表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

饒舌な前段

 急な呼び出しを食らったから何かと思ったら、まあ予想通りだったな、とでも言っておけばいいだろうか。それともそんな言葉じゃ不満かね。そう言う問題じゃないかな。まあ、前置きなどどうでもよかろう。君が気になっているのは、御託よりも実質的な回答だろうから。

結論からいえば、君が私と付き合いたいと言うのであれば、君の好きにすればいいと私は思う。デートだろうが、共同生活だろうが、何だって私は君に付いて行こう。君は私の意思がどうということに関わらず、私を好きに連れ回せばいい。私は君に連れ回されるのであればどこにでもついて行く。遊園地でも動物園でもカフェでもカラオケでも映画でも、極端な話、あの世にさえ、君が望むのならついて行って、君の道楽、君の話に身をゆだね、君と共にあることを誓おう。君が私に性的な興味を示すのであればそれを受け入れるし、母のような慈愛を求めるならば、適度に叱咤激励して君を支える存在となろう。私は一人暮らしだ。大概の事は何でも一人でできるから、炊事洗濯家事、まるでメイドのようにこき使ってくれても構わない。要するに、もし君がこれからする私の話を聞いて、それでも付き合いたいと言うのであれば、私はそれについて自分の持ちうる限りの最大限の奉仕をさせていただくつもりだということだ。

だがそれに際して言っておかねばならないことが一つだけある。これを言うと君は大層驚くかも知れない。なぜそんな態度なのに自分と付き合うことを承諾するのか、と私を疑い下手をすれば疑心暗鬼にとらわれるかもしれない。君がこれを聞いてそのように悩むのであれば私と付き合うことは止めておいた方がいい。私は君を無理やり引き留める気はない。では逆に、そうでない場合に何故付き合おうなどと言いだすのか、という疑問については、まあ、追々話すので、まずはその言っておかねばならない事をちゃんと聞いて欲しい。聴き逃すまでもないかもしれないが一応注意して聞いて欲しい。

それは君がどんなに私のことを好きになったとしても、私が君のことを好きになれるという保証はどこにもないということだ。

驚いたようだな。今君は、私のことを一方的だと思ったのだろう。なぜなら、自分と付き合うのであれば、私も君のことを好きであるという気持ちが少なからずどこかにあるという期待をしていたからだ。「君の好きにすればいい」と私が最初に言ったから、私も君のことが好きなのだと、君がその言葉を解釈したからだ。でも実際には違う。私は君のことが好きだから付き合うことを了承したのではない。君がそうしたいと言うから、そうすればいいと言ったまでだ。愛する感情と言うのは、愛される対象がどう思っていても留めようのないものであろう、まさに今の君がそうであるように。君は先ほど、おそらく私のことを一方的だと決めつけただろうが、もしそれならば私にも君のことを一方的だと思う権利がある。何せ私は君の今日の告白を避けることが出来ない。私の方が君よりも一方的な感情を押し付けられる可能性は大きかったわけだ。だが安心すると良い。恋愛などと言うものは、少なからず一方的、または独りよがりにならなければできるものではない。愛す方であれ、愛される方であれ、一方的に他者に感情を押し付けているという点では、全く変わりがないわけだ。

さて、ここまで私は君の告白に対する意見をつらつらと述べたわけであるが、それについての君の意見を問いたい。私は君を追うわけでもなければ拒むわけでもない。ここで終わりにしたいというのであれば、今まで通りの関係のままである。まだ付き合いたいと思う気持ちが残っているのであれば、まあ付き合えばいい。いずれにしても私の気持ちがどうこう、ではなく、君の選択である。別に意見ではなく、質問でも構わない。が、私がどう思っているのか知りたい、という質問は、ここではあえて受け付けない。それ以外であれば何でも聞くと良い。

なるほど、なぜ愛することが出来ないと言っておきながら、告白を直接拒むようなことはしないのか、か。なかなか良いところに目を付ける。いや、もしかしたらこの場合はそれが一番常識的な疑問なのかもしれないな。確かに客観的に見れば一番気になるところだろう。客観的に、でなくても、好きな人に対してはそのようなことを知りたいと思う気持ちが生まれるものなのだろうか。私は人を好きになったことがないので生憎その気持ちは分からないが。

まあいい、とにかくだ、その質問には答えるとしよう。ただ、それを君が理解できるように話すためには、膨大な時間と膨大な言葉が必要だ。今から語ってどのくらいかかるかわからない。何せこの話は、私の交友関係における最も密な部分を明らかにし、私がこのような発想に至るまでの約二年分の話を全て語る必要があるからだ。それは君にとってはほとんど何の益もない、実に退屈で極めて個人的な話であろうことが予想される。忙しいなら早々に席を立ってくれて構わない。つまらないならつまらないと言い、聞きたくないと思ったところで話に待ったをかけていい。私としては、語る相手は別に君でなくても構わないのだ。ただ、君に聞かれたから応えるまでであり――わかった、早く話を始めろというのであれば、ありがたく、そうさせていただくことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ