第13話「ゴブオ」
デリトたちは再びゴブリンキングに戦いを挑む。
ゴブリンキングは”権能”で圧倒的な力を持つ破壊竜を出現させ、デリトたちは再び窮地に陥ったが、ゴブリンキングことゴブオの”権能”の弱点に気づき、デリトはあることを試す。
「キング!侵入者たちが王座の間へ現れたようです!」
次の日の昼頃になると寝室で寝ていたゴブリンキングの元にネドカイが走ってきた。
「ほう、あと数日は隠れて策を練るものと考えていたが早いな。分かった。すぐ行く。」
ゴブリンキングとネドカイが到着すると既にデリトたち3人がゴブリン兵に囲まれていた。
「よう、ゴブリンの王様。ご機嫌うるわしゅう。」
デリトはゴブリンキングに気づくとわざとらしくお辞儀をした。
「くくく、侵入者殿もお変わりないようで。」
ゴブリンキングはニヤリと笑い、恭しくお辞儀を返した。
「キング、今なら奴らを一網打尽にできます。弓矢隊も隠れて既に戦闘体勢に入っております。」
ゴブリンキングの側近がこっそりと耳打ちした。
「やれ。」
ゴブリンキングは侵入者たち3人から目を話さないようにしながら小声で返答した。
「どうした?裸の王様。」
デリトがニヤニヤとしながら少し離れた位置にいるゴブリンキングへと大声で呼びかけた。
「ふん。挑発には乗らん。何を考えているかわからないが・・・」
その時、王座の間の壁が一斉にパタパタと動き隠し扉が開いてゴブリンの弓矢隊が現れた。
弓矢隊は一斉に矢を、侵入者へ向けて放った。
「くそっ!」
デリトは悪態をついた。
降り注いだ弓矢の雨は侵入者の周囲にいた味方のゴブリン兵もろとも攻撃した。
「・・・何を考えているかわからないが、我が軍と私の敵ではない!!」
ゴブリンキングは先程言いかけた言葉を継いで勝ち誇った。
「キング!危ない!」
側近の声が届くかどうかのタイミングで、数十本の弓矢が地面と並行にゴブリンキングへと襲いかかった。
「何!?」
チート級の動体視力で弓矢を避けながらゴブリンキングは弓矢の雨の中心に目を凝らした。
見ると、デリトたちの周囲に光の膜が現れ、弓矢を弾いている。
それどころか、跳ね返った弓矢の速度が上がっているようにも見えた。
バリアーに跳ね返りのスキルを付与したデリトのオリジナルの技だった。
「ちっ、さすが異世界転生者というべきか、重火器類だけでなくバリアなどと。もはや何でもアリというわけだな。」
弓矢隊の攻撃が終わると今度はゴブリンキングが悪態をつく番だった。
横ではゴブリンキングの指示を軍に伝えた側近が数十本の矢を全身に受け、横たわっている。
ネドカイはゴブリンキングの後ろにいたホブゴブリン兵に隠れていて無傷だった。
ホブゴブリンはマッチルカンと同じく通常のゴブリンよりも3倍大きい種族で頑丈な種族だったため弓矢の攻撃を受けても倒れずにいたが、それでも既に虫の息だった。
「何でもありなんて、お前に言われたかないぜ。死人を使役するような奴になぁ!どや!」
ボッチェレヌが胸を張る。
「ボッチェレヌ、何もしてないお前が言うセリフじゃないだろ。」
デリトがあきれて周囲を見回す。
あたりにはバタバタとゴブリン兵たちの死体が転がっていた。
ゴブリンキングはしかし、落ち着いていた。
「良くわが軍の弓矢攻撃を防いだな。だが、まぁ、この程度予想はしていた。これがお前らの策なのか?だとしたら期待外れだ。」
「はーん。ゴブリンの王様は我々の手の内が知りたいと見える。・・・だがな、自分で考えろってんだこの短足め。」
デリトはあえてゴブリンキングを挑発した。
「くくく・・・!挑発など聞かぬというたろう。だが、私の本気を見たいようだな!良いだろう!<蘇りし我が戦友>!」
ゴブリンキングが呪文を唱えるとゴブリンゾンビたちが地面から現れ、デリトたちの足を掴んだ。
「キャー!!!」
腐りかけのゴブリンの手に、ほっそりとした足首を掴まれゾーレが悲鳴をあげた。
「何かの罠でも用意しているのだろうが、私とて何の策も無くお前たちをただ探していたとでも!?」
「こいつ、地面の下にゴブリンゾンビたちを埋めていたのか!」
「うじ虫湧いてるやつもいるしー、ばっちー。」
空に浮かんだボッチェレヌはゴブリンゾンビの攻撃をひらりひらりと躱してのんびりとしていた。
「くくく、ははは!貴様らもすぐに我が配下のゾンビに加えてやろう!良いぞ、ゾンビ共は。文句も言わずに他のやつの何倍も働いてくれるからな!前世での私の部下たちのようにな!」
「・・・貴様はコンプライアンス違反バリバリのブラックな部長だったって豪語してるらしいじゃないか!それを生まれ変わっても誇ってるなんてどうかしてるな!」
ゴブリンゾンビたちを<無限重火器>で蹴散らしながらデリトが叫んだ。
ゾーレも落ち着きを取り戻すと魔法で造った剣を目にも留まらぬ速さで振り、ゾンビたちの手足を切断していった。
「ブラック?ふん、確かに多少私は厳しかったかもしれん。だが、その分、給料やボーナスはしっかりと与えていたし、業績は競合の中でトップクラスだった。私のチームは何度も優秀賞をとっていた。
部下たちもさぞ誇らしかったに違いない!」
「人の気持ちなんてわかるものか!
俺も前世では上司の古臭いやり方が合わず、少し反発しただけでクビに追い込まれた。
小汚い手を使ってな。お前も同じようにそんな最低の上司ではないのか。」
「私の組織運営は最高だった!お飾りの社長の代わりに私がなっても良かったくらいだ!」
「なれるならとっくになれてたんじゃないのか!さぞかし、部下の中でも恨んでるやつがいたと見えるな。」
ゴブリンキングはぎくりとした。
ぼんやりと何かが脳裏をよぎったがそれが何かは分からなかった。
「口の減らぬ奴め。仕方あるまい、貴様にはお仕置きが必要なようだな。破壊竜よ!<蘇りし我が戦友>!」
ゴブリンキングの号令で地中が震えだし、地面の上を這っていたゴブリンゾンビたちを吹き飛ばして破壊竜が現れた。
「ようやくお出ましだな!くそでかい蛇め!」
ボッチェレヌがシュッシュッとパンチを繰り出す。
「見せてやろう。破壊竜よ、世界を滅ぼしたその光を今ここに!」
ゴブリンキングが号令をかけると破壊竜の3つあるうちの中央の目が光り輝き、一閃のレーザーが宙を切り裂いた。
「でた巨○兵レーザー!」
ボッチェレヌが手に汗握る。
「<超高硬度防御壁>!」
デリトは即座にバリアを張る魔法を唱えた。
そのバリアーはSクラスの魔法スキルだった。
バリアは破壊竜のレーザーを防ぎきると大きな音を立てて割れた。
「残念だな!その蛇さんの破壊光線は対策済みだ!」
「ほぅ、なるほど。ではこれではどうかな、<蘇りし我が戦友>!」
ゴブリンキングが手を掲げるとあたり一面の地面が隆起し、破壊竜が5体追加で現れた。
「おいおい、蛇のおかわりは希望してないぜ・・・!」
デリトは見るからに焦りの色をみせた。
まさかあのとんでもない怪物が複数体いたとは。
「ククク。そのバリアで防いでみせろ!」
ゴブリンキングが合図をすると破壊竜たちは一斉にデリトめがけてレーザーを放った。
再びデリトはバリアを張ったが、今度は防御魔法で少し強化していた。
「うぐ・・・!」
1体分ですら強力なレーザーの前にデリトのバリアの効力はぎりぎりだった。
レーザーの照射が終わり、バリアーが割れるとゴブリンキングは高らかに笑った。
「ククク・・・ハハハ!どうした、我が破壊竜は無尽蔵にこのレーザーを打てるぞ!それに対して貴様はどうだ!一回のレーザーに耐えるのに精一杯ではないか!」
デリトは再びバリアの準備をしていたが、ずっと気になっていたことがあった。
かつて、本当の意味で世界を滅ぼす寸前にまで至ったという破壊竜たちのレーザーは山ひとつを軽々と蒸発させるほどの力を持っていたという。
それをカロウたちに聞いていたデリトは疑問に思っていた。
いくら地下空間にいるとはいえ、破壊竜たちのレーザーはこの程度の力なのだろうか。
破壊竜はかつて滅ぼされたときのまま全身に傷を負っていて、腐敗も進み、内臓や筋肉、骨の損傷も激しいように見えた。
そして、破壊竜の中でも内臓の損傷が激しい個体ほどレーザーの威力が弱いように見えた。
きっと、破壊竜たちのレーザーは特殊な内臓でつくられていて、ゴブリンキングはそれを強制的に動かしてレーザーを発している。
ゴブリンキングの得意な回復魔法で内臓を治癒すればもっと強力なレーザーを出せるのではと思ったが、あえてそうしない理由は・・・?
その理由は明白だった。
「ゴブリンキング、貴様は回復魔法が使える割には破壊竜の傷は放っておくんだな。」
「・・・なんだと?」
「破壊竜は回復しないのかと聞いているんだ。」
「・・・私は生と死を操る”権能”を持っている!回復魔法も死人を操るのも簡単なことだと忘れたか!息をするように最上級の回復魔法を使えるのだ!」
「生と死を操る?本当か?ただの死体を操るだけではないのか。」
「私はステータススキル<生生流転>の効果で回復魔法の効果を10倍にする!文字通り貴様の<最上級回復>に比べて段違いだと知れ!
破壊竜よ、あの馬鹿者を滅ぼせ!」
ゴブリンキングはデリトの質問には答えず破壊竜にレーザーを撃たせたが再びデリトのA級バリアによって防がれた。
ゴブリンゾンビはデリトの後ろでゾーレやボッチェレヌが対処している。
息をするのと同じくらいに回復呪文が得意だと。
ならば、なぜ死者に回復呪文は使えないのか、既に死んでいるから回復ができない、いや、あるいは・・・。
「<最上級回復>!」
デリトは破壊竜のレーザーを防ぎ終えると、最上級の回復魔法を唱えた。
実はデリトもゴブリンキングと同様にSクラスのステータススキル<生生流転>を持ち、発動していた。
いくら異世界転生者とはいえ、簡単にSクラスのスキルを手に入れることはかなわないが、以前訪れた病のはびこる異世界”ウィルスクルーズ”でたまたま得たレアスキルだった。
「何!?」
しかし、ゴブリンキングが驚いたのはそのスキルを持っていたことではなかった。
デリトは自分ではなく回復魔法をゾンビたちにかけたのだ。
ゴブリンキングの<蘇りし我が戦友>によってよみがえったゾンビたちが灰になりボロボロと崩れていく。
「やはりな!アンデッドには回復魔法か光魔法が効くと相場が決まっている!
貴様は破壊竜やゾンビ達を治さないのではなく治せないのだ!」
デリトは連続して<最上級回復>を唱えることで、広範囲に回復魔法をかけた。
「すごい・・・!」
ゾーレは回復魔法によって崩れていくゴブリンゾンビをみていた。
破壊竜はゾンビである以前に炎の属性も持っていたため、回復魔法だけではゴブリンゾンビほどには崩壊は進んでいなかったが、既にレーザーを照射できるほどには体は残っていなかった。
「やるではないか・・・だが、それでもお前は私には勝てない!」
ゴブリンキングは”権能”を駆使するのをあきらめ、自分自身の力でデリトを倒すべく跳んだ。
言葉とは裏腹にゴブリンキングには焦りが見えていた。
ゴブリンキングの拳とデリトの拳がぶつかり合う。
「確かに俺はお前には勝てないかもしれない・・・だが、異世界転生者はその異世界”最強”でも”無敵”ではない!」
そう言うとデリトはゴブリンキングの腹に強烈な蹴りを見舞った。
「がは・・・!」
ゴブリンキングの体は遥か遠くに吹き飛び、瓦礫に突っ込んだ。
異世界”ゴブリンズスレイブ”の”主”に等しい異世界転生者であるゴブリンキングに、”よそ者”である異世界転移者であるデリトがステータスで勝てるわけはなかったが、
「ぐは・・・!」
ゴブリンキングは瓦礫の中から現れた。
当たり所が悪かったらしい。
腹から血が出ている。
「キング!大丈夫ですか!」
すると瓦礫の後ろから誰かが現れゴブリンキングを支えた。
「ああ、大丈夫・・・」
急にゴブリンキングは背中に痛みを覚えた。
「血・・・?」
痛みを感じた部分を触るとその手には血がべったりとついてきた。
後ろを振り返るとネドカイが震えながらゴブリンキングの背中にナイフを突き立てているのが見えた。
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