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82・ポーションの作り方

 この交流合宿では、王都と帝国の魔法学園が交流し、お互いの力を高めていこうとするのが目的である。

 その一環として、まずは『合同授業』が行われることとなった。

 時間も近づいてきたので、俺とシンシア、そしてアヴリルと一緒に講堂へと向かった。



「王都……ロザンリラ魔法学園のみなさま、このたびは遠いところからはるばる来て頂いてありがとうございます」



 壇上に上がったディスアリア魔法学園の教師が、うやうやしく礼を言う。


「まずこの交流合宿初日のスケジュールを言わせてもらいますと……」


 教師が続けて説明しているのを聞きながら、俺はグルリと周囲を眺めた。


 俺の隣にはシンシア、そしてララ、マリーズと続くようにして座っている。

 さらには講堂は広く、帝国と王都の生徒合わせて六十人ほどが席に着いていた。


 その中には入り口のところで突っかかってきたエリクとやらの姿もある。

 どうやら、先ほどからもう回復したらしかった。学校に治癒士かなにかが常駐しているのだろう。


 歯が立たなかったというのに、まだエリクは敵意丸出しの視線を俺に向けている。

 とはいっても、露骨には見てこないがな。

 チラチラと見ているだけだが、バレバレである。

 懲りないヤツだ。


「……では、交流合宿最初のプログラム。『合同授業』をはじめさせていただきたいと思います」


 教師がそう頭を下げると、両校の生徒が拍手をした。


 さて……どのような授業が行われるのだろうか。

 お手並み拝見といったところか。


「では今回は『生産魔法』について授業を行いたいと思います」


 と壇上に登っているディスアリア魔法学園の教師が、教科書を開いた。


 生産魔法か。

 あまり興味のない分野であるな。

 生産魔法を使うなら、欠陥魔力より完全魔力の方が向いているだろう。

 だが、こいつ等の授業のレベルがどんなものか気になる。


 みんなが手元の教科書を広げる音が聞こえた。

 ちなみに……予めロザンリラ魔法学園の生徒には、ディスアリア魔法学園で使っている教科書が配られている。


 対して俺は教科書を開かず、足を組んで教師の話に耳を傾けていた。


「まず生産魔法というものはどんなものでしょうか? エリク君、答えてくれますか」

「はい」


 教師に指名されたエリクが自信満々に立つ。


「生産魔法とはその名の通り、剣や盾……さらにはポーションといったアイテムを作り出し、時には加工もする魔法です。比較的戦闘用のものに比べて簡単ですが、魔力の出力を安定させる必要があるので、失敗し爆発させてしまう可能性もあるので、細心の注意を払わなくてはいけません」

「よろしい。正解だ」


 まあ大まかには間違ってないだろう。戦闘用のものに比べて簡単、ということには引っ掛かるが。


 それにしても、どうしてディスアリア魔法学園はわざわざ交流合宿で生産魔法なんてものをテーマに選んだのだろう?

 生産魔法をバカにするつもりはないが、戦闘用のものに比べたら、どうしても地味なものにはなってくる。

 わざわざ二校が集まっている時に、勉強するテーマでもないと思うが……。


「では今回はポーション生成について勉強しましょう。前の続きから……おっと失礼、今日はロザンリラ魔法学園の生徒もいるんでしたね。教科書108ページを開いてください」


 ロザンリラ魔法学園の生徒側は慌てて、教科書を開いていった。

 一方、ディスアリアの方は教師が言う前からページを開いていたようだった。


「ポーション生産のためには、元となる素材が必要です。それにはどのようなものが適しているのか……三つほどありますが、答えられる人はいますか?」


 教師が質問すると、一斉に生徒達が手を挙げた。

 それは全員ディスアリアの生徒だった。

 対して、ロザンリラ魔法学園側は、誰一人手を挙げることが出来ない。


「二つまでなら分かるのですが……三つ目が分かりません……」


 マリーズが悔しそうな顔をしている。

 優等生のマリーズですら、答えることが出来ないか。


 そういえば、一年生についてはまだ生産魔法自体を習っていない。

 もしやこいつ等……。


「はい。では、そこのアーク君」

「ポーションの素材となるアイテムについては、一つは聖水。二つ目がポーション液と呼ばれる原液のようなもの。そして三つ目は……神樹しんじゅの幹から得られるといわれる神蜜しんみつです」

「正解です、アーク君。二つ目までは有名なのですが、三つ目についてはなかなか知られていない製法ですね。神蜜については手に入れることが難しいので、現実的ではないのですが……知識として知っておくことは重要でしょう」


 教師がそう言うと、アークと呼ばれた生徒は得意気な顔をして、俺達の方に視線を飛ばしてきた。


 ふむ。あの生徒が言っていることも間違いではない。

 しかし、俺からしたら色々とツッコミどころが多かった


「おや? ロザンリラ魔法学園の生徒さんは誰も答えられないのですか。いけませんね、きちんと勉強しなければいけませんよ。これほどまでにレベルが低いとは思っていませんでした」


 トゲのある言い方をする教師だ。


「あの、生産魔法については、一年生についてはまだ習っていません。二年生、三年生についても攻撃や防御魔法を中心に勉強しています。しかも神蜜を使うなんて……そんな非現実的で非効率的な方法を学生達に教えるなんて、間違っていると思います」


 マリーズが我慢の限界、といった感じで立ち上がって教師に食ってかかった。


「それでも、です。このことについては教科書にも書いていますよ。あなた達が開いているページとは違うところですが。それにこれは基本的なことです。いくら習っていないからといって、それを盾に言い訳するのは間違っているのでは?」

「ですが……」

「お座りください。授業を続けます」


 と教師に言われ、マリーズは悔しさを滲ませながらも席に座った。


「では次の問題にいきましょう。これらの素材アイテムを使って、ポーションを生成するためには魔法を使わなければなりません。『クリエイト』といった魔法は有名ですが、もう一つ……少し珍しい方法となりすが、存在する魔法があります。それはなんでしょうか?」


 教師がロザンリラ魔法学園側の生徒を、小馬鹿にするような視線を向けながら問題を続けた。


 これで調子に乗られるのも、気が悪いな。

 それに俺の大切な友人であるマリーズが悔しい思いをしているのだ。

 ここで黙っている俺でもない。


「おやおや、今回もディスアリア側だけが手を……ん?」


 教師が目を丸くする。


「お前の目は節穴か? さっさと俺を当てろ」


 俺は手を挙げながら、教師を挑発した。


「君は……クルト君ですか。あなたの噂は聞いていますよ。攻撃魔法や結界魔法に優れているかもしれませんが、生産魔法の知識なんてあるんですか? いいでしょうクルト君、答えてください」


 試すような口調で、教師が俺を当てる。

 さすがに教師側には、俺が今までやってきたことに関して情報が回っているようだった。


 それに……教師の口ぶりから予想するに、やはり生産魔法を授業のテーマに選んだことは罠だったか。

 交流戦においても、王都の力は見せつけているので、戦闘用の魔法については分が悪いと考えたのだろう。

 なので不得意だと考えられる生産魔法に絞って、俺達の自信を喪失させる手段に出たのだ。


 さすが帝国、汚い。

 しかし……俺を甘く見過ぎたようだな。


「ポーションを生成するためには、最初に言ったような三つのアイテムに『リストレーション』という魔法を使っても可能だろう。本来この魔法は回復のために使われるものだが……治癒の効果を秘めた魔力を、アイテムに込めることによってポーションの効果を得られることが出来る。まあ俺からしたら、これも非効率だし、お前等の言うことはほとんど間違っているんだがな」

「ぐう……」


 教師が顔を歪ませる。

 正直、こいつ等の言っていることは間違いとはいえないものの、非効率すぎる方法なので、真面目に勉強するのはバカバカしすぎる。


 しかし……先ほどの大図書館で、こいつ等の使っている教科書も暗記した。

 こいつ等が習っているであろうレベルもその時に把握した。

 わざわざレベルを落としてやって、教師が求める答えを出してやったのだ。


「せ、正解です。しかし非効率だというのはどういうことですか? これは教科書にも書かれています。あまり変ななことを言っていては……」

「ほう? だったら、試してみるか。おい、この水を借りるぞ」


 俺は席から離れて、教師が立っている壇上へと上がる。

 授業中の水分補給のためなのか、教卓の上に置かれていた水を手に取る。


「そもそも聖水だとか、ポーション液だとか、神蜜など使わなくてもポーションは作れる」

「はあ?」

「なんのヘンテツもない水でもな、今からそれを体現してみせよう」


 俺はコップをつかんで、ぐっと力を込める。

 なんら魔法も使っていない。ただ魔力を水に込めただけだ。

 そうすると、水が緑色の光り輝いた。


「おっと、ちょっと力を入れすぎてポーションではなく、ハイポーションになってしまった。これじゃあダメか?」

「そ、そんなバカな……! ただの水でハイポーションなど作れるはずがなありません!」


 教師は俺の手から奪い取るようにして、コップの水を手に取る。

 そして鑑定魔法を使って、液体の正体を確かめた。


 すると目を飛び出さんばかりに見開いて、


「な、なんということだ! ほ、本当にハイポーションではないか! こんなことありえないっ! もしや、ただの水ではなかった……? いや、ここに置かれていたものは、確かに水だ。すり替えもなかったと思うし……」

「すり替えなど、つまらない真似などするはずがない。もしよかったら、もう一回実演してみせようか? そうだ、学園の敷地内に池があったな。あの池の水を全てハイポーションに変えてみてもいい」


 聖水やポーション液、神蜜をたかがポーションを作るのに使うなんてもったいなすぎる。

 俺なら……仮に一滴の神蜜があれば、そこからエリクサーを百人前分ほど生産することが出来るだろう。


「ど、どうして……! あなたは戦闘用の魔法だけではなく、生産魔法も使えると……? そ、そんなの聞いてないぞ!」

「生産魔法は比較的苦手だが、それでも俺はお前等の遙か先を行っている。生産魔法なら、俺に一泡吹かせられると思ったなら憐れなことだ」


 教師の顔が悔しさで歪み、歯ぎしりをしていた。


 ——ぱちぱち。


 その様子を見て、どこからか拍手の音が聞こえてくる。

 ロザンリラ側の生徒達が、俺に対して拍手してくれているようだ。


「水からハイポーションを作っただけで、大袈裟だな」


 しかし悪い気にもならん。


 俺は拍手の音を聞きながら、ゆっくりと自分の席へと戻るのであった。

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