第30話「第三天魔将・猿面」
転移の疲れを癒すため、天然の温泉に入っていると、刀子が入ってくる。 流れで温泉に浸かっていると敵の声がする。
「それじゃ、目指すは東だね!こっちだよ!」
「・・・おし、行くか。」
二人は泉を離れ、暗い森の中を進んだ。
道中、デリトは刀子から異世界”戦国乱世”と刀子自身について聞いた。
デリト自身のことは兵に追われて転んだ時に記憶喪失になったと言っていた。
我ながら雑な嘘だと思ったが、刀子にはわからないようだった。
本人曰く、”あまり深くは考えないタイプ”らしい。
「えー!記憶喪失なんて大変だね!私が色々教えてあげるよ!安心して!」
「ありがとう。・・・異世界って言ってたけど、ここはどんな世界なんだ?
「んー、異世界っていうのはなんていうか私が元いた世界とは違うって意味なだけなんだけど・・・。
”戦国乱世”は戦国時代の日本と似たような感じなんだけどちょっと違うんだよね・・・形とか・・・」
刀子の言うようには戦国時代の日本だけを切り取ったような異世界らしい。
本州と同じように巨大な島のみで構成される異世界のようだったが、地形などは日本とは似ても似つかないようだった。
とはいえ日本と同じくらいの国土のようで、おそらくデリトの転移した異世界の中でも一番小さい世界のようだった。
「それを第六天魔王が支配しているわけか・・・。」
「そうそう!ちなみに私は異世界転生者って言って、この世界とはまた別の世界からやってきたんだよ!」
「へー。」
デリトは自分も異世界転生者と気付かれないように無関心を装った。
「異世界転生者って何十年とかに一回現れるらしいんだけど、異世界を救うためにすごい能力が与えられるんだって。だから私もめちゃつよなの!」
「めちゃつよ・・・。」
これが若者で流行っている言葉なのか・・・?デリトは年を感じた。
よく考えたら前世では40代だったしな・・・。
「ところで、すごい能力ってなんだ?」
「女神様が前言ってたのは”権能”って言うらしいんだけど、異世界転生者にそれぞれ女神様から与えられるその人だけの特殊な力らしいよ!」
「”権能”か、初めて聞いたな。」
デリトはすっとぼけた。
誰よりも知りすぎるほど知っている。
「ちなみに刀子の”権能”っていうのは何なんだ?」
無知を装ってデリトは聞いてみた。
悪い気はするが、必要になるかもしれないリサーチだ。
「私はね、”むそ”・・・あ!見て!」
自身の”権能”について言いかけた時、刀子は何かを指差した。
最初は先程と同じ泉があるように見えたが、よく見ると湯気が立っているようだった。
「・・・温泉?」
それは自然に湧き出た温泉だった。
近づいて軽く触ってみたところ丁度、入れる温度のようだった。
「すごい!入ろうよ!デリト!」
「えっ」
「あ、先に入りたかった?どうぞ!疲れてるだろうし、温泉に入ったら気持ちよくて記憶も蘇るかもよ!」
「いや、刀子も疲れてるだろうし・・・」
温泉に入ったら記憶が蘇るとは一体全体どういう理屈なのだろうかと思いながらさり気なく刀子を促した。
やはり、刀子は悪い異世界転生者で入っている途中に抹殺されるかもしれないし特に疲れてもないので入る必要が無かった。
それに、レディファーストだ。
そう、レディファーストだから刀子が先に入るべきだと自分自身に言い聞かせた。
「私は全然だいじょうぶだよ!ささ、お先にどうぞ!」
「ええ・・・」
デリトは刀子の押しに戸惑うばかりだったが、色々なリスクを考え、断ろうと決めた。
「ふぅ・・・」
10分後、デリトは服を脱ぎ、温泉に入っていた。
刀子の勢いに押され、不審に思われないようにお言葉に甘えることにしたのだった。
自然にできた温泉のわりには透き通ったお湯が特徴だった。
湯加減はぬるくもなく熱くもなく絶妙な具合で気持ちが良かった。
デリトは後ろの岩に背を預け、だらっと足を投げ出していた。
「それにしても湯気すごいな。」
辺りは急に暗くなり涼しくなったため温泉の湯けむりがあたりに立ち込めていた。
「それにしても自然の温泉があるなんて驚きだな・・・」
5分後どこからか聞いたことのある声が聞こえた。
「どうー?デリトー?」
「ああ、いい感じだ。・・・って、え?」
デリトが上を向くといつの間にか刀子が何も身に着けずに立っていた。
「うわ!どうした!?もう入るのか?向こうにいるはずでは??」
刀子の裸を目にしてしまったため、動揺のあまりひっくり返りそうになりながらささっとその場から後ずさりした。
制服をきているとあまり分からなかったが、刀子はかなりのナイスバディだった。
湯けむりでぼんやりしていたとはいえ、目に入ってしまった。
「うーん、デリトが出てくるまで向こうの林でまとうと思ったんだけど、寒くなってきたし暗くなっちゃったからさー。」
そう言いながら刀子はデリトの座っていた場所にちゃぷんとはいってきた。
「そ、そうか。じゃあ、俺は出る・・・。」
「えー!一緒にお話しようよ!せっかく友達になったんだし!」
ガシ、と腕を掴まれ、滑って湯船にデリトは頭からひっくり返った。
「友達・・・」
デリトは意識し過ぎているのだなと思い直した。
異世界転生したとはいえ女子高生に欲情するなどあるはずがない。
友達だ、友達。
「それにしても温泉なんて何年ぶりだろうか・・・。」
「私ももしかしたら温泉なんて前世ぶりかも!この異世界に転生してきてまだ数ヶ月くらいだけど、色々ありすぎて温泉なんて入る隙なんて無かったよー。」
「そうなのか。」
それから刀子は転生する前と転生してきてからのことを話してくれた。
詳細は覚えていないが前世で事故にあい転生してきたこと。
事故にあったときの高校の制服のまま転生してきて異世界の住人に怪しまれていたこと。
そして、異世界転生者だということで魔王軍に捉えられるも、逃げ出し、追手の何千という武士たちを蹴散らし森の中へ逃げたことなどを話してくれた。
「大変だったな、刀子。」
デリトはこの異世界に来てから初めて自然に笑った。
「うん、ありがと。特に魔王軍の天魔将の一人がすごいしつこくてさー。」
「天魔将?」
「そうそう!第六天魔王の家来で、第一天魔将から第五天魔将まで5人いるの!第六天魔王と同じように仮面を被ってるんだけど 、
一番弱いのが第一天魔将の猿面って奴で一番最初に倒したはずなのに何度も復活して私を追ってくるの。」
「天魔将か・・・」
ゴブリンキングの幹部のゲババービやマッチルカンのことを思い出していた。
異世界転生者に配下がいるのも珍しくはなく、魔王にも必ず配下の者たちがいたが、仮面を被っていて魔王と同じような姿をしているというのは初めてだった。
「温泉でデリトは記憶戻った?」
「え、ああ。いや・・・。」
急に話題を振られデリトは動揺した。
そういえば温泉で記憶が戻るのどうのこうのという話もしてたな・・・。
「ところで、刀子は前世でやり残したこととかないのか?」
デリトは我ながら話題のそらし方が相変わらず下手なのを痛感した。
だが、デリト自身、妻のメイや娘に別れの言葉が言えなかったことを悔いていた。
「うーん、彼氏が欲しかったかなぁ・・・」
「いなかったのか?」
そんなに美人なのにといいかけてやめた。
「中学からずっと女子校だったし、なかなか男性と会う機会もなかったなぁ・・・そのまま死んじゃったしね!」
刀子は笑っていたが少し哀しそうだった。
「すまんな、せっかく一緒に旅ができる男性ができたのにこんなおじさんで。」
デリトは自嘲気味に言った。
「そう?すごく良いと思うよ。デリトは確かにおじさんだけど結構かっこいいと思う!」
「やっぱりおじさんだと思われてるのか・・・」
デリトは肩を落とした。
転生して20代になったはずなのだが、やはりJKから見たらそれでもおじさんなのだと身に染みた。
「ふふ、でも私は強い人が好きだからそこを見極めさせてもらいます!単純に力だけじゃなくて心の強い人というか。」
「心の強い人?」
聞き返した瞬間、刀子とデリトは同時に気配を感じ取った。
「誰だ!」
デリトはとっさに魔法で弓矢を出現させ矢をつがえた。
気づかぬうちに周囲を敵にかこまれていたようだ。
敵意が周囲に満ちている。
「油断したな!”異世界無双”!湯などにだらだらとつかりおって、ヌッフフフフ!」
静寂が包んでいた空間に少し間抜けで大きな笑い声が響いた。
岩の影から現れたのは身長2mを超すかというような大男だった。
猿の顔をかたどった不気味なお面をしている。
「ヌッフンー!我こそは第三天魔将の猿面!ここであったがン百年目ェ!剣持刀子ォ、今こそ貴様を討つ!」
「しつこいなぁ、猿面おじさん。女子高生の裸みるなんてサイテー!」
「女子高生だぁ?それは貴様の二つ名か?変な名乗りだな?」
「二つ名じゃなくて職業名!・・・って職業っていうのかなぁ?」
なんとも間の抜けた会話だが、どうやら刀子と対峙するこいつは敵の天魔将のようだった。
「刀子!敵か?」
「そう!あいつは第六天魔王の部下の天魔将の中でも最弱の武将だよ!」
「最弱だと!?ヌフフ、甘く見てもらっては困るなぁあ。我は第一天魔将だったが、今や第三天魔将までに上り詰めた!」
「いや、それは私が第二と第三天魔将を倒したから自動的に繰り上がっただけでしょ・・・。」
「いざ参る!」
「聞いちゃいない・・・」
いつもは元気な刀子がうんざりとしている様子はある意味、見ものだったがデリトは弓をしっかりと振り絞り狙いを定めた。
「オラオオー!」
猿面が雄叫びをあげると天魔将の部下である武士たちが襲いかかってきた。
「もう!今、裸なのに!しかも刀も向こうだし・・・!」
武士たちを蹴りで蹴散らしながら刀子は悪態をついた。
デリトは即座に矢を放ち、猿面の頭を狙った。
「ぬうん!」
しかし、猿面は大きな腕で矢を防いだ。
「この猿面にそんな細い矢が効くとでも!貴様誰かわからんが”異世界転生無双”の一味だな!」
「<インフィニット・ウェポン>!」
刀子に異世界転生者であることをバレないように魔法はなるべく使わないつもりだったが、仕方なくデリトは魔法を唱えた。
今は森の中にある温泉に入っていることを考えると炎や氷魔法は使わないほうがよさそうだった。
インフィニティウェポンで出現させた大量の弓矢が猿面を狙う。
「これならどうかな!」
「な、なにい!貴様、妖術師か!」
発射された大量の矢が猿面を襲った。
「ぐあああ!」
「すごい!デリト魔法使えたんだ!」
「あ、ああ・・・思い出した。」
デリトは自分が記憶喪失設定だったのを思い出した。
「く・・・またしても我敗れるなり・・・。」
そういうと猿面はドタンと仰向けのまま倒れた。
「とお!・・・あれ?もう倒しちゃった?」
刀子は裸のまま猿面の家来の武士に蹴りを入れて50mほど吹き飛ばしながら間の抜けた声を出した。
「こいつ、本当に弱いな・・・。」
デリトはこれまで異世界転生者としてチート能力で異世界の敵を倒してきたが、その中でも一番あっけないボスキャラという感じだった。
「く、くそ・・・猿面様ぁ!よくも、覚えてろよ!このクソガキが!」
「覚えてろー!」
そう言い捨てるとそそくさと武士たちは逃げ出していった。
「とりあえず行くか。」
デリトたちは追手を警戒し、すぐにその場から逃げることにした。
服をささっと着るとデリトたちは走り出した。
「ね?弱っちいでしょ?」
デリトと森を走りながら刀子がくすりと笑う。
刀子はやはり強さの反面、あどけなさも残っているようだった。
猿面が最弱の第一天魔将(位は第三天魔将だが)とはいえ、魔王軍の幹部らしい天魔将でこのレベルであればやはりこの旅で強敵になりそうなのは刀子だけかと安心していた。
しかし、倒れた猿面の指がピクリと動いたのをデリトたちは気づいていなかった。
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