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異世界転生殺し-チートキラー-  作者: Michikazu Sashie
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第16話「異世界転生勇者会議」

「異世界転生殺し」の情報が各異世界のうち、一部の代表的な異世界に伝えられる。


転生の女神”ワルキューレ”により、異世界単体の脅威”魔王”よりもさらに上位の脅威として”異世界転生殺し”が設定され、異世界転生勇者たちに討伐の命が下される。

挿絵(By みてみん)

 ”異世界転生料理人(コック)”のモレネは慣れないこの状況に落ち着かなかった。


何より、職場からそのまま来たコック帽にコックコート姿なので自分だけ場違いな格好をしている。


彼女は異世界”イート・イン”にて前世で憧れだった多国籍レストランを開いている異世界転生者の少女モレネだった。


 異世界転生してすぐ、謎の料理バトルに巻き込まれてというもの、数々の異世界料理人たちとグルメ対決を繰り広げてきた彼女はどんな驚きの状況に置かれても動じなくなっていたが、今は困惑していた。


 彼女は”料理魔王”喰神母雨(くいしんぼう) との直接対決を間近に控えていたのだが、突如として自分を転生させてくれた転生女神アルレケネンに呼び出されたのだった。


 


 アルレケネンは小柄な美少女で、転生直後はその美少女加減にまじまじと見つめてしまったものだった。


 ツンデレなのか、褒めると怒りだすが、本気で怒っているわけではなく恥ずかしがっているようでそれも愛らしかった。




「あ、あの、あの・・・ここにいる皆さんは全員、異世界転生者なんですよね。」


 先に隣の席に座っていてガイデンラーフェと名乗った少年に小声で話しかけた。


ここに集まった異世界転生者の中で唯一話しかけやすそうな人だった。

モレネはコミュ障なのでガイデンラーフェ以外はとても話しかけられそうになかった。


「いや、エライトさんの真向かいに座られている方と立っている方は転生の女神様たちだそうです。」


 ガイデンラーフェが同じく小声で答えた。

その姿は完全に、魔法使いの恰好をした美少年にしか見えなかった。


 お互いの自己紹介をしたときに実は前世では冴えない弱気な三十路サラリーマンだったとガイデンラーフェは言っていたが未だにモレネはそのことが信じられなかった。


 モレネ自身は前世も異世界でも性別や見た目などはさして変わりがなかった。


 異世界転生者の中では前世そのままの姿で転生するのは珍しいと以前、エルレケネンに言われたことがあった。


 エライトというのは長机の端に座っている異世界転生者のことだった。


 黄金の甲冑に身を包み、大剣を側に立て掛けているその姿は王道の勇者といった出で立ちとオーラを放っていた。




「あ、たしかにアルレッキーノさんと同じ翼が生えてますね。」


転生の女神たちをチラチラと見ながらモレネは言った。


女神達だけそれぞれ2枚の翼を生やしていてわかりやすかった。




 2人がひそひそと話していると、エライトの向かい、机のもう1つの端に座っている女神が視線に気づきニッコリと笑いかけた。


ガイデンラーフェとモレネはビクッとして顔を見合わせた。




 青みがかった黒髪と透き通るような肌が対比的で、くりくりと大きな目が特徴の美しい女性だった。

女神の中で一人だけ席についていることを見るとどうやら偉い女神のようだったが、年齢は他の女神と同じくらいに見えた。



 白くて広い空間にぽつんと置かれた長机には転生の女神を除いて10人の異世界転生者が座っていた。


 ここの空間は特別仕様のようで、机といす以外には何もなく、ただただ、床も壁も――とはいっても壁のようなものは何も見当たらないのだが――白い空間がどこまでも広がっていて平衡感覚が狂いそうだった。

地面に影が落ちていなければ光がどこからきているか、地面がどこかも分からなくなりそうだった。



 机の周りは本当に何もなく扉もないため、誰かが現れるときにはだだっぴろく真っ白な空間が揺らめき、いつの間にか誰かが入ってきているのだった。




 ただ、それに対して感想をいうものもなく、ほとんどの異世界転生者はお互いに言葉を交わすことも無く黙っていたため辺りには重苦しい雰囲気が立ち込めていた。


 異世界転生者はとある理由でそれぞれの転生女神につれてこられたのだった。




 空間が揺らめいたかと思うとほっそりとした小柄な女神が現れ、座っている黒髪の女神に耳打ちした。


 その女神は長い髪の毛を高くまとめツインテールにしていた。

女神というよりは中学生~高校生の少女という感じのいでたちだった。

エルレケネンも十分小柄だが、それ以上に幼く見えた。




「1人まだ来ていませんが、」

 ツインテールの女神がひそひそと報告を終えたかと思うと、突如として唯一座っていた転生の女神が口を開いた。


異世界転生者たちの鋭い目線や戸惑った問いかけるような目つきがその女神に集中した。


ただ、長机の席は1つ空いたままだった。




「お時間になりましたので会議を始めさせていただきます。私はユークリート。転生女神”ワルキューレ”達をとりまとめる女神長をしております。」


そこでユークリートは一度言葉を切り、異世界転生者たちを見回した。


 みな、ある程度は予想ができていたのか表情にほとんど変化はなかった。


「”ワルキューレ”・・・?」

「女神長・・・!」

他の異世界転生者と違い、ガイデンラーフェとモレネだけ戸惑っていた。



「既にお聞き及びとは思いますが、異世界での魔王討伐の旅をしておられる皆様にご協力いただきたいことがあり、お集まりいただきました。

異世界転生が始まって以来の大いなる危機に我々は直面しているのです。」



まだ誰も反応しない。



 女神たちが異世界転生者を連れてくる際にある程度話は聞いていたからだった。

 ただし、ガイデンラーフェとモレネの担当の転生女神エルレケネンは、やばい、言ってなかったと心の中で軽く舌打ちしていた。

 本人はいつも真面目そのものだが、どこか抜けているのが玉に瑕だった。



 集まった異世界転生者は、それぞれの異世界で魔王を倒そうとしていたり、異世界の危機を救うべく各々の冒険や異世界生活をしていた。

 


 しかし、つい数時間前、自分たちを前世から異世界転生させた女神たちが突如、目の前に現れ、魔王や異世界の危機よりも重大な事態が発生したとして連れてこられたのだった。


「女神長ユークリート。」


黄金の鎧に身を包み、白銀の大剣を携えた異世界転生者エライトが転生の女神たちの長の名を呼んだ。


「何でしょうか。異世界”ゴールド/シルバー”の勇者エライトよ。」




両端にいる二人。




 つまり、転生女神の代表ユークリートと異世界転生者の代表エライトの会話に、長机に座った誰もが緊張して息をのんだようにみえた。




「僕は前世で何も成し遂げられないまま高校生のとき事故で命を失いました。

そんな僕に”異世界を救う”という使命と絶大なる力を与えてくれた女神達には、感謝しかない。それは本当です。

しかし、それにしても何の具体的な説明もなく連れてこられたものだから困惑しかないのです。」


エライトは問いかけるように女神長の言葉を待った。


「はい。異世界を救う勇者となっていただける皆様には私達も大変感謝しております。」



ユークリートは固く真剣な表情を少し緩めて優しく笑った。



「そうですか。じゃあ話は早いですね。魔王から異世界を救えと言ったのはあなた方です。転生女神”ワルキューレ”達よ。魔王を倒さなければ、異世界は滅んでしまうのでしょう?


それよりも重大な事態というのは何でしょうか?

大変失礼ですが、僕には魔王討伐以上の重大事項が思い当たらない。」



大会議室のピリピリとした雰囲気はより一層増しているように感じた。



「そのとおりです勇者エライト。

あなたたち異世界転生者、つまりチート能力を持った勇者たちが戦わなければ強大な魔王は倒せません。

私たちには直接何かと戦う力が無いのですから。

能力を与えることだけが私たちにできる役割です。

そして、魔王を倒せなければ、理由や方法は様々にしろ異世界は魔王の手によって確実に滅びます。」


ユークリートはゆっくりと、自分自身にも言い聞かせるように目を閉じて、エライトの言ったことをなぞった。




「ウオィ!」



突然、長机の真ん中辺りに座っていた異世界転生者が大きな声を上げて二人の静かな、凍りつくような緊張感のある会話に割って入った。



「”暴虐の転生番長”ゴロスーグ。」




ユークリートが怒声を上げた異世界転生者ゴロスーグを見据えた。

にらんではいないが、突然エライトとの話に割って入った男を少し警戒しているようだった。



「2人でたらたら話してんじゃねーよ!魔王とか勇者の話は転生してきたときに全員聞いたろ?

結局、何が重大なのか教えてくれよ女神様よぉ。

・・・あんだぁ?体が硬くて、てめえ自身でクソが拭けねぇから拭いてくれやっていう”重大事項”かよぉ?それなら俺が全面的に協力してやるぜ?」



ダハハハ!とゴロスーグは豪快に笑った。



「な、なんて下品な・・・!見た目通り汚らしい男だわ・・・だから男は嫌いなのよ。」

立っていた転生女神の一人、短いおさげ髪のエルレケネンがわなわなと震えて小声で悪態をつく。




「オイ!聞こえてんぞ、このアマァ?」

「うっ、意外と地獄耳・・・。」

「エルレケネン、ゴロスーグ。やめなさい。

・・・しかし、ゴロスーグの言葉もあながち間違いとは言えないかもしれません。」

「あ?本当にお前らはケツ拭いてほしいのか?」



ゴロスーグは思いもよらぬ言葉に間の抜けた声をだした。



「・・・我々は転生の女神”ワルキューレ”。現実世界や地球ともいわれる皆さんの前世の世界の報われない無念の想いを抱いた魂を転生させるのが仕事であり使命です。」


ゴロスーグの趣味の悪い冗談には返答せずユークリートは続けた。




「数千ある異世界を救う勇者を生み出し、助け、異世界を滅ぼさんとする魔王たちを打ち倒させることが我々の使命。

そして、私たち”ワルキューレ”は異世界全てを生み出した”神”の子として生まれました。私を長姉として、その下に5つ子がいます。」


「・・・・・・。」




エライトは黙ってユークリートの顔を見ている。


ユークリートは後ろを振り返り、立っている転生の女神達を見た。




「アルレッキーノ、イルレウォーレ、ウルレカッスル、エルレケネン、オルレア。

そして、私ユークリートが異世界全体を統率しながらここにいる5つ子が全ての異世界転生に関わっています。」




「見たところあなたを入れても4人しかイないようですが。あト、二人足りないのでは?」

所々、発音に癖がある分厚い丸眼鏡をかけた異世界転生者が初めて口を開いた。


ずっと腕を組んでことの成り行きを静観していた初老の男だった。




「ネゲテーテ。あなたの仰るとおりです。今この場にいないのはオルレアとウルレカッスル。オルレアは今、別の用事にあたってもらってます。」


そのままユークリートは続けた。


「しかし、ウルレカッスル、5つ子の真ん中の子であり、最も能力が高く、私の下で”ワルキューレ”の副女神長を務めていた彼女の犯した”罪”。

その”罪”は我々だけではどうにもできず、皆様にも手伝っていただきたいのです。それが今回皆様にお集まり頂いた理由です。」




「その”罪”ぃ?」

ゴロスーグが反応した。


「そう、ウルレカッスルの犯した罪。そして、現在も犯している罪。

異世界転生を行う”ワルキューレ”の副女神長をも務める彼女はあろうことか、異世界転生者を滅ぼすことを考えました。」


「なんだと・・・!異世界転生者を滅ぼす?」


エライトが初めて感情をあらわにした。静粛を保っていたエライトの声と表情には怒りと驚きがあらわれていた。

他の異世界転生者たちも同じくどよめいていた。




「はい。私達がその”罪”に気づいたときには遅かった。


”反逆の女神”としてウルレカッスルはある1人の異世界転生者を”異世界転生殺し”として使役し、様々な異世界を転移させながら、彼に各異世界の転生者をさも悪者であるかのように吹き込んで次々と殺させているのです。」


「フむ。女神長ユークリート。一ツ質問をよろしいですカ?」


自分で改造したタキシードスーツに身を包んだネゲテーテが手を挙げた。




「何でしょうか。」


「甚だ疑問なのですが、『異世界転生者は”チート級スキルを与えられる”だけでなくさらに”権能”という唯一無二の特殊スキルが与えられ、それぞれの異世界の魔王を打ち倒すだけの力が転生時に備わる。』

そういった要件であると我が女神オルレアに聞いたのですが。」


「そのとおりです。」


「そういうことでしたら、疑問ですな。

チートな転生者に勝てるなど、そのウルレカッスルの転生の女神としての力、つまり”権能”を付与するは力は相当なものがあると見受けられる。


普通の異世界転生者よりも強い異世界転生者を生み出せたのですから。


しかし、あなたは”女神長”だ。”副女神長”ウルレカッスルよりも位が上だ。

とすると、”異世界転生殺し”に勝てるほどのチートスキルや”権能”を我々に付与して対抗させることができるのではないですかな。」


 IQが高く、古代石器時代異世界”アンデルタ”で”恐竜魔王(レックスロード)”を倒すべく戦略と謀略を繰り返すネゲテーテは頭の回転が速かった。




「仰っていることはわかります。しかし、ウルレカッスルは特殊なのです。


異世界の創造主であり父たる”神”に彼女は特に愛されており、他の転生女神には無い能力があたえられてきました。


その中でも特例として与えられたのが <異世界転生殺し(チートキラー)>のスキルを付与することでした。」


「<異世界転生殺し(チートキラー)>?」


「<異世界転生殺し(チートキラー)>は”異世界転生殺し”にのみ与えられた唯一無二の”権能”。


つまり、異世界最強の存在のはずの異世界転生者の弱点が分かれば”一撃で異世界転生者を殺せる”という最強を超えた最強の能力(スキル)なのです。」


「オイオイ!最強の上を行く最強って・・・大富豪のローカルルール後出しするやつかよ。」


ゴロスーグが謎の例えをしてつばをはいた。


 モレネににはその意味が分かり、下を向いて笑いをこらえたがゴロスーグに睨まれすぐに真顔に戻った。


 同じく意味の分かったガイデンラーフェはその例えが上手いとは思えなかったがゴロスーグと同じような気持ちだった。


 そんなチートを超えるチート野郎に何をしろというんだろう。




「皆様の力を合わせれば”異世界転生殺し”を打ち倒すことは不可能ではありません。」


暗い雰囲気を払拭するようにユークリートが少し声を張って言った。


「つまり?」


エライトが鋭い目つきで睨む。物腰や話しぶりからするに普段は温厚なのだろうが、今ばかりは厳しい雰囲気をまとっているのだなと観察力の高いネゲテーテは見て取った。




「”異世界勇者同盟”を結成させて頂きたいのです。」


「異世界勇者・・・同盟・・・!?」


ネゲテーテやエライト、ゴロスーグを含め、その場にいた異世界転生者の誰もが困惑と驚きの表情を浮かべた。


ユークリートは何も言わず、ニッコリと静かに笑った。

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