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ブスと美獣

作者: 雪水

昔々、あるところに世界で一番小さな国がありました

その国は小さいけれど、建物や、景色がとても美しく、また、その国の人々もとても綺麗で、毎日多くの人が、訪れていました

あるときその国に、一人のお婆さんがやってきて言いました

「あたしをこの国に住まわせておくれ」

それを聞いた人々は、お婆さんを笑いました

あなたみたいな醜い人が、ここに住めるわけないでしょう?といい、お婆さんを国から追い出してしまいました

この国の人々は姿は美しくても、心がとても汚かったのです


その夜、お婆さんが王様の元を訪れて、また言いました

「あたしをこの国に住まわせておくれ」

王様も、お妃様もお婆さんを笑いました、しかし一人だけ笑わなかった人が、いました。それは、この国のたった一人醜い姿をしている王子でした

「僕の住む離れを貸しましょう」

王子はお婆さんに自分の部屋をかし、外で寝泊まりするようになりました

お婆さんが何故そうしたのか聞くと、王子は笑って言いました

「姿が美しくないのだから、心まで醜くしたくない」

お婆さんはこの王子の心の綺麗さを褒め、一つのおまじないをしました

「あなたが一つ望んだことが叶うようにしたよ」

お婆さんはとても力の強い魔法使いでした

王子はお婆さんに誓いました、その力を人のためにつかうと

お婆さんはしばらく王子と暮らした後、また旅に出ました

またきっと会いに行くと、王子と約束して


しかしある日、王子に弟ができました、王様、お妃様に似たとても美しい子で、いらなくなってしまった王子は、王の命令により兵士に殺されそうになりました

醜いだけで殺されそうになったことに、激しい怒りを感じた王子は、こう願いました

「この国の美しい全てのものを醜くしたい!」

…湖は濁り、花々は枯れ、建物は古びて、人々は醜い獣となりました

そして、誓いを破ってしまった王子も、獣となりましたが、人々とは違い、その姿はとても神話にでてくるユニコーンのようで、神秘的でした

王子は泣きました、いくら美しくなっても、人の姿ではなくなってしまったのですから……

しかし、手はもう前足になってしまい、涙を拭くことができず、王子の足元には大きな水溜まりができてしまいました

泣き疲れ、城に戻ろうとした時、王子の前にあのお婆さんが現れました

王子は自分のために力を使い、国をめちゃくちゃにしてしまったことをお婆さんに何度も謝りました

お婆さんは獣になってしまった王子の頭を撫でていいました

「お前が、心から誰かを愛し、愛されたた時、この国は元に戻り、お前も元の姿に戻る。しかし、今のお前の姿を見て、美しいと思った人間は石になってしまうんだよ」

そして、二つの魔法を使いました

一つは、王子が大切に使っていた道具達を人の姿にしました

もう一つは、5年に1度、この城に住む土地神様に生け贄として美しい女性を捧げなければ、国が滅んでしまうという言い伝えを作り出し、隣の国に広めました

魔法を使うとお婆さんはまたどこかへ行ってしまいました


道具達は使用人として、王子を支え、尽くしました

そして、5年ごとに美しい女性が城に来ました

しかし、どんな美しい女性も王子を見た瞬間、石となってしまい、王子は悲しみで塞ぎ込むようになってしまいました


そして、時が流れ、十何人目かの女性が来る日が近づきました

噂によれば、数々の美しい男の求婚を断ってきた絶世の美女らしく、これならば石になることはないだろうと、使用人達は喜びあいましたが、王子は塞ぎ込んだままでした

そして、女性はやって来ました、薄い布をかぶり顔は見えませんでしたが、声がとても美しく、使用人達はますます期待で胸を膨らせました

「ささ、こちらへ」

「そのさきに…土地神様がいらっしゃるんですか?」

「えぇ」


怖がった様子のない娘に、安心したのか、王子はおずおずと出ていき、布を取るよういった

「取る前に………貴方に触れることはできるのですか?」

「…あ、あぁ」

「ふふ、よかった」

驚いたよういった王子の答えをきき、鈴のような声で娘は笑い、布を取ると同時に隠し持っていた猟銃を打ち鳴らしました



布を取った娘は美しいとはかけ離れた、昔の王子程では、ありませんが醜い顔をしていました

「流石にこれで退治はできないと思ってたけど…痛かった?」

国一番の猟師の娘で、生け贄の女性のふりをして、王子を退治しに来たのです

「あたしは、カラ、騙して悪かったね、神様…本当の生け贄となるはずだった娘は、あたしの親友なの」

王子は不思議でした、この醜い娘がなぜ絶世の美女と唄われる女性と仲良くなれたのかが


「それで、私は生け贄として何をすればいいの?」

考えてみれば、この娘は王子を見ても石になりませんでした

娘は醜いため王子は迷いましたが、使用人達は運命かもしれないと王子を説得し、娘をここに留まらせようと嘘をつきました

「神を傷つけたお前は穢れてしまった、これでは贄として役目を果たせない、だからここで神に尽くすのです」


娘は使用人の一人となりました

彼女はどの使用人よりも働きました、とくに料理が得意で、窓から体を出して、鳥や野ウサギを狩っては、とっても美味しいスープを作りました

食事を運んで来たカラは、いつも王子が食べ終わるまで、そばに居て、二人で話をしました

「美味しい?」

「……あぁ、でもどうしてこんなに美味しいんだ?」

まだ18歳にもなっていない娘に作れるような料理ではありません

「私は親が早く死んで……引き取ってくれた人も料理ができる人じゃなかったからね、頑張って覚えたんだ」

娘には、若い義理の父親、年の近い兄と小さな弟がいるらしく、いつも三人の事を気にかけていました

「ちゃんと、ご飯食べているだろうか、洗濯はしているだろうか、考えだしたらキリがない、父さんなんて、几帳面に見られるけど、かなりズボラなんだ」

三人や親友のことを話すカラは、心配だ、というときですら、幸せそうに顔を緩ませるのでした


あるとき、どうしてカラは、石にならないのかが、皆気になり、聞くことにしました

「お前は、私は美しいと思わないのか?」

「私の父親の方が美しいからね」

彼女の義理の父親はこれまた絶世の美男子でした

自分と比べて、嫌になったりしないのか?と聞くと、カラは大きく笑っていいました

「美しくないのが私なんだから、自分を嫌になんてならないよ」


カラがきて二週間が経ちました

カラはおしとやかでも可愛くもありませんでしたが、昔の王子と同じくらい、心は美しく、王子はだんだんとカラの事を好きになっていきました

しかし、カラが王子を愛することはありませんでした

「これ以上未練を残したくはない、まだ私は穢れているのか?」

「……」

王子は答えることができませんでした

今までの女性達は石になってきていたのです

どうすればいいのか、どう答えればいいのか、さっぱりわかりませんでした


「王子、どうするんですか?」

「家に帰してやろう」

近頃のカラが家族を思う顔はとても悲しそうで、王子は見ていられなかったのです

カラは寝ている間に使用人達に隣の国まで帰されました

カラがきて明るくなくなった城がまたどんよりとして、使用人達もだんだんと道具に戻って行きました、魔法がとけていったのです



王子はまた一人になりました

また、生け贄の女性が捧げられる年がきました

その頃には、城はますますぼろぼろになり、今にも崩れてしまいそうでしたが、王子は外に出ようとはしませんでした

使用人達とカラとの思い出がたくさんあるこの場所を捨てることが、どうしてもできなかったのです


「もし、あなたが土地神様ですか?」

「……誰だ?」

「新しい生け贄です」

カラと似た、美しい声に思わず王子は振り向きました

そこにいたのは

「久し振りだね、神様、人間の姿みたいになってたから少しだけ、わかんなかったよ」

前とほとんど変わらないカラがいました

「…カラ」

「そっちの方が私は好きだな」

王子は本当の姿に戻っていました

前の醜い姿になっていましたが、カラは前と同じように笑いかけました

「私はあんたの嫁になりに来たんだよ、残念だったね、こんな醜い女で」

王子の目からは涙がぼろぼろと出てきました

でも、前のように水溜まりはできませんでした

王子の手はもう、人間のものだったからです

「私は神ではない、ずっと、嘘をついていて、悪かった」

「聞いたよ、あんたの友人を名乗るお婆さんにね」

カラは王子を抱きしめて言いました

「あんたを愛している」

その瞬間、崩れかけていた城はまたたくまにもとの美しい姿に戻りました


「こんな美しい城だったんだね」

「あぁ、そうだ……この城はとても美しくて…周りの景色も…」

建物は美しさを取り戻していましたが、森は薄暗く、花は1本もなく、湖は濁ったままでした

王子は悲しくなりました、この国が本当に好きだったからです


「あの美しい景色を、もう見ることは出来ないのだろうか…」

また泣き出しそうな王子に、カラは優しく笑いかけました

「大丈夫、森は木をいくつか切って日が入るようにすればいい、花は種をまけばいい、湖は綺麗にすればいいんだよ」

「そんなこと、できるのか?」

「できるよ、皆でなら!」

木の陰から小さな男の子が出てきて言いました

そして、その男の子につられて背の高い青年も出てきました

「俺はカラの兄のカイ、こっちは弟のカムだよ、よろしくな、王子様!」

二人は王子に向かって手を差し出しました


三人は仲良くなり、一緒に城に住むようになりました

二人もまた、カラと同じで醜い容姿をしていましたが、とても優しく働き者でした

その後、仕事で出かけていた歌姫や、カラ達の父親も城に住むようになり、また城は明るくなりました

王子達は、何日も何日も、国を綺麗にしようと働きました


カラ達の様子を見に来た村人も、王子の姿を見て手伝うようになりました

そして何年かたち、国は昔のような、いいえ、昔よりも美しい姿へと変わりました

そうして、王子は王様となり、カラはお妃様になりました

心の美しい二人は皆に好かれ、国は美しく優しい国として、毎日多くの人が訪れました

王様達は魔法使いのおばあさんに住んで貰いたいと何年もかけて探しましたが、誰もおばあさんを見つけることが出来ませんでした

その代わりに王様達は、誰でも住める国にしました

そして、二人は死ぬまで、互いを大切に思い続けました

めでたし、めでたし

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