表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/187

99・《文化発展日》

 帝国との戦いも終わった。

 これで平和な学園生活が訪れたわけだが……そんなある日、やけに街中全体が慌ただしいのに気付いて、俺はララにそれを問いかけた。


「あれえ? クルト、知らないのー? 一ヵ月後に《文化発展日カルチャー・デイ》が訪れるんだよ」


 放課後。

 ララが目を丸くして、そう答えた。


「《文化発展日カルチャー・デイ》か……」

「知らないんだったら、説明してあげようか」

「いや」


 さすがにこの時代に転生してきて、色々と分かってきたのだ。

 記憶を紐解き、《文化発展日カルチャー・デイ》についてこう続ける。


「確か500年前、王国で圧政を敷いていた愚王オーレリアンを倒し、クーデターに成功した日だったはずだな」

「うんうん」

「愚王オーレリアンは様々な愚かな政治を行っていたが、その中でも際立っていたのがすなわち『文化を消していた』ことだ。文化は政治の妨げになる。演劇や絵画といった無駄な興があるから、人々は堕落するとな。おそらく、文化によって人々が結びつき、余計なことを考えないようにした……ということもあるんだろう」

「その通りだよ」


 しかし愚王の政治は長く続かなかった。

 愚王には兄弟がいた。


 次男は優秀な政治学者であったが、兄に危険視されていたために、国外に追放されていた。

 しかし次男を支援する者達が現れ、協力し、クーデターを起こして愚王を討ったのだ。


「次男が国王となることによって、王国には文化が戻ってきた。その日を《文化発展日カルチャー・デイ》と定め、王都では祝っている……とのことであったな」

「そっうだよーっ! クルト、やっぱりすっごいねー。あんまり常識とか分かってなさそうだったけど、完璧に歴史を覚えてるじゃーん! そこまで詳しいことは、わたしも分かってなかったよ」


 ララがはしゃぐ。

 今までの俺はどれだけ非常識だと思われていたんだ?


「クルトの故郷は《文化発展日カルチャー・デイ》を祝う風習はなかったの?」

「あいにく田舎なものでな。聞いたことはったが、特段なにをするわけでもなかった」

「ふうん、そうなんだ。わたしも王都出身じゃないから、ここで《文化発展日カルチャー・デイ》を迎えるのは、はじめてだけど……ずっと楽しみにしてったんだ!」


 ララは両手を広げ、クルクルと回る。


「《文化発展日カルチャー・デイ》を祝ってね、王都全体で『文化祭』が行われるんだ」

「ほう、祭りか」

「うん。もちろん、魔法学園でも文化祭を盛り上げるために、様々な催しものをするんだ。クラス単位で出店を出したり、学校に有名人を呼んだりって。その文化祭の準備をしているから、王都全体が慌ただしいと思うよ」


 それは楽しそうなことだ。


「クルトはこういうの嫌い?」

「どうしてだ」

「なんか、戦い以外は興味なさそうに見えるから」


 はは、ララはなにを言ってるんだ。


 確かに文化祭なんてものは、それ自体全く戦いの役には立たないだろう。

 こうやって王都全体が浮き足立っている時に、他国が攻め込んでこないとも限らない。


 しかし。


「そういう風に見えないかもしれないが、俺は余興が好きだ。文化祭、楽しみだな」


 ——だからこそ、俺はそういったものを楽しみにしたい。


 人生というのは息抜きも必要だ。

 過去の功績を祝い、未来へと繋げていくことも重要だろう。 

 それにそもそも1000年前から俺が転生してきた理由はなんだ? 人生に飽きて、絶望したからではないか。

 ゆえに文化祭といった催しを嫌うわけがない。


「よかった!」


 ララがパッと笑顔になって、


「クルトとも一緒に文化祭を楽しみたかったんだーっ。一緒にお店とか回ったりしようよー」

「ああ」

「あっ、今頷いたよね? 忘れないでよね?」

「当然だ」


 ララは頬をピンク色に染めて「そっかー……クルトと文化祭デート出来るのか。ふふふ」と嬉しそうに笑った。


 一体なんだというのか。


「あっ、その前にクラスでも頑張らないといけないね」

「出店を出したり……と言ってたな。なにをするつもりなんだ」

「それは今から決めるんだよー。あっ、それから魔法学園では一番優秀な出し物をしたクラスには、簡単な賞品が与えられるみたいだよ。きっと最優秀賞(MVP)を取ったら、成績にも反映されるだろうし……なによりも、みんなが喜ぶよね! 頑張らないとっ」


 ララが拳をぎゅっと握る。


 そんなものもあるのか。

 全く。ただ楽しむだけでは終わりそうにないな。


「ララ、心配しなくてもいい」


 俺は文化祭当日のことを想像し、こう口にするのであった。


「俺はなにごとにも勝利を目指す。俺がこのクラスにいる限り、文化祭でも一番になるだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ