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瞑怒雨  作者: 藤和
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空っぽの缶コーヒー

 梅雨が明けた。曇りがちだった空は透き通った海のように青く澄んでいる。昼休みの屋上には俺と阿久津沙耶の2人だけ。阿久津は空に手を伸ばして何かを掴もうとしてやめた。掴もうとした先に何もなかったのか、それとももっと手を伸ばさなければ届かなかったのかはわからない。もしかすると、その行為に意味なんてないのかもしれない。


 俺は空に手を伸ばす阿久津を横目にサンドウィッチを頬張る。セブンイレブンのサンドウィッチはシャキシャキとしたレタスとみずみずしいトマトが挟まっていてたまらなく美味しかった。


「それ毎日食べてるけど飽きないんですか?」


 阿久津はそう言って缶コーヒーを飲んだ。


「飽きないねぇ。もうこれがなきゃ生きていけねぇよ」


「じゃあそれ販売中止になったら死んでくださいね」


「嫌だよ怖いもん。俺は阿久津みたいに自殺しようだなんて思わないよ」


 阿久津は静かに笑って缶を下に置く。カランと音が鳴った。缶も今の会話のように、中身が無いのだろう。


 俺たちは別に付き合っているわけでもないしお互い好意を持って接しているわけでもない。阿久津沙耶はただの後輩で、部活が同じというわけでもない。そもそも阿久津は部活に所属していないのかもしれない。それくらい俺は彼女のことを知らないし彼女も俺のことなんて知らないのだろう。そんな俺たちが屋上で一緒に昼食を食べているのは奇妙な光景だと思う。


 しばらく沈黙が続いた。全く接点がないと何を話していいのかもわからない。ただでさえ俺は人と会話するのが苦手なのだ。だからこうして昼休みには人がいない屋上にわざわざ足を運んで昼食をとっている。


「あれから2週間くらい経ちましたね」


 あれから2週間。それは長かったようにも短かったようにも思える。


「驚いたよな。屋上行ったら自殺しようとしている人いるんだもん」


「そんな軽く言わないでください」


「でも事実だろ」


 そう言うと阿久津は黙り込んでしまった。少し雑に返してしまったかなと心の中で反省する。いつも距離感がつかめず人を傷つけてしまうのは悪いところだと思う。


 2週間か、と小さく呟いてペットボトルのコーラを勢いよく飲んだ。


 2週間前、この屋上で阿久津沙耶は自殺を図ろうとしていた。


 あの日のことは詳細に思い出すことはできないが空が曇っていたことは覚えている。真っ白なパレットの隅で混ざりあった絵の具のように、薄汚れた雲があったことだけははっきりと思い出すことができた。







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