第48話「王都の地下」
夜に動き出したエライトをデリトは尾行する。
様子のおかしい異世界転生者を追っていくと謎の建物に入っていき・・・?
エライトが夜中に出ていくのは日常茶飯事らしく、城の衛兵たちは素早く敬礼してすぐに去っていった。
デリトはその後ろを足音がしない魔法<静かなる侵入者>姿を消す魔法<|実体なき姿イリュージョンイルミネイト>を使って尾行した。
「今日はどちらにおでかけだろうな。」
「街の娼婦か、オンナにでも会いに行くんじゃないか?」
ハハハ、とこっそり下世話な話をして笑う兵士たちの間をすりぬけながらデリトは追った。
しかし、エライトの放つ気配は異常で、兵士たちが噂しているような事情ではなく、何かしらの深い事情があるように見えた。
エライトはずんずんと周囲を気にすることなく、進んでいく。
時折、兵士や召使いに挨拶をされ、挨拶を返しているが、心ここにあらずといった感じで日中のデリトとは別人のようだった。
「どこまで行くんだ・・・?」
デリトは不審さをつのらせた。
今や、2人は城を抜け、王都の中でもいかにも治安の悪そうな地域に踏み込んでいた。
すると、エライトはふるびたレンガ造りの建物の中へと入っていった。
「どうする?罠かもしれないぞ。」
デリトは自分の胸に問いかけながら、よし、と気持ちを決めて鉄板でつくられた扉を開けて侵入した。
早速、矢が奥から飛んできてデリトの首元あたりを狙ったが、尋常ではない動体視力でそれを避けた。
カァンと金属同士がぶつかりあう大きな音をたて、鉄の扉が矢をはねのけた。
「・・・侵入者用の罠か。」
罠は罠でもデリトの存在に気づいたわけではなく、この建物に侵入しようとするもの全てに対する罠だったようだ。
その場には、周囲の地域に住むごろつきらしき死体がごろごろと転がっていた。
中には腐りかけてうじが湧いているものや、白骨化しているものまであった。
どうやら、この建物も罠もかなり昔から存在しているもののようだった。
「ビビらせやがって。」
その後も建物内は罠だらけだったが、全てを避けてデリトはエライトが通ったであろう地下室への階段を見つけた。
尾行がバレないようにエライトが建物の中に消えて、少し時間が経ってからデリトは侵入していたため、 エライトの姿を見てはいなかったが、避けられたであろう数々の罠の痕跡が、この建物のことを熟知している人物が何回も通ったことを暗に示していた。
地下室へ降りたデリトはそこに巨大な箱のようなものがいくつかあることに気づいた。
知っている形とは少し違うが、なんとなく見慣れたそれは驚くべきものだった。
「もしかして、エレベーターか・・・?」
異世界にエレベーターがあるなど初めてのことだったので驚きだった。
地球のエレベーターとは違って、電気式ではなく、もっと原始的な構造に近い、おもりを使用したものだった。
とはいえ、手動式ではなく、ある程度自動化されていて、この異世界の文明レベルの高さを感じた。
エレベーターは全部で2つあり、1つは既に誰かが使ったようで、台車は下に降りているようだった。
「エライトが使ったんだな・・・。よし。」
デリトは意を決して、もうひとつの台車に乗った。
「えーと動かすのは・・・これか、」
構造を調査魔法で調べ、使われた形跡があるバーを倒した。
ガコンと、少し不安な音がするとその後はするすると滑らかに降りだした。
「なるほど、魔法も併用されているわけか。」
エレベーターは基本的にはおもり式のようだったが、乗っているものの魔法力も活用して補助するような魔法が使われているようだった。
この場所は魔法と科学的な仕組みが併用されて非常に高度な文明を思わせるが、先日の邪竜ジャドドとの戦いは魔法を使っているもののもっと原始的な戦いに見えた。
”異世界転生殺し”として、数々の異世界を見てきたデリトの心に何かが引っ掛かった。
しばらく暗闇のなか、降りていくと、かすかな光が下の方から出ているのが見えた。
「すごいな・・・!これは・・・!?」
エレベーターはひらけた空間に出た。
その空間は大きさも驚きだったが、何より地面や壁、 天井部分より青白く光る鉱石が飛び出しているのが何よりも特徴的だった。
鉱石の発する光が空間を満たし、まばゆいばかりだった。
デリトはエレベーターの終点に降り立った。
予想通り、向かいにはエライトが使ったであろう、もう1つのエレベーターがあった。
「あっちか。」
道は1つしかなく、急な坂を降りていくようになっていた。
改めて観察してみると、青い鉱石は脈打つように光が弱くなったり強くなったりしていた。
地面からもにょきにょきと出ていて、形は水晶に非常に似ていた。
「・・・まだか?」
青い鉱石の間から歩いてきて既に1時間は経っていた。
既に青い鉱石が全面に埋め込まれていた空間は通り過ぎ、再び狭く暗い空間が続いていた。
ある程度まばらに青い鉱石が埋まっているので、足元の突起がうっすら分かるくらいだった。
ふと、デリトは立ち止まり、さっと壁に身を寄せた。
今までの細い坑道のようなところから急に広い空間に出ようとしていたが、人の気配があったのだ。
そこは王城ガレステリア・キャステリスがまるまると入ってしまうのではないかというレベルの超巨大空間だった。
またしても数多くの青い鉱石が全面に埋まっており、電気が通っているのではないかと勘違いしてしまうくらいまばゆかった。
「なんだ・・・?」
微かに誰かと誰かが話している声が聞こえる。
デリトは決心し、自分に再び<静かなる侵入者>と<|実体なき姿イリュージョンイルミネイト>をかけて、その空間に踏み込んだ。
しかし、その空間にいた2人、いや、1人と1匹の組み合わせは、そこまで驚くことが多くないデリトでも声をあげてしまいそうなくらい驚くべき光景だった。
なぜなら話し込んでいるのは邪竜ジャドドとエライトだったのだ。
「(どういうことだ・・・?)」
邪竜ジャドドはくぼんだ下の空間にいて、エライトは小高くなった崖のようなところに立っていた。
それが今までデリトが歩いてきた通路の終点だった。
「・・・畏まりました。では再びそのように。」
邪竜ジャドドが人間の言葉を話しているのにも驚きを覚えたが、何より、異世界”ゴールド/シルバー”の魔王と思っていた巨大なドラゴンが勇者といわれていた異世界転生者に頭をたれていたのだ。
「貴様にはいつも感謝しているぞジャドド。お前こそ”仮の魔王”にふさわしいやつはいない。」
エライトが大剣を引き抜き、地面と剣を並行に保ちながら、邪竜ジャドドの頭に当てている。
その光景はまるで、騎士の受勲式のようで、そこには明確な主従関係が表れていた。
ただ、エライトの声は日中とはうって変わって虚ろな感じに聞こえた。
確かに、異世界転生者は転生時に魔王を超えるほどの唯一無二のチート能力”権能”やチートな攻撃力や防御力が与えられるのが普通だったし、最初はそうでなかったとしても成長して確実に魔王を超えるようになっているはずだった。
しかし、魔王を従える勇者、否、異世界転生者など初めて聞く。
「(仮にエライトが邪竜ジャドドを従えてるとしても何故・・・?エライトが実は勇者ではなく魔王なら既にこの異世界を滅ぼしているはず・・・。 何故、この異世界を滅ぼさずにいる・・・。)」
「それでは計画通り明日、貴様のドラゴン軍の精鋭で王城を襲うのだ。」
決定的な言葉だった。
この戦いを仕組んでいるのは”仮の魔王”と呼ばれた邪竜ジャドドではなく勇者であるはずのエライトだった。
「(やはり勇者であるはずのエライトが魔王なのか・・・?)」
”反逆の女神”ウルレカッスルがかつて言っていたことは全て嘘なのではないかという疑念がデリトの中で渦巻いた。
ウルレカッスルは、「異世界転生者は異世界に1人だけ」「魔王を倒すための勇者として異世界転生者が召喚される」「異世界転生者は魔王よりも元から強い、もしくはゆくゆく超えていく」といった”異世界転生の大原則”をデリトに語ってきた。
だが、ここ最近、異世界転移するなかで、その大原則は疑わしいものになってきた。
とはいえ、直近の心配事としてはエライトたちの悪巧みをどうするのかという問題だった。
話し合いが終わったようで動こうとするのを察知したデリトは再びこっそりと道を戻った。
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