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97・王の一閃

 飛行魔法を使い、邪竜のもとへと行こうとした。その時であった。


「やはり1000年前に比べて、貴様は弱くなっている」


 と声が帝都中に響く。


 邪竜の前にフォンバスクが浮き上がり、体には禍々しい闇をまとっていた。


「どうした、フォンバスク。待っておけ、と言ったではないか」

「カッカカ、貴様との約束。私が素直に守るわけがなかろう?」


 一体こいつはなにをするつもりというのか。


「グオオオオオオ!」


 邪竜が雄叫びを上げる。

 なるほど。そういうことか。


 邪竜が苦悶し、フォンバスクのまとっていた闇がだんだんと濃くなっていった。


「1000年前から作られし魔法は、貴様に封じられてしまった。しかし私は諦めが悪いものでな。これで終わりにするくらいなら、1000年前に諦めている」


 フォンバスクの体が邪竜に取り込まれていく。


「邪竜と融合したか」


 魔族や魔物と融合し、さらなる力を得る……といった魔法は1000年前からあった。

 とはいっても、並の使い手なら邪竜などと融合しようなどという邪悪な考えには至らない。

 それに仮に融合したとしても、おのが意志が魔物に支配され、自我を失ってしまうことがほとんどであった。


 もっとも。


《カッカカ! 邪竜一体ごときでは、貴様には勝てんっ! しかし邪竜と魔神の力が合わされば? 恐怖に震えるがいいっ!》


 邪竜から声が発せられる。

 本来なら意志がなくなってしまうところを、フォンバスクは膨大な魔力で無理矢理押さえつけているのだ。

 そこはさすがは魔神といったところか。


「うむ。なかなか上手く出来ているではないか。見直したぞ」

《分かる、分かるぞ! 余裕のように見えて、貴様の本心は私を恐れている。果たして私に勝てるのかとな》

「俺がか?」


 これから()()()()こともあるものでな。

 恐れるわけがない。


「貴様の顔から、余裕を消してやろうではないか」


 邪竜の体を得たフォンバスク。

 その大きな口から開けられる。


「ダーク・キャノン」


 フォンバスク……というより邪竜の口内に魔力が溜まっていく。

 それは唸りを上げて、発射された。

 それは俺に当てるためではない。それより遙か背後にあるものに対して放たれたのだ。


 闇の砲弾が風を切り裂き、ぐんぐんと伸びていく。

 そして帝都からも拝める大きな山、そこに直撃したのだ。


 爆発。


「わっ! 一体、なにが起こったのー!?」


 ララが頭を下げる。

 爆風がここ帝都にすら届いたのだ。


 やがて爆発が止んだ頃には。



「や、山が……なくなっています!」



 それに最初気付いたのはマリーズであった。


 マリーズが指差した方、そこには先ほどまで大きな山があったが——それが跡形もなく消滅してしまっていたのだ。


《カカカ! どうだ!!》


 フォンバスクが誇らしげに言う。


《邪竜の力すらも得た私は山をなくすことすらも容易い。どうだ? この力に震えるか? 次は貴様の番だ》


 ゆっくりと邪竜の体を得たフォンバスクの双眸そうぼうがこちらを向いた。

 片目だけでも、人一人分は優に超えるサイズだ。

 邪竜となったフォンバスクに睨まれ、ララ達……ロザンリラ魔法学園の生徒が震える。


「お、終わりだあ……どうやって、この化け物と戦えばいいの?」

「ドラゴン一体だけでも世界滅亡の危機だって言うのに……あのドラゴンには、もう一つ大きな魔力を感じます」

「山……なくなった……シンシア、死ぬの……?」


 それはララ達だけではなかった。

 見ると、帝都にいる人々が全員フォンバスクを見上げ、合掌して祈りだしたのだ。


「ああ、お命だけはお助けください……」

「ここで世界は終わりだっていうのか?」

「お願いします……助けてください……」


 膝を付き、中には涙を零す者もいる。


 それを見てフォンバスクは楽しそうに、


《皆の衆、私を崇めよ!》


 と宣ってから、まるで世界の支配者になったかのように続ける。


《しかしこの世界はもう退()()だ! さっきのが本気だと思うなよ? 私が本気を出せば、たった一発でこの街を滅ぼすことが出来る! まずは異端者と共に街を消滅させてもらおう。貴様等は異端者を倒すための生け贄となるのだ!》


 フォンバスクの口が再度開けられる。

 その言葉は嘘ではないだろう。まだまだフォンバスクは本気を出していない。ヤツが本気を出せば、街一つくらいなら優に吹っ飛ばせるはずだ。


「ララ」


 俺はララ達の前に立って、こう続ける。


「マリーズ、シンシア、アヴリル……そしてみんな、心配するな。祈るくらいなら、絶望するくらいなら、俺を見ろ。なにも心配する必要はないのだからな」


 ダーク・キャノン。

 フォンバスクから先ほどの砲弾が発射される。

 今度は先ほどの五倍……いや、十倍はあるサイズだ。


「「「クルト——————!」」」


 ダーク・キャノンが俺に当たろうとする時、そんな三人の叫び声が聞こえた。

 しかしララとマリーズ、シンシア……そしてなによりフォンバスクよ。お前等はなにを勘違いしているんだ?

 そもそも……。



「街一つを吹っ飛ばせるくらいで、なにをそんなに調子に乗ってるんだ?」



 右手でダーク・キャノンを受け止める。

 砲弾は俺の右手に収束していった。


《なっ……!》


 そして握りつぶすことによって、ダーク・キャノンは消滅してしまったのだ。


《我が闇の鉄槌を……片手で処理しただと……!?》

「うむ、しかしなかなかの魔法だったぞ。少しだけだが、俺の右手に火傷を負わせるとはな」


 俺は魔剣を鞘から抜く。

 そして飛行魔法を使って、フォンバスクのもとへと上昇した。



「この体もようやく馴染んできた」



 フォンバスクを見据えながら、俺はそう口にする。


《ど、どういうことだ!?》

「なに、魂は馴染んだものの、転生してきたこの体がなかなか使いにくくてな。本気を出そうにも出せなかったのだ」


 俺は魔剣を振り上げる。

 魔剣の周りに風が発生し、それが台風の目となって魔力がだんだんと集まっていった。

 やはりこの魔剣は良い。

 俺のありったけの魔力を込めても、壊れずにいてくれるとは。


《と、ということは貴様……まさか……》

「ああ、今まではただの遊びだ」


 1000年前。俺はそれをフォンバスクに試すことが出来なかった。

 しかし今思えば、それが全ての間違いであった。

 あの時、トドメを刺さなかったことにより、アヴリルのような悲劇を生み出してしまったのだ。


 ならば今度は容赦はしない。



王の一閃(ディバインロワ)



 1000年前、たった一人で、異端者として虐げられながらも俺はその必殺の魔法を作りだそうとしていた。

 その開発には成功していたのだが、試すことが出来なかった。

 しかし1000年の時を超えて、ようやく()()()()が出来るようになるとはな。


「さあ、フォンバスクよ、歯を食いしばれ。今度は魂ごと粉砕してみせよう」


 フォンバスクはすぐに逃げ出そうとするが、それは叶わない。

 俺が拘束魔法でフォンバスクの体を押さえつけているからだ。


 その魔法は単純にして明快。

 剣に魔力を込め、空間・次元ごと切り裂く魔法だ。

 しかし単純シンプルだからこそ強大。

 混じりっけなしの魔力がフォンバスクに襲いかかる。


 一閃。


《ぐああああああああああああああああああっ!》


 フォンバスクが悲鳴を上げる。

 フォンバスクの体が真っ二つに切り裂かれた。


 しかしそれだけでは止まらない。

 次元もろとも切り裂かれ、フォンバスクの後ろに斑な空間への扉が開かれる。


「フォンバスクよ、言っていたな。次元によっては、この世の理が通じぬ場所もあると」

《ま、まさか貴様……》

「そうだ」


 こいつはただ殺すだけでは足りない。

 次元へとフォンバスクの体が吸い込まれていく。


「1000年、そこで残りの一生を過ごすがいい」


 しかもフォンバスクの体は魔剣で斬られたことによって、耐え難い痛みが襲っているはずだ。

 そのままの状態でもう1000年、そこで生きることになる。


 魔剣に切り裂かれ、魔力をほぼなくしたフォンバスクでは、次元から逃げ出すことも出来ない。

 まあ例え魔力が残っていたとしても、こちら側との扉を施錠するので、出て行かれることは絶対ない。

 それは決して誰にも解くことが出来ない。


 これがこの1000年、世界の魔法文明を衰退させたフォンバスクへの罪であった。


《せ、1000年では異端者に勝つことは不可能だったというのか!? これだけの力を得ても!? まだ異端者に届くことはなかったというのか!》

「なに言ってるんだ」


 フォンバスクが次元へと飲み込まれ、姿を消してから。

 俺はこう口にした。


「1000年ごときで、俺に届くと思ったら大間違いだ」

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