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まちがって、失って  作者: 花咲
1/3

前編

短いお話で、前編と後編の編成になっております。

ーーーグリフィース家の次女、リゼットは、その国の王子様に学園で見初められ、妃となることが決まりました。

生家の悪事を王子と共に暴き、その勇気と聡明さを讃えられ民からも多くの支持を得ました。


ほかの婚約者候補達にも認められ、教育を経て無事に婚約者となったリゼットは、王子から処刑が決まったと告げられた時に自分も立ち会うと言いました。

虐げられていても、道具だとしても、確かに自分を産み育てた家族の最期を、見届けるべきだと感じたからです。

その主張は受け入れられ、王子は震えながらも気丈に前を向くリゼットと共に、処刑場へと向かいました。


「ちがう!私は無実なんだ!

全ては娘たちが仕組んだ事だ! これは陰謀だ!」


「わたくしは何もしておりませんわ! 陛下、誤解なのです!」


父と母は、処刑台に立っても、無罪を主張し続けていました。ですが、証拠は明らか。リゼットの虐待の報告も、不正の報告も上がってきています。リゼットは “死”という現場に立ち会い、泣きながらも静かに、その最期を見届けていました。

父と母が終わり、最後に1人の少女が処刑台に上がってきました。最後は、姉の処刑で終わるのです。


…………そう、終わるはず、だったのです。







「………ぇ………?」

リゼットは、思わず立ち上がり、目を見開き、一瞬息をすることすら忘れました。そのまま柵まで行き、姉の姿を凝視しました。

「どうした、リゼ」

王子は怪訝そうにリゼットの元へ歩み寄ると、肩に手を置きました。リゼットは、ただ震えるばかりです。そして、姉とリゼットの目が合いました。


「…………!」

姉………ロゼットは、思わず、と言ったように驚いた表情をするも、少し切なそうに目を細めると目を逸らし、元の無表情に戻りました。


「………………! お姉様!」

リゼットがはじかれたように腰ほどの柵を越えようとします。驚いた王子は、リゼットを抱きしめました。

「どうしたんだ、リゼ!」

「なんで………! どうして、お姉様が…っ!」


王子は、リゼットに『グリフィース一族の処刑が決まった』と伝えていました。リゼットは、姉が不正に関係ないことを知っていました。それを王子に訴えていたはずです。ですが、今。ロゼットは処刑台に上がり、罪人としてそこにいます。


「お姉様! なんで! いや! やめて………!」

泣きながらリゼットは王子を振り払おうとしますが、王子もまた強くリゼットを抱きしめます。

「大丈夫だ、もう怖くない。辛いなら、目を瞑っていても、耳を塞いでいても…」

「違うの! お姉様は、違うのぉ!」

実の姉の死が怖いのだと思った王子は、リゼットを抱きしめたまま広間を去ろうとします。

「やっぱり帰ろう。もう十分、リゼは頑張ったんだ」

「いや、嫌です! やめて! 誰か止めてください!いや!止めて!お姉様ーー!」

観客や役人は少しリゼットに注目していたが、王子の頷きを見てまたロゼットの処刑の準備をし始めます。

その断頭台にはまだ父と母の遺体と、紅い、紅い血が残っています。


ロゼットは、泣いて叫んでいるリゼットを見ました。

「ーーーーーーーー」

「………………ぃや!」

声は、聞こえません。ですが、ロゼットの最後の言葉の意味を、リゼットは理解しました。……いや、理解してしまったのです。


ロゼットが、まだ血の乾かない断頭台に首を入れました。目を瞑り、抵抗はしません。

リゼットを除く誰もが、静かに、その災いのグリフィース家の終わりを見届けようとしています。


「やめてーーーーーーーーー!」

処刑の瞬間、リゼットは一層強くロゼットの元へ駆け寄ろうとします。2人の護衛も、王子を手伝ってリゼットを止めに入りました。

「危ないから、ね? リゼ、大丈夫だ、全ておわるから」

「お姉様! お姉様! ぃゃあ!」


処刑人が、断頭台に手をかけ、そしてーーーー



ぬちゃ、という音とともに、断頭台が上がっていきます。

「ーーーーーーーっ!」

目を覆おうとした王子の手が空振り、リゼットは、姉の最期を目に焼き付けてしまいました。



「………もどろう、リゼ」

動かなくなったリゼを抱きながら、王子は建物へと入っていきました。最愛の婚約者が、もう苦しまないことを願いながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「………あら、殿下! 御機嫌よう」

穏やかな日の差し込む、温室。花は綺麗に咲き誇り、その中央にお茶とお菓子を嗜みながら座っているリゼットが居ます。

「あぁ、リゼ。お茶会かい?」

王子は愛おしげにリゼットを見つめます。

「はい、殿下!」

王子の隣で、護衛がリゼットを痛々しい目で見ています。


「僕も、一緒にいてもいいかい?」

「えぇ、勿論です!

もうすぐお姉様が来る予定なのです!」

リゼットは、花が咲いたように笑います。そうか、と王子はリゼットの前の席に座りました。


「今日は、なんのお菓子かな?」


「マカロンを多めにもらいました。お姉様はチョコレートのマカロンが好きなのです。

ストロベリーティーも、私がこの前商人から買った珍しいものなのですよ?」


その温室の中には、ロゼットの愛したスミレや、カスミソウが保存魔法で美しく咲き誇っています。


その中で、リゼットはロゼットが誕生日にリゼットに贈った髪留めと、ロゼットのイヤリングを着けています。


「ロゼットは、遅れてくるかもしれないよ?」

「いくらでも待てますわ、お姉様の為ですもの」

「妬けるな、僕の事もちゃんと見ててよね?」

「も、もう!殿下ったら………!

私、お姉様に結婚式の付き添い人をして欲しいのです。いい返事を貰えるといいのですが……」

「きっと貰えるさ。大切な妹だからな」

「………ふふ、楽しみですわ」


リゼットは、笑い続けます。王子も、リゼットとの茶会を楽しみます。仲睦まじい2人は、きっといい夫婦になり、国を治めることでしょう。

…………二度と来ることは無い姉を、ロゼットを待ちながら。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーー



「…………はぁ」

王子は1人ため息をつきました。

全ては、あの日から。姉の処刑で、リゼットは壊れてしまいました。今もずっと、姉が生きていると思っているのです。


どこから、間違えたのでしょうか?

何が違ったのでしょうか?


学園で出会ったリゼットは、とても可愛らしい人でした。聡明で、勇気があり、そんなリゼットに、王子は惹かれたのです。

最初は警戒していたリゼットも、だんだん王子と仲良くなっていきました。

そして、ある日。普段制服の上からカーディガンを羽織っているリゼットが、偶然脱いだところを見かけたのです。人のいない所で、暑かったのでしょうか? 普段見られないその肌を見た瞬間、王子は背筋が凍りそうでした。

白く、綺麗な肌がある筈だったそこには、無数の痣があったのです。


「リゼット嬢………?」

「………っ! で、殿下!」

リゼットは直ぐにカーディガンを着てしまいましたが、王子には見えてしまいました。問い詰める王子に、リゼットは最初自分の不注意だと言いました。

ですが、いつになっても減らない痣を見かねた王子はリゼットに強く問い詰めました。


「…………じつ、は…」

王子は、驚きました。自分の娘に手を上げる親が居るだなんて、信じられなかったからです。そしてその怪我は、明らかに躾の域を超えていました。

そして、王子はリゼットに言いました。

「リゼット嬢………僕は、君が…好きなようだ。

僕に、君を守らせて欲しい。」

静かに、2人だけで行われたその告白を、リゼットは受け入れました。


数ヶ月が経ち、リゼットが王子に完全に心を開いた頃、王子はリゼットからグリフィース家の不正のことを聞いたのです。


「本当……か? いや、怪しくはあったんだ。申し訳ないが、調査はしていた。」

元々目をつけていた家の不正を、王子は知ることになったのです。


グリフィース家は、明らかに怪しい家でした。

政敵は没落したり、汚名を被ったりしています。

領地の人々は、少々生活に困っているようです。

国庫のお金の計算が合わないこともあります。

加えて、リゼットへの虐待。

その日から、王子とリゼットは手を組み、不正を暴くことを決意しました。


「姉も私も、この不正をずっと知っていました。」

ある日リゼットは王子に語りました。

「子供の私たちに難しい話は分からない、分かったとしても何も出来ないと高を括っていたようなのです。

………実際、私達は何も出来ませんでしたが」

「大丈夫だ。君は僕が守るから。一緒に戦おう。」

「………はい、殿下」



「私は、お姉様が大好きなのです」

「へえ、仲がいいの?」

「はい、あの家でただ2人の姉妹でしたから……。悩みも、嬉しいことも、全てお姉様に話していました」

リゼットは、姉をとても慕っているようでした。


(リゼットがロゼットを慕っているなら……ロゼットも何とか助ける方針で行くか……?)

そう王子が思っていた矢先の事でした。

王子は優秀でしたが、詰めの甘いところがありました。ある日の調査で、あることが分かりました。


リゼットへの王子からの贈り物を、ロゼットが壊したらしい。

ロゼットはリゼットが殴られているのを見て見ぬふりをしたらしい。

王子の恋人になったリゼットを妬んでロゼットが嫌がらせをしているらしい。


王子は、思いました。

リゼットがあんなにロゼットを慕っているのに、ロゼットはリゼットを裏切っていたのか、と。

リゼットはロゼットに騙されているのではないか、と。


ここで、王子がもっと調べていたら、リゼットに話を聞いていたら、こんな結末には、ならなかったのかもしれません。

全ては、仮定の話。もしもの世界は、存在しないのです。




それからリゼットに内緒でロゼットの断罪の準備を進めました。仲の良い2人のことです。リゼットに急にそんなことを言っても、信じて貰えないことは目に見えていました。なので、王子はリゼットが落ち着いてから言おうと思っていたのです。

そして、全てが明るみに出る日。

王子とリゼットは学園を休み、グリフィース家に兵を向けました。奇しくも、ロゼットも学園を休んでいました。


「動くな! グリフィース家一族をこれより陛下の命により捕える!」

「何を言っている! おい、つまみだせ!」

「無駄ですよ」

「な! で、殿下…」

追い詰め、無事に捕らえて、全てを終わらせた。

罪状は父である陛下も知っており、死罪はほぼ確定していた。

この時になっても、僕はリゼットにロゼットの事を伝えられなかった。ロゼットはどこに、という問に対して、リゼット以外の家族は全員事情聴取中だと答えるしか無かった。リゼットにも事情聴取は行っていたので、怪しまれはしなかった。

王子は許せませんでした。無邪気に慕うリゼットを無下にする、ロゼットのことを。だから、ロゼットの処刑を最後にまわしたのです。


正直に言おう。こんなにリゼットが取り乱すとは思わなかったのだ。処刑の時にロゼットを見た瞬間驚いたのは分かった。言ってなかったからだ。だが、リゼットは見たこともないくらい必死にロゼットに駆け寄ろうとしていた。処刑の瞬間リゼットは固まり、目から一筋の涙が零れたのを見た瞬間、己の間違いに気がついた。

あまりにも気になり、リゼットを部屋に届けたあと俺はロゼットの遺体を見に行った。

「……………あぁ…………!」


普段長袖ばかりを好み、あまり肌を見せなかった彼女の身体には、リゼットと同じくらい酷い怪我が刻み込まれていました。

そして、王子もロゼットがリゼットに最後に言おうとした言葉を、紡いでいた口を見ていました。

『しあわせになれるよ』

最後にリゼットに向けたあの慈愛の目を、見ていました。


「…………くそっ!」


分からない。

ロゼットはリゼットと同じ虐待を受けていたのだろう。そして、同じ境遇で頼れる人が互いしか居ないふたりは、とても仲が良かった。

なら何故、ロゼットはリゼットに嫌がらせを行った? 何故リゼットを裏切る真似をした?

王子には、分かりません。何も、分からなかったのです。







王子は、城の図書館で古代の魔法の中から、記憶を見られる魔法を見つけました。

絶対に、してはならないことです。

他人の記憶を覗くのは、その人の記憶を全て知ってしまうということ。

恐ろしいものです。知られたくないものまで、知られてしまうのです。

ですが、これしか道はありませんでした。

リゼットの記憶を見るしか、真実を知る手立てはなかったのです。

そして、リゼットと己に魔法をかけました。

「………ごめん、リゼ」

リゼットは、眠っています。微かに笑う口元は、きっと楽しい、幸せな夢を見ているのでしょう。

王子も、眠りにつきます。


「ーーーーーーーーっ!」


そこで、知るのです。

リゼットとロゼットの過去を。

彼女たちの歩んできた、感じてきた、人生の全てを。

たくさんの評価・誤字報告本当に感謝です!

拙い文章ではありますが、最後までご鑑賞頂ければ幸いです

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