第21話「手記」
暗い細道を抜けた先にはデリトたちの目の前にはまたしても少し開けた空間が広がっていた。
今までの生物の体内のような空間とは打って変わって、まるで図書館のような人工的な空間に驚きつつも、ベイスレは中央に置かれた本を導かれるように読み始める。
暗い細道を抜けた先にはデリトたちの目の前にはまたしても少し開けた空間が広がっていた。
「これは・・・図書館・・・?」
ゾーレがその光景に驚嘆して大きなアメジストのような紫の目をさらに大きくする。
開けた空間にはびっしりと壁一面に様々な色の装丁の本が立ち並んでいた。
空間の中央には大きく立派な机があり、空間の天井からはライトのような光が当たっていた。
「なんだこれは・・・。団長はそこでお待ちください!」
ニアッカとガルレが銃を構えて部下を従え、じりじりと空間の中に入っていった。
先程まで辺りには全体が脈打つような気味の悪い音が響いていたが、図書館だけは静寂さをたたえていた。
「ベイスレ総団長、問題無さそうです。」
ガルレが辺りの偵察を終え、報告した。
「不思議なものだな。我々人類は1000年前までギガントの体内や体表で生活していた。しかし、とっくの昔にそんな光景は失われたはずだった。
それがこの1000年後に、図書館という奇妙な形で現れるとは。」
「デリト!この本光ってる!」ゾーレが机の中央に置かれた巨大な本を指差した。
「これは・・・?」
本は天井からの光があたっているだけでなく、内側から光っているようにみえた。
デリトとベイスレが近づくと本はひとりでにゆっくりと開いた。
「おい!危険じゃないか!?」
デリトたちはすぐに後ずさったが、ベイスレは本から目を離さずに立ち止まり、むしろ自分から手を伸ばした。
「そうか・・・お前は”読め”と言っているのだな。」
ベイスレは勝手に開いたページに描かれた挿絵と文章を引き込まれるように読み始めた。
ベイスレはしばらくの間本をめくっていたが、視線を外さずに少し距離を置いているデリトを、本をめくっている手と逆の手で呼び寄せた。
「デリト、見てみろ。」
「なんだよ。ミミックとかじゃねぇだろうな。」
デリトとゾーレ、ニアッカとガルレが恐る恐る近づくとベイスレが冷や汗を垂らしながらにやりと笑った。
「デリト。ここを読んでみろ。」
「んー?えーと、私は異世界転生者ネルレーネン、トウキョウという異世界の都市・・・何!?異世界転生者だって・・・!?」
「・・・ああ、続きを読むぞ、私は異世界転生者ネルレーネン、東京という異世界の都市からやってきた異邦者だ。
私はガイア歴1970年、ギガンテスオケアノスと呼ばれる異世界へやってきた。」
「ガイア歴は約3000年前から2000年前、レギオン歴が始まる前に使っていた暦だ。ガイア歴はちょうど2000年に終わった。今はレギオン歴1000年、つまりこの本はだいたい1000年前のレギオン歴が始まる直前くらいに書かれたってことだな。」
ガルレがそらで数をかぞえながら言った。
「続きを。」
デリトが焦った顔で言った。
「ああ。
ギガンテスオケアノスはガイア歴1000年に突如として、ギガントと呼ばれる巨獣が現れて暴れ出し、人々が海の上に住むことを余儀なくされた世界だった。
・・・ここの部分は我々の今の状況と瓜二つだ。
ギガントはどこからか現れた巨獣と思われたが、実は人類が住んでいた島が立ち上がった姿だと判明した。
別の言い方をすれば、人類が島だと思っていたのはギガントの背中や腕、腹の部分だったのだ。
まだこのページに記述があるが、次のページを読む。」
ベイスレはそう言うとページを捲った。
「ガイア歴1995年、私は異世界転生によって得たチートのちからを使って、」
「この本を書いたやつは異世界転生者だったってわけか。」
デリトが焦って口をはさんだ。
「私はチート能力を使い、ギガントを倒していった。前までのページに書いたように、色々紆余曲折はあったものの私は人類の英雄として祀り上げられ、
ついにはギガントの長であるクロノスを倒して、最後のギガント タイタンにたどり着いた。
「最後のギガント、タイタン・・・!だと・・・!?
それにクロノスというギガントは聞いたことがない・・・」
ガルレをはじめ、レギオンの面々が驚愕の表情になっていた。
ベイスレもまだ驚きを禁じ得ないといった面持ちだ。
「おいおい、ベイスレさんよ。最後のギガントはハイペリオンとかいうあのキモい巨人じゃないのかよ。」
「ああ、我々はそう思っていた。最後に海上に残ったのはハイペリオンだということは我々の先達の1000年近くに及ぶ調査で明らかになっていた。」
「じゃあ、なんで・・・」
ゾーレが言いかける。
「海上に残ったのは・・・?といったか?」
デリトがゾーレの言葉を遮り深刻な表情でベイスレに聞いた。
「海中にはいたんだ、我々も知らない最後のギガントが。」
あたりには何の音も聞こえないようだった。ベイスレが本のページをめくる音だけがあたりに響く。
「最後のギガント、タイタンにたどり着いたが、その頃には私の仲間たちは全て死んでいた。
厳密に言うと生き残っている人類は会場に数少なく残っていたが、戦いに出られる者たちはギガントとの数々の戦いで死に至り、数少ない戦士が残りの人類を守っている状況だった。
タイタンに飲み込まれた私はタイタンの心臓と出会った。この言い方があっているか分からないが、言葉のとおりだ。」
「タイタンに飲み込まれた・・・ということは・・・ここは・・・」
ニアッカが辺りを見回す。全員言葉には出さないが、思っていることは同じだった。
そう、ベイスレとデリトたちがいるのは最後のギガントであるタイタンの体内だったのだ。
「タイタンの心臓は語った。かつて、彼も異世界転生者だったと。そして、彼は驚きの事実を語った。
この異世界ははるか昔からガイアという母なる大地が全ての海を覆っていた。
しかし、ある時、ガイアからギガントという巨人たちが生まれた。
彼らは暴れまわったあげく、ガイアを踏み割って、崩壊させてしまった。」
「ガイア・・・」
デリトはギリシャ神話の大地の擬人化であり、他の神を産んだという女神を思い浮かべた。
「ガイアの崩壊とともに、全ては海に沈み、ギガントも海の底へと沈んだ。
ギガントはやがて活動を停止し、いつの日か島となって船に避難していた人類の拠り所となった。
その後、ギガントは1000年の時を経て再び目を覚まし、今度は崩壊したガイアの体を取り込んでさらに巨大になって
海を暴れまわるようになった。船を作って逃げ延びたものの人類は絶滅する勢いで減っていった。」
「同じだ・・・!」
「レギオンの話ではないのかこれは・・・!」
「違うようだ。先を読むと分かる・・・ここだ。」
ベイスレはペラペラと数ページめくった。
「ある時ギガントの王を名乗るタイタンというとてつもなく巨大なギガントが現れた。
彼、いや、彼女はあるギガントに体をとりこまれたものの、逆に意識を乗っ取ることに成功した大地の女神ガイアその人だった。
すべての母たる彼女は次々にギガントたちの体を取り込み、やがてはギガントの王タイタンとして君臨したが、自らの子供、 つまり人間とギガント同士が戦っている現状を憂い、人間と和平を結ぶため現れたのだった。」
「ギガントの王、いや、女王か?それがこのタイタンだというのか。かつて、ガイアという大地そのものだった巨人が。」
ニアッカが頭上と周囲に広がる広大な空間を見回した。
「安心した。このページの最後に和平は実現したとある。次のページに和平の内容が書いてあるようだ。ここからは私も見ていない。・・・ん?」
ベイスレが次のページを開こうとすると本はびくとも動かなくなってしまった。
「おい、どうしたベイスレ。ここがタイタンというギガントの女王の体だということは分かった。
もしかするとタイタンは我々の味方かもしれないぞ。
だが、その後が重要じゃないか?和平の内容によっては・・・」
デリトはそう言って、言葉に詰まった。
「・・・どうしたの?」
ゾーレが心配そうに、固まってしまったデリトの顔を覗き込む。
ベイスレは振り返って言った。
「和平の内容はよく分からなかったがたいしたことはなさそうだった。
しかし、問題は今の状況だ。
かつてギガントはタイタンの先導で人類と和平を結んだのだ。
タイタンは人類とギガントが戦い合うことに憂い、和平を結ばせた。
しかし、私達人類代表のレギオンがギガント全てを倒してしまった。
今。」
まだことを理解してない一同にデリトが問うた。
「そのレギオンがタイタンに飲み込まれたということは・・・?」
冷や汗を垂らしながらデリトがにやりと笑った。
「・・・つ、つまりタイタンはギガントを殺した俺らに復讐するために飲み込んだ・・・?」
ガルレがその巨躯を震わせながら言葉を紡いだ。
「・・・しかし、そうだとしてもおかしな点がいくつかある。まず、ガイアは人類とギガントを救おうとしたのだろう?
ギガントが人類に殺されたからといって何故人類を殺す必要がある?人類を殺していたギガントでさえ殺さず和平を結ばせようとしたのに。
それに復讐するつもりなら何故、直接私達を攻撃せずに飲み込んだ?それにこの書を書いた異世界転生者はどうなった?」
ベイスレの疑問は誰も答えることができずに宙に浮いた。
その時、ガタンという大きな音がして、突然に、図書館の一番大きな棚が奥に開いた。
ゴゴゴゴ、という引きずるような音とともに棚は開き、奥へと続く道が現れた。
「知りたければそちらにいけということか。」
ベイスレは誰と話すふうでもなくつぶやいた。
その視線は図書館の棚にぽっかりとあいた穴に注がれていた。
「真面目に言うとるんか?」
デリトは不安しか感じなかったが、ベイスレには有無をいわせぬ決意の強さがあるようだった。
奥へと続くうす暗い道は何も言うことなくそこに続いていた。
もし、よろしければ「ブックマーク」や「評価」をしていただけると大変嬉しいです。
ほんの少しでも面白い、続きが早く読みたい!と思いましたら、
広告↓にある☆☆☆☆☆を★★★★★をつける評価があります
ブックマーク、評価は作者の励みになります!
是非お願いします!




