第58話「魔王スタンライト」
エライトは兄の後を追って異世界転生するが、実の兄が魔王スタンライトとして異世界を支配する姿を目撃する。
エライトは兄を超えるために彼を倒すことを考え・・・?
気がつくと、エライトは森に立っていた。
すぐにそこが自分が命を絶った森とは全くちがう様相だと気づいた。
「どこだ・・・ここは・・・?」
自分が命を絶った時の光景や感覚を思い出し、その場で吐こうとしたが何もでなかった。
なぜなら彼は転生仕立てで、食べ物どころか飲み物すら一滴も摂取していないからだった。
頭上を巨大なドラゴンが通り過ぎた。
”白き空帝ユーグメール”と後に呼ばれ恐れられることになる巨大な白いドラゴンは、まだこの時にはこの森を闊歩する凶暴な巨大生物、の域を出ないただのドラゴンだった。
「まさか、ここは異世界・・・?」
初めてエライトは自分が異世界転生したことを知ったのだった。
この時、彼は知るよしも無かったが、エライトがいたのは”聖なる大森林”と呼ばれ、異世界転生者が最初に現れるとされている森だったのだ。
その後、エライトは様々な冒険に身を投じる事になる。
”聖なる大森林”の調査にあらわれたガレステリア第20騎士団、通称”辺境騎士団”と通称”辺境の偏屈騎士団長”メリオノーラスとの出会いやその他王国騎士団、
”暴竜”と呼ばれていたときのジャドドとの戦いを経て、やがて彼は”魔王スタンライト”へとたどり着いたのだった。
「まさか・・・そんな・・・。」
エライトは絶句した。
魔王スタンライトはエライトのよく知る顔だった。
エライトと瓜二つのその顔は紛れもなく、実の兄・勇機だった。
エライト自身もそうだったが、異世界転生によって髪の色や人種が変わろうともそれが自分の兄であることは瞬時にわかった。
兄は前世での姿とはかけ離れ、暴虐の限りを尽くす魔王となっていた。
なぜそうなったのかも分からず、戸惑っていたエライトだったが、直接2人きりで対峙し、戦った時に兄である魔王スタンライトがエライトの姿を見て何も感じず、覚えていないような素振りを見せたとき、エライトは怒りにまかせ、その力を振るった。
兄にとっては自分など歯牙にもかけないような存在だったのだと感じたからだった。
戦いはさほど長くは続かず、光の速さで攻撃をするエライトに対し、聖剣シルバーゴールドを持つスタンライトは倒れた。
そして、スタンライトが死ぬ間際、彼自身の意識を取り戻し、エライトに言ったのだった。
「ありがとう。俺を殺してくれて。俺を倒したのがお前で良かった。」
ニコリと笑ったスタンライトに苛立ちをさらにつのらせ、エライトは大剣ゴールドシルバーを振りかざした。
「なにを・・・」
覚えていなかったくせに。エライトの怒りは最高点に達しようとしていた。
だが、本当にスタンライトが弟のことを覚えていなかったのか、それとも聖剣シルバーゴールドのせいで正気を失っていたのかは分からなかった。
「やっぱり俺はお前のそばにいちゃいけない存在なんだ。お前は本当は俺よりも遥かにできる人間だ。
だけど、お前は本気を出したことは無かっただろ?いつも俺の存在を、兄という存在に遠慮していた。」
その時、エライトは全てを理解した。
エライトは前世で兄に追いつけなかったのではない。
兄には勝てない、兄が上だと思い込み、努力をすることを諦めてしまっていたのだと。
エライトは、光機は、兄、勇機がとてつもなく努力をしているのを実は知っていた。
しかし、光機はさほど努力せずにぴったりと兄・勇機の後ろをなぞるように生きていた。
「ぶっちゃけ言うとな。俺はストレスだったんだ。
お前が努力せずに俺と同じくらいできることも、俺自身がひたすら努力しなければお前にすぐ負けてしまう人間だということも。
でも俺に遠慮して、お前が本気を出せず、他の奴らにお前が認められないことが一番イヤだった。」
兄はそう打ち明けた。
光機は目から涙がこぼれ落ちた。
知っていたはずだ。
兄の気持ちを。
でも、光機は未熟で兄を憎むことで、諦めてしまいがちな自分のことを肯定していた。
「だから良かったよ。俺が先に死んで。前世でも、この異世界でも。
お前が本当の力を世界に見せつけられるから。」
「兄貴・・・・・・。」
光機の口からはそれ以上発することができずにいた。
あふれる思いが多すぎて言葉にできなかったのだ。
「殺せ。そして、生きろ。」
兄の言葉に光機は唇を噛み締め、その剣を振り下ろした。
前世でもこの異世界でも、光機、そして、”光の異世界転生勇者”エライトはまだまだ精神的に未熟であった。
彼は自分自身の未熟さを認めたくないために、ひとつの国ごと兄の記憶を消し、自分の気持ちを消すという凶行に出た。
前世で優秀な人間であったとはいえ、強いコンプレックスを抱える彼は勇者にはそぐわなかったのだ。
既に彼は勇者ではなく、魔王への道を歩み始めていた。
再び彼の兄のあとを追うように。
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