第29話「異世界”戦国乱世”」
デリトを救ったのは異世界転生勇者としてこの異世界を救おうとする剣持刀子という明るい日本の女子高生だった。
「大丈夫?怪我してない?」
女子高生は心配した表情で振り返った。
「ああ、ありがとう・・・ん?ゾーレ・・・?」
どう考えても異世界転生者であろう女子高生の顔は、良く見知った顔と瓜二つだった。
「ゾー・・・?何?」
「い、いや、知り合いに似ていたもので・・・」
「ふーん、そう。」
「・・・あ、大丈夫だ!助けてくれてありがとう。」
女子高生が現れてからというもの呆然としていただけのデリトはようやく正気を取り戻した。
相手が若い女性だからというわけではないが、何となくデリトはどきどきしていた。
いやいや、いきなり現れてさっと助けるなんてかっこよすぎだろ。
デリトは前世の冴えない中年サラリーマンに一瞬戻りかけていた。
「あなた名前は?魔王軍に追われていたみたいだけど?」
さきほどまでの鋭い雰囲気とはうって変わって人懐っこい笑顔で女子高生は笑いかけた。
「ああ、俺はデリト=ヘロ。君は?」
「私は剣持刀子。デリトっていうんだね、よろしくね!」
「よろしく。ところで魔王軍って?」
「あれ、魔王軍も知らない感じだった?じゃあ何で襲われてたんだろ・・・」
知らない感じだったとはだいぶ軽い・・・あれだけ強く簡単に人を斬っても中身は見た目通りの女子高生のようだ。
ただ、これまで数々の異世界転生者を見てきたデリトからすれば、この子も何のためらいもなく人を斬れるようになるまでには色々なことがあったのだろうと推察された。
「魔王軍っていうのは正確にいうと第六天魔王が統率してる軍のことだよ。この異世界”戦国乱世”を支配してるの。」
「”戦国乱世”?」
「そう!あ、異世界っていうのは私がいた世界とは違う世界でって・・・わからないか。とにかく、魔王軍は悪い人たちで、ここに住んでる人々は第六天魔王に逆らわないように生きてるの。」
「なるほど・・・第六天魔王・・・。」
どうやら刀子はデリトが異世界転生者や異世界転移者であるとまでは気づいていないようだった。
「ところで、普通の人は第六天魔王のこととか、魔王軍のことは子供のときから知っているはずだけど・・・?」
「あ、ああ!実は頭打っちゃって、記憶が無くて・・・。」
デリトは慌てて取り繕った。この異世界の常識を知らないなんて怪しすぎた。
ベイスレの例外はあるとはいえ、今まであった異世界転生者は全て、魔王にも勝るほどの悪行を重ねていた。
最初は良い人のようにみえても最終的には悪い奴だということもあるため、刀子がこの異世界の転生者であるならば戦う必要性が出てくる。
今、疑われるわけにはいかなかった。
よく考えてみれば刀子のことを知り合いに似てるといったり、自分の名前を名乗れたりと穴だらけではあったがそれすら気づかないほどにデリトは動揺していた。
「君は・・・」
「君じゃなくて刀子ね!」
「・・・刀子は、魔王を倒すためにあいつらと戦っていたのか?」
デリトは君と呼んだのを強めになおされて言い直した。
これからは刀子と呼んだほうが無難なようだ。
「うーん、倒そうと思っていた訳じゃないんだけど、私が異世界転生者って分かったら追われることになって・・・嫌々戦うことになったってかんじかな?
それに苦しんでるこの異世界の人達を助けたいっていう気持ちもあったしね。人助けもできるし一石二鳥ってとこかな!」
「なるほど、それは偉いな・・・。」
今まで会った異世界転生者は全員、異世界を支配する魔王を打ち倒すために異世界転生してきていた。
しかし、魔王を倒すと世界で一番強いのは転生者のため自らの力に奢って堕ちてしまっていたのだ。
刀子もその例に漏れずこの異世界の魔王を倒すために転生してきたのだ、魔王に追われるのは当然の流れかもしれない。
「でも、あなたは何故追われていたの・・・?」
「い、いや、分からないな・・・。」
まさかあの異世界一般武士(という言い方もおかしいような気がしたが)にも異世界転生者と見透かされていたというわけではないだろうが、デリトは何となくごまかした。
「おそらく、君を追っていた武士たちが勘違いしたとか・・・」
「え!ごめんなさい!確かに、魔王軍にずっと追われてるし・・・そうかも。ごめんね、巻き込んじゃって・・・。」
「い、いや!そういう意味ではないんだが・・・。調子狂うな・・・」
デリトは分析した事実を述べたつもりだったのだが、嫌味を言ったように捉えられてしまったようだった。
前世も含めて刀子のようなはつらつとした女性とは話した経験が無かったので、デリトは出会ったときからあたふたしていた。
異世界転生してからというもの、チート能力で女性を守ったり、異世界転生者などの敵と戦うことは多かったが、女性に敵から守られるのは珍しかった。
「そしたら、私があなたのことを護衛してあげるよ!」
「え、いや・・・」
「うん、それが良いね!」
「えー、少しは聞いてくれよ・・・」
転生してからというもの、クールに振る舞っていたはずのデリトのキャラは崩壊寸前だった。
思えば前世ではメイしか女性を知らず、転生してからは異世界転生者を抹殺するために女性はおろか、他の人間とプライベートな感じできちんと話すことも無かったため当然の結実であった。
思えば、娘ともきちんと話せた試しがない。
彼の精神は芯では童貞同然、否それ以下でただのコミュ障かもしれなかった。
「あなた・・・あ、私も名前で呼んだほうが良いよね?デリトは記憶無くなる前、どこに行こうと思ってたのかな?」
「ん、俺はその・・・」
異世界転生者を殺すのが目的だから、刀子に会えたので目的は達成しているとは言えなかった。
「あ、もしかして東でしょ!あそこは魔王軍もあんまりいないっていうし。」
「え、ああ、まぁ?」
「おっけい!じゃあこの”メチャつよ”な私が護衛してそこまで送ってあげる!決定ね!」
「んぁ・・・ああ・・・。」
デリトは刀子に押されるがままに東へと向かうことになってしまったのだった。
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