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86・詠唱魔法を使えないわけじゃない

「後一つだけですね」


 マリーズが俺の手を握りながら言う。

 よっぽど手を離したくないのだろう。力強く握られていた。

 いつ何時も警戒を怠らないとは……さすがはマリーズといったところか。


 あれから、俺達は七つの内の六つのチェックポイントを通過した。

 それにともない、マリーズも暗闇に慣れてきたのだろうか、声に覇気があるように感じた。


「そうだな。最初の一つだけで、後は嫌がらせしてこなかったな、あいつ等」

「最初の一つでクルトには敵わないと悟ったんだと思いますよ……」

「気付くのが遅すぎる」


 さて、もう少しで七つ目のチェックポイントがある講堂に到着する。

 ここは今日ディスアリア魔法学園との合同授業が行われた場所でもある。



「トまれ」


 

 講堂に足を踏み入れた瞬間、教壇がある方からそんな声が聞こえた。


「誰かいますね」

「あれは……エリクという男だったな」


 シルクハットを被り、マントを羽織ったエリクが虚ろな目をして、俺達の方に視線を向けていた。

 なにか幽霊の仮装なのだろう。


 しかしこれは……。


「……ほう、これは一体なんのつもりだ?」


 俺はエリクにそう問いかける。


「肝ダメシの一環だよ。楽しんデもらえたかな?」

「そういうお前からは、敵意しか感じんのだがな」


 俺は警戒を解かず、エリクに問いを続けるが、彼からそれ以上の答えは返ってこない。


「クルト? ど、どうしたんですか? ま、まさかっ、本当に幽霊が!? ……あれ、動けな……い? 金縛り!?」

「マリーズ、幽霊が怖いからって、そう動揺するな。幽霊でも金縛りとやらの非魔法学的なことではない。拘束魔法がかけられているようだ」


 どうやらエリクがこの講堂に入ってきた瞬間に、拘束魔法を発動させた。


 しかし……どうやら魔力がエリクのものとは思えないんだが?

 エリクの顔がこちらを向いているものの、目の焦点が合っていない。

 これは誰かに操られているな。


 ならば納得だ。

 いくらなんでも、俺との力の差を理解したと思うからな。

 もう自分の意志では逆らってこないだろう。


「こんな拘束魔法で、俺の動きを封じられると思ったのか?」

「カッカカ。キサマにも、一応かけてみたが、通用するとは思ってイナイ。ボクの狙いはそっちのお嬢サンさ」


 あいつの言っている通り、俺にも拘束魔法はかけられていたが、そんなものは発動した瞬間に解除している。


「いくらキミが強くても、そっちの足手まといと一緒に戦エルかな? カッカカ!」

「……お前はなにを勘違いしているか分からんが」


 溜息を吐いてから、俺はこう続けた。



「マリーズもお前なんかに負けないくらいに強いぞ?」



「えい」


 マリーズのかけ声。

 すると拘束魔法が解除され、マリーズが準備体操をするように腕をぐるぐると回した。


「なっ……! な、なんでそんなカンタンに解除が出来る!? 我が拘束魔法を!」

「この程度の拘束魔法、マリーズなら簡単に無効化出来る」

「チッ……! かかれかかれ! 人数で押し切ルぞ!」


 エリクの声が合図となった。

 講堂内にある机の下……物陰……狭い棚の中……あらゆるところから人が飛び出してきて、俺達に襲いかかってきたのだ。


 全員ディスアリアの制服を着ている。

 どうやらこいつ等も誰かに操られているようだ。

 総勢十人といったところか。


「「「「この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を貫き灼け!」」」」


 声が重なり、一斉に魔法式を組みはじめた。


「ゴミが何人が集まってもゴミのままだ。マリーズ」

「はい!」


 四方八方から放たれるファイアースピア。

 マリーズが一歩前に出て、結界魔法を展開し、それらを防いだ。


「詠唱魔法を使っている限り、俺達には勝てんぞ」


 俺ならともかく、まさか当初足手まといと思われたマリーズに魔法を完全に防がれたのが驚いたのか。

 唖然としているディスアリアの襲撃メンバーに、俺は声をかけた。


「しかし……お前等の拙い詠唱魔法が全てだと思っているヤツ等に教えてやろう。本当の()()魔法とやらをな」


 なにやらごちゃごちゃ言ってるが、俺は意に介さず手を掲げる。


「貫け」


 俺が言ったのは、その短い一言。

 すると……十本ものファイアースピアが現れ、襲撃者達に向かっていったのだ。


「ぐあああああああ!」

「ど、どうしてだ!? 詠唱魔法なのに、コレほどの威力を短い時間デ放てる!」


 逃げ惑うディスアリアの連中。

 しかし俺が放ったファイアースピアは、次々と背中に突き刺さっていった。

 魔法が直撃した生徒達は吹っ飛び、壁や床に体を強く打ち付け気を失ってしまっていた。


「ク、クルト!? さっきのは……」


 マリーズがその光景を見て、そう問いかけてくる。


「詠唱魔法だ」

「詠唱魔法でそんなに早く魔法を放てるわけありません!」

「なにを言う。十分遅いじゃないか」


 無詠唱なら、今のと十分の一の早さと魔力で同一のものを放つことが出来るだろう。


「詠唱魔法は非効率だ。だからといって、俺が詠唱魔法を使えないわけじゃない」


 1000年前に、俺が魔法革命を起こす前は、詠唱魔法が主なものであったからな。

 俺は無詠唱魔法を極める前に、ついでで詠唱魔法も極めてみたのだ。

 だからこそ、いかに詠唱魔法が優れていないのか、非効率的なものかを実感した。


 ダメなものはダメだ。

 しかしダメなものを実際に使わないで、ダメだと論ずるのは俺の主義に合わん。


「ア、ア、ア……」


 一瞬でディスアリアの生徒が倒されたのを見て、エリクは二の句を繋げない。


「どうした? 逃げるつもりか?」

「どちらにせよ、このカラダはゴミ! ゴミならゴミらしく、華々しく散るノダ!」


 とエリク……というかやはり誰かに操られているのだが、そいつは無詠唱でファイアースピアを放とうとした。

 しかしこのままだったら自爆するぞ?

 エリクの体が魔力に耐えきれず、発動と同時に壊れてしまう。


 だが。


「そんな借り物の体で、そいつが普段使っていない無詠唱魔法をまともに放てると思ったのか?」

「なっ……!」


 エリクが目を見開く。

 エリクがファイアースピアを放つ前に、背反魔法を使って無効化したのだ。


「ふん」


 俺はエリクのところまで一瞬で距離を詰め、至近距離から剣を抜いて、そのまま振り抜いた。


「ぐあああああああ!」


 エリクが鮮血ともに倒れる。


 ただ操られているだけなのにここまでするのはどうかと思ったので、すぐに治癒魔法を使い、流血を止める。

 一命をとりとめたエリクであったが、意識が完全に途絶えてしまい、ぐったりと床で横になっていた。

 そんなエリクに、俺は右手を当てて魔力を探る。


「……ん? これは魔力が完全に切り離されているな」


 エリクを操っていたヤツがいるのは確実だ。

 前見た時のエリクの魔力と明らかに違っていたし、拙い無詠唱魔法なんて使っていた。そのせいで魔法式がぐちゃぐちゃで、すぐに背反魔法で打ち消すことも出来た。

 なので魔力を逆探知すれば、この主犯格が明らかになると思ったが……ダメだ。エリクに使った魔法が、完全に術者と独立している。


「ならば」


 今度はエリクの頭を手でつかんだ。

 エリクの記憶を読み取ろうとしたが……どうやら、深淵しんえんに封じられているようで、こっちからのアプローチもダメ。

 しかし記憶の表層から、手がかりになりそうなものが浮かんできた。


 ——大図書館。


 どうやら、そこになにかがあるらしい。


「これは最早ディスアリア魔法学園の問題だけではないみたいだな」


 すっとエリクの頭から手を離す。

 ディスアリア側の生徒と教師だけで、ここまで大がかりなことが出来ないとは考えにくいからだ。


「クルト! 一体これは……」

「マリーズ。どうやら、交流合宿は()()では済みそうにないみたいだ。マリーズはすぐに部屋の方に戻って、アヴリルは他の生徒にこのことを伝えにいってくれ」

「え、一体どういう……ってクルト! どこに行くんですか!? なにか危険なことをするつもりじゃ……」

「なあに」


 俺はマリーズに背を向け、彼女の問いかけにこう言い残したのだ。


「肝試しの続きみたいなものだ」

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