前のことを個人的に恨んでいるらしい。
聖剣の絶大な力はスタンライトの記憶を頼りに”権能”を再現してくれている。」
「そんなことできるわけが・・・!」
「・・・そう、本当は”権能”を再現してくれているわけじゃない。”権能”の付与はやはり転生の女神しかできないらしい。
聖剣の力を使ってスタンライトの”権能”に近いスキルを一時的に習得しているだけで、俺の<鋼の蜘蛛糸>の能力を強化しているにすぎない。」
「え!?どういうこと・・・?」
メリオノーラスはその会話を聞きながら頭がこんがらがった。
「つまり・・・デリトは・・・」
ツヴェも理解できずに顔をしかめている。
「・・・俺の本当の目的は、お前が”権能”の話に気を取られているうちにもう一つトラップをしかけることだ。
<インフィニット・ウェポン>!」
”権能”を再現しているというのは真っ赤な嘘だったが、聖剣シルバーゴールドの力でステータスを強化しているのは本当だった。
「な・・・!?」
デリトが手をかざすとエライトの頭上から大量の爆弾が降り注ぎ、爆発した。
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