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93・1000年前、帝国は滅ぼされた

 帝国と決着を付けるため、俺とアヴリルは玉座の間へと向かっていた。


「お主……一度ここに来たことがあるのか?」

「なんでだ?」

「これだけ城内は複雑だというのに、随分迷いのない動きだと思ってな」

「そうだな……まあ似たようなところには来たことがある、と答えておこうか」


 俺の答えに、アヴリルは不思議そうな顔になっていた。


 無論、()()城に俺が来るのは、はじめてだ。


 しかし1000年前のシェヌベイル城には何度も来ていた。

 その時と、城内の構造は大体同じだったのだ。


「王室までもう少しだ、アヴリル。どうした、隠蔽魔法の魔法式が崩れてきてるぞ?」

「さすがにこれだけ長時間、精度の高い隠蔽魔法は疲れるものでな……」

「なにを言う。それくらいなら、半年くらいは保たせておかないと話にならないぞ」

「お主基準で言うな!」

「冗談だ」


 まあ俺ならやろうと思えば、出来ないことはないが。


 それにしても……1000年経っても、あまり変わらないものだな。

 1000年前、帝国は一度()()()に滅ぼされたとはいえ、シェヌベイル城だけは壊されなかったからな。

 何度か修復はしているだろうが、そのまま現在に至ったのだろう。


「よし、ここだ。玉座の間だ」


 とある扉の前で、俺達は立ち止まった。


 そろそろこの重いだけの鎧は脱ぎ捨てるか……。

 鎧を脱いで、改めて隠蔽魔法に身をまとう。


「すぐに乗り込むか?」

「待て。中に誰かいる。少し様子をうかがおう」


 と言って、透視魔法を使うと、頭の中にぼんやりと中の様子が浮かんでいった。


 さらにアヴリルの魔力と連結して、彼女にも同じ映像を見せられるようにする。



「——ついに時は満ちた」



 中には一人の男。


 玉座の間には、奥に豪壮な椅子が二人分置かれている。王と王女が座る場にあたるだろうか。

 しかし……このような事態でありながら、玉座には誰も座っていなかった。

 代わりに黒塗りの不気味な棺桶が、そこにまるで座るようにして置かれていたのだ。


「なかなか悪い趣味をしているな」


 いや……ただの飾りというわけではないか?

 そのまま魔法を使って、棺桶の中を見ようとするが……魔法式で施錠がさせられていて、見ることが出来ない。

 さすがに二重の透視は難しいか。

 まあ無理矢理魔力を注ぎ込めば、見られないことはないが、相手に気付かれてしまうかもしれない。

 もう少し様子を見るのが得策か。


「私は間に合った。これで転生してきたヤツを滅ぼすことが出来る」


 愉悦に浸っているかのような口調。

 男は大きい窓の前に立ち、こう続ける。


 ああ、我が悲願が達成されようとしている。

 運が良いことに、今宵は満月だ。

 天も私を味方してくれているのだろう。


「なにを気持ちよく語っているのだ?」

「さあな」


 そいつの言っていることは理解出来ない。

 しかしそれほど、今日という日を待ちわびていたということだろう。


「——起動」


 その男が手を挙げる。

 するとその周囲にあった魔法陣から光が放たれた。


「クルト……! これは!?」


 アヴリルの体が震えている。


 うむ。膨大な魔力だ。

 きっとそれをアヴリルが感じ取り、恐怖を覚えているのだろう。


「あの棺桶……魂? あの魂が魔力に変換されようとしているのか?」


 玉座に置かれていた二人分の棺桶。

 そこからも赤色と青色の光が発せられた。

 魂が男の手に向かって引っ張られていっているのだ。


「ああ! これでみんなみんな一つになる! そうして私は()()を倒す力を手に入れるのだ!」


 光が一点に収束していく。

 今にも魔法が発動されようとしていた。

 はじめて見る魔法式だ。


 しかし。



「黙って発動させるわけないだろうが」



 光魔法アトーンメント・シャインを扉の向こう、男に対して発動する。


 男の四方八方から七色の鏡が現れる。

 それが光の矢の発射台となり、男に向かって次々と発射されていった。


「アヴリル!」

「ああ、分かっている!」


 そして俺達は隠蔽魔法を解き、扉を蹴飛ばすようにして開いた。


「ファイアースピア!」


 未だ止まぬ光の矢の攻撃の最中、アヴリルが間髪入れずにファイアースピアを放った。

 その全てが男に向かっていた。


 だが。



「待っていたぞ、()()()。我が崇高なる魔法を妨げるとは、面白いことをしてくれるじゃないか」



 魔法の猛攻を受けても、男は自分の周囲に結界魔法を展開したおかげで、一発も直撃を許さなかったのだ。


「うむ。お前がなんの魔法を使おうとしてたか分からないがな」


 これ以上やっても無駄だと感じ、俺はアトーンメント・シャインへ供給する魔力を断つ。


「発動を止められて、よくそれだけ偉そうな態度が取れるものだ」

「こういう未来があるとも予測していた。()()()()年前からな」


 男は琥珀の瞳を向け、落ち着き払った声でそう言った。


「しかしな。相変わらず油断するのが、お前の悪い癖だ。俺の魔法は……」

「ん?」


 指を鳴らし、俺はこう続けた。


「まだ終わっていない」


 男の背中に……追撃となる光の矢が襲いかかっていく。


「ぐ、ぐあああぁぁああ! ど、どういうことだ!? アトーンメント・シャインは魔力の供給を止められ、光の矢を創造することが出来なかったはず……!」


 光に胸を貫かれる男。

 口から血を吐き、床に膝を付いた。


「確かに普通ならそうだな。しかし……俺の作った魔法が、魔力がなくなったごときで攻撃を止めるようなものだと?」

「ま、まさか貴様……! 魔法式に『意志』を持たせただと!? 魔力の供給を止めても、半永久的に動き続ける魔法を完成させたのか……! くっ!」


 膝を付く男の背後から、容赦なく光の矢が発射される。

 しかし男は即座にファイアースピアを矢の発射台となる鏡を壊し、今度こそ魔法の発動を止めた。

 うむ。これくらいやってもわなくては、拍子抜けすぎる。


「さあ、決着を付けようじゃないか」


 男に向かって一歩踏み出し、俺はその名前を口にした。



「1000年前、帝国を滅ぼした魔神——フォンバスクよ」

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