83・縛りプレイのチーム戦
講堂での授業が終わり、俺達は校庭へと移された。
広い。
ロザンリラ魔法学園にも劣らない広大な場所である。
「次の授業は実技です」
生徒が全員集まったのを見て、教師がそう告げた。
ちなみに先ほど、生産魔法の授業を受け持った教師とはまた別の人物だ。
どうやら俺が水からハイポーションを作るのを見て、ショックのせいで早退してしまったらしい。
情けないとは思うが、今までの常識が崩されたとなったら、仕方のないことだろう。
「一体なにをするんですかー?」
ララがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、教師に質問を飛ばした。
「今回は十人ずつのチームに分かれて、戦ってもらおうと思います。ああ、結界魔法を使わせてもらうから安心してくださいね。その十人全員分の結界を、先に破壊したチームが勝利とします」
うむ。ロザンリラ魔法学園の入学試験でも似たようなことをしたな。あの時はチームではなく、個人戦だったが。
しかし十人対十人とはいかがなものか。
「そんなまどろっこしい真似をしなくてもいい。十人なんて、俺一人で相手してやる。かかってくるといいだろう」
と俺は一歩前に踏み出した。
「確かに……クルトがいれば、一人で十分だよな」
「最早チーム戦の意味がないんじゃ?」
「でもクルトと戦っても、ララちゃん達はともかく、オレ達は足を引っ張るだけだし……」
そのような声も、ロザンリラからちらほらと聞こえてきた。
なんなら、今ディスアリア魔法学園生徒全員と相手してやってもいいくらいだ。
しかし教師は慌てたようにして、手をブンブンと振り、
「あー、ダメです! クルト君はチーム戦に参加してはいけません!」
「は?」
「ほ、ほら。まぐれだとは思いますが、あなたは生産魔法の授業で活躍したでしょう? これは交流合宿です。出来るだけ多い生徒に活躍の場を与えたくて……」
適当な理由を言って、俺を参加させないつもりか。
やはり汚い。
「クルト……安心して。わたしがいれば、絶対勝ってみせるから!」
「ララだけではないですよっ。私もです」
「シンシアも頑張る……」
ララとマリーズ、シンシアがぎゅっと拳を握る。
正直この三人がいればチーム戦は心配ないだろう。
しかし……ただ見ているだけというのも退屈だな。
「ならば俺からは攻撃しない」
「はい?」
教師のメガネがずれる。
「俺は避け続けているだけだ。それなら、参加してもいいだろう?」
「そ、それでもダメです! 全員分の結界を破壊することが勝利条件ですからね。避け続けるなんて……そんなことしたら終わらな……じゃなくて、せ、戦闘が長引くじゃないですか」
「じゃあ俺以外、九人の結界を破壊すれば、それでそっちの勝ちでいい。ここまで譲歩してやってるんだ。いいだろう?」
「それだったら……」
教師は少し考え込むような素振りを見せたが、渋々承諾してくれた。
「では……早速はじめますよ」
ロザンリラ、ディスアリアの選抜メンバー十人が向かい合わせになった。
もちろんロザンリラ側には、ララとマリーズ、シンシアも選ばれている。
「くっくく。目にもの言わせてあげます」
どうやらあっちには、エリクも選ばれているらしかった。
しかし誰が選ばれていても問題ない。
どちらにせよ最後に勝つのは俺達だからだ。
「はじめ!」
教師が手を下ろして、開戦の合図をする。
その瞬間、ディスアリアの選抜メンバーが一斉に魔法を唱えた。
「この手に集まりたまえ炎よ。槍となって敵を……」
ある程度予想していたことだが、ヤツ等はまだ詠唱魔法を使っているらしかった。
バカバカしすぎる。
「とはいえ……驚いたな」
「貫き灼け!」
十人の手から、ファイアースピアが俺達に向かって発射される。
しかし命中する直前、こちらの選抜メンバー全員が自分で結界魔法を使い、ファイアースピアを防いだのだ。
「ははは! たまたま結界魔法で防げたみたいですが、どうですか、驚きましたか! これだけ早い詠唱はあなた達、劣等魔法使いさん達は見たことがないでしょう!」
その様子を見て、エリクは高らかに笑った。
完璧に防がれたというのに、なにあいつはいい気になっているんだか。
もしくは実力差も分からないか。
「ああ、驚いた」
「そうでしょう! あなたには正門のところで遅れを取りましたが、本来僕の力はこんなもので……」
「進歩のなさに驚いたのだ」
俺がそう言葉を飛ばしてやると、エリクは怒りで顔を歪ませた。
「そんな減らず口がいつまで続きますか? みなさん、二発目です! いや、連続で発射しましょう! まずはあいつを捉えます!」
「ちょっと待てよ、エリク。あいつからは攻撃出来ないんだから、わざわざ狙っても……」
「ええい、うるさいうるさい! 僕に逆らうつもりですか? あいつは僕を愚弄したのです。黙っていられるものですか!」
「っ……!」
生徒がエリクに反抗しようとしたが、口を閉じてしまった。
チームワークの欠片もないな。
「それにあいつは攻撃出来ない! 防御無視で攻撃を放てまくります!」
ララがすぐさま魔法で対抗しようとしたが、俺はそれをさっとそれを手で制す。
「まあ見ておけ。ララ達の分も残しておくから安心してくれ」
と俺は言い残して、ゆっくりとディスアリア側へと向かっていた。
「放て放て!」
「この手に集まりたまえ……」
「ファイアースピア!」
ディスアリア側がメチャクチャにファイアースピアを発射してくる。
しかしそれらはただ一発さえも、俺に当たることがなかった。
「ど、どういうことだっ!」
「ファイアースピアが勝手にあいつを避けたぞ?」
「慌てないでください、みなさん! どうせヤツは結界魔法かなにかを使っているだけ……」
結界魔法で防ぐなど、そんなつまらぬことをするわけがない。
これはただの授業である。興も必要だろう。
しかし勝負である以上、俺に負けるつもりはなかった。
「はっはは。どうした、俺はゆっくりと歩いているだけだぞ? 誰も俺の歩みを止めることが出来ないのか」
「あああああああ!」
エリクが恐怖を感じているようにして、魔法を連発しまくる。
それに対して、俺はゆっくりとした足取りで、エリク達に向かっていった。
「……それに俺は結界魔法を使っていない。俺の魔力に恐れをなして、お前等の魔法が勝手に逃げているだけだ」
魔法というものは、そこに含まれている魔力にあまりにも差があれば、その高低差で魔力場が歪んでしまうことがある。
つまり……簡単にいうと、こいつ等の使う魔法があまりに質が低すぎるため、俺を中心とした魔力場が乱れてしまっているのだ。
結果、こいつ等がいくら魔法を放ったとしても、それはあらぬ方向に行ってしまうのだ。
だが、ここまで外れるとはな。
本来なら擦り程度はしてもおかしくないのに。
それにこれだけメチャクチャ放っていると……。
「わあああああああ!」
「い、いけませんっ。そんなメチャクチャに魔法を放ってしまえば、自分達に当たってしまうではありませんか!」
エリクが指示を出すが、もう遅い。
ヤツ等は俺に慌てふためき、自分達の魔法でやられていった。
「三人か……おお、予想では四人まで自滅させるつもりだったが、よく頑張っているではないか」
ゆっくりとした足取りで、エリクの前に立つ。
「くっ……! しかしいくら君の運がよかったとしても、君から攻撃が出来ない! よくて引き分けにしかならないはずですっ。ふふふ、悔しいですか? ですが、最初に自分からそのような条件を付けたはずですよ。自分から攻撃しないとね!」
「そうだな。確かに、俺から攻撃出来ないから、お前等が攻撃してこなかったらどう足掻いても勝つことが出来ない」
「は、はは! 気付きましたか! 自分の無能さに!」
「俺のか? お前の間違いじゃないか?」
「へ……?」
エリクが目を丸くして、俺の背後を見た。
「ファイアースピア!」
「ライトニングアロー!」
「ホーリー・ソード!」
俺以外のロザンリラ選抜メンバー……ララやマリーズ達が、無詠唱で魔法を放った。
「ああああああ!」
この速度と威力にこいつ等が耐えられるはずもない。
ララ達の魔法は、一発でこいつ等の結界を破壊することに成功した。
絶叫しながらヤツ等は、後ろに吹っ飛んでいきやがて地面に体を強く打ち付けたのだ。
「ロザンリラの劣等魔法使いのヤツ等、今詠唱してなかったよな!?」
「なんてことだ! 無詠唱魔法なんていうものに、我らの詠唱魔法が負けるなんて……!」
「もしかして、この実技はオレ達の負け?」
勝負あり。
俺達が一瞬で片を付けたのを見て、ディスアリア側の生徒が動揺していた。
「当然だね」
「予想以上に弱かったですね」
「……いつになったら、詠唱魔法が非効率的って分かるの?」
一方、ララ達はそんなことを言いながら、余裕の表情である。
「王都は俺しか魔法使いがいないとでも思っているのか? 魔法使い……いや、それ未満のお前等だったら、わざわざ俺が攻撃しなくても簡単に倒せるぞ?」
俺がそう言うと、ディスアリア側の生徒達は言葉を失っていた。