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88・起爆装置

 大図書館の地下へと続く階段を下りていく。


「真っ暗でじめじめとした場所だな。埃も被っておるぞ」

「しかし人の入った気配もあるようだな」


 一見人の出入りがない場所に見えるが、僅かな魔力の残留が検出出来るのだ。


「やはり……この奥になにかあるみたいだ」


 ライトの魔法を使い周囲を明るくさせてから、俺達は階段を慎重に進んでいく。


「階段はここで終わりみたいだな」


 すると……やがて、大図書館の地上と似たような場所が現れた。

 本棚がたくさんあって、そこはまるで迷路のよう。


「クルト、気付いているか?」


 進んでいくと、アヴリルが警戒心を強くして尋ねてきた。


「ああ」


 探知魔法で探ってみると……この奥に魔法陣が描かれているのが分かった。

 しかしそれには隠蔽がいくつも施されており、ここからでは全貌がはっきりしない。


「取りあえず、その魔法陣を確認してみるか……ってクルト? なにをしておるのだ?」

「本を読んでるだけだが?」


 読書は嫌いではないからな。

 本棚から一冊本を取り出して、ぱらぱらとページを捲る。

 そして一冊を読み終えたら、すぐさま次へと移っていき……というのを繰り返した。


「なにか気になる文献はあったか?」

「うむ。あまり大したことは書かれていないな。しかし……どうやらここ地下の大図書館は、地上にあるものより少々マシなものらしいぞ」

「どれ」


 アヴリルも何冊か手に取って、ページを捲っていった。


 地上に置かれている本には、非効率な魔法技術が主として書かれていた。

 その最たる例が『詠唱魔法』である。

 しかし……俺がここでいくつか手に取った本には、無詠唱魔法について書かれているものがほとんどだ。

 内容についてもあながち間違ったものではなかった。


「それにしても、ただぺらぺら捲っているだけに見えるが……本当に読んでいるのか?」

「もちろんだ」


 とはいってもさすがに全てを読むには、少々時間が足りないな。


 地上にあるものよりかはマシなものだったが、俺にとっては目新しいものはない。

 なのでこの世界……特に帝国の歴史について書かれている本を中心に読んでいった。


 そこには基本、当たり障りのない内容しか書かれていない。

 だが、一つだけ気になった記述があった。


「1000年前に……帝国は滅ぼされた?」


 読んでいると、横からアヴリルが顔をはさんでそう言った。


「どうやらそうみたいだな」

「どういうことだ? そんなこと……はじめて聞くぞ?」


 アヴリルは混乱している様子だった。


 そう。1000年前に、一度帝国は滅ぼされた。

 アヴリルは驚いているようだが、1000年前からは俺はそれを知っている。


 それはいいのだが……引っ掛かる『とある記述』が目についた。


『1000年前、世界を恐怖の未曾有に陥らせた魔王は、帝国をも滅ぼした』


 なにを言っている。

 この魔王というのが『異端者=俺』ということなら、俺が帝国を滅ぼしたわけではない。

 滅ぼしたのは『魔神』だ。


『しかし滅ぼされてなお、富を築いていたフォシンド家が中心となり、帝国を再興させ今日にいたる……』


 またフォシンド家か。

 1000年前においても、フォシンド家は存在したということなのか。

 しかしいくら記憶を辿ってみても、1000年前からフォシンド家なんていう貴族の名は思い当たらない。


 ……いや、違う。



「俺はこいつに一度()()()()()()()()?」



「クルト! 奥にある魔法陣の様子がおかしい! 起動しようとしている!」


 俺としたことが、思考に没頭してしまったが、アヴリルの言葉で引き戻される。


「そうみたいだな」

「早く向かうぞ!」

「ああ」


 俺達は地面を蹴って、魔法陣があるところへと走った。

 いくらここが迷路のように入り組んでいても関係ない。

 探知魔法を使えば、詳細な地図が頭の中に浮かんでくるからだ。


 ()()に辿り着いたのは、走り出してから五分も経っていないだろう。


「こ、これは……!」


 光を放つ魔法陣を見て、アヴリルが言葉を失っている。

 その周辺一帯に、魔法陣がびっしりと刻まれているのだ。


「起爆装置のようだな」


 俺は冷静にそれを分析する。


「か、かなり大がかりなものだぞ! 一体、これを起動させてしまえば、どれだけの惨事が起こるのか私でも分からぬ!」


 とアヴリルの声が地下に響いた。


 魔力導線の先は……うむ。やはりあそこか。


「なにを落ち着いておる! 早くこれをなんとかせねば……!」

「まあ待て」


 俺は背後を向いて、


「おい、出てこいよ。そこにいるのは分かっている」


 そいつを呼んだ。


 すると観念したのか……、


「ククク、さすがですね。全てお見通しですか」


 暗がりから、ぬうっと一人の男が姿を現した。

 奇抜な道化ピエロのような服に身を包んでいる。


「お前がこの魔法陣を描いたんだろう?」

「正解」


 ニヤッと男が口角を釣り上げた。


「お前は誰だ」

「貴方に名乗る名前は持ち合わせていませんので。()()()。アヴリル」


 あちらは俺のことを知っているらしい。

 俺の方はこいつを知らないが……道化男どうけおとことでも呼ぼうか。


「ずいぶん落ち着いているようですね?」

「こんな魔法陣、大したことがないからな。少し期待していたが……がっかりだ」

「大したことがない? やれやれ、どうやら貴方の目は節穴のようですね」


 と道化男が肩をすくめる。


 不快な気分になるが、こいつが今からどれだけ愚かなことを口走るか、観察させてもらうか。


「この魔法陣の芸術性が分かりませんか! 私が30年! 30年かけて丹念に準備をした魔法陣なのです! 貴方も私と同類だと思っていましたが、どうやら見誤っていたようです!」


 まあこの時代基準にしたら、なかなか立派なものだろう。

 無駄に複雑な回路を採用しているし、見る人にとったら驚嘆に値するものかもしれない。


「どうやらこれは起爆装置のようだが? これが発動すれば、おおかたこの校舎全体が吹っ飛ぶような仕組みに作ったといったところか」

「その通りです! 貴方の大切な人も失われる! 全部全部吹っ飛ぶのです! 血の華が咲き誇るのです!」

「そうなっては、お前も無事では済まないと思うがな」

「それでも良いのです! 全てはあの御方のために。この芸術的な魔法陣が発動することが出来、あの御方のお役に立てるものなら、これほど至上の喜びはないでしょう!」


 あの御方?


「ふふふ、許しを請いますか? 止めてくれと。私の前で犬のように四つん這いになって泣き叫きなさい!」

「ならば起動してみるといい」

「……は?」


 悦にはいっている道化男に対し、俺は突き放すようにこう続ける。


「起動してみるといい、と言ったのだ。これを起動することが、なによりの楽しみだったんだろう?」


 だったら途中で邪魔をするのも、興がそがれるというものだろう。


 俺の言葉を聞いて、道化男は怒りで顔を歪ませる。


「……! その言葉、芸術を侮辱している! 許しません! 貴方は惨めったらしく鼻水を垂らし許しを請えばいいのだ!」

「ごちゃごちゃ言うな。それとも自信がないのか?」

「その言葉……死んでから後悔しても遅いですよ」


 道化男は手を前に差し出す。


「我が名はエサイアス! 起動し、この汚れた校舎を——破壊せよ!」


 詠唱は必要ないと思うが、そうやって気分を高揚させようとしているのか。

 道化男……エサイアスの言葉によって、さらに魔法陣から光が増していくが……。



「どうした、なにも起こらないぞ?」



 光がある一定のところまで眩しくなったかと思えば、急激にその輝きが失われていった。

 その様子を見て、エサイアスははじめて顔に戸惑いを滲ませる。


「ど、どういうことですか!? どうして起動しない? これが一度ひとたび起動すれば、こんな校舎など吹っ飛ぶというのに……」

「起動しないなら、理由は決まっているだろう。俺がここに来るまでに……いや、そもそも昼の間に()()()してしまったからだ」

「あ、貴方は一体なにをしたというのですか……!?」


 そう。

 昼、合同授業がはじまるまでに校舎をうろついていた時。

 なにやら不穏な魔法陣がたくさんあると思い、俺は校舎の散策がてらに、それらを全て無効化していったのだ。

 この起爆装置の魔法陣を発動すれば、校舎のいたるところに書かれている魔法陣が爆発する……という仕組みだ。

 だからいくらこいつがこの魔法陣を起動させようとしても、そもそもの魔力導線の先が潰されてしまっているので、無意味だったのだ。


「ああああああ! 私の魔法陣が……10年分の芸術が!」

「ごちゃごちゃ言っているようだが、これだけは言っておく」


 愕然とし、悲鳴を上げるメサイアスに対して、俺はこう告げたのだった。


「お前の30年は無意味だったな」

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