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80・それは『勇気』ではなく『無謀』

 帝国のディスアリア魔法学園との『交流合宿』当日となった。


 詳細をいうと、王都側は一年生から三年生の選抜メンバー三十人が参加する。

 日取りは二泊三日。


 毎年恒例とはいえ、王都との因縁がありながらも開催するとは……やはり帝国がなにか企んでいるとしか思えない。

 しかし俺は真正面から帝国をぶっ潰すため、選抜メンバーに紛れて王都に向かうことにした。



「着いたな」



 馬車に長いこと揺られ、やっとのこさ、帝国のディスアリア魔法学園の前に到着した。


「人がいっぱいいる」


 淡々とした口調しながらも、興味津々といった感じの瞳でディスアリア魔法学園を見上げるシンシア。


「そうだな」

「王都より多い?」

「というより、建物が密集しているな。そのせいで人がごった返しているように感じるかもしれん」


 帝国の姿は1000年前とさほど変わっていない。

 魔神に滅ぼされてから、ここまで復興を遂げるとは。

 帝国は卑怯だし嫌いだが、しつこさに関しては定評がある。

 そこだけは見習いたいところだった。


「ララとマリーズは?」


 きょろきょろと顔を動かして、シンシアが言う。


「ディスアリア魔法学園に入る前に、帝国の中を散策したかったみたいだ」

「クルトは……付いていかなかった?」

「誘われたんだがな。それよりも、取りあえず今はディスアリア魔法学園の方に興味があった」


 さて。

 改めてディスアリア魔法学園に校舎を見る。


 王都にあるロザンリラ魔法学園よりも金がかかってそうな建物である。

 しかし結界魔法がろくに張られていない。


 これは酷い。

 こんなものじゃ、獄炎魔法の一発すらも耐えられないぞ?

《四大賢者》は弱いが、無詠唱魔法も使っていたし、帝国には結界魔法の技術は最低限あると思うんだがな。


 そういえば……ここでは、校長の死刑のことはなんと伝えられているんだろう?

 誰か聞ける相手がいればいいんだが……。



「おや? その制服……おやおや、王都の魔法使いさんが来たみたいですね」



 そんなことを思っていると、後ろから声が聞こえてきたので振り返る。


「お前は……ディスアリア魔法学園の生徒か?」

「はい。ですが、同じ学生とはいえ同じにしないでくださいね。あなた達みたいな劣等魔法使いとは違いますから」


 とその男子学生は人差し指でメガネをくいっと上げた。


 驚いた。

 交流戦でもあれだけボコボコにしてやったのに、まだ帝国の方が優れていると思っているとは。

 もしや……。


「おい、えーっと……」

「エリクといいます。そういうあなたは?」

「クルトだ。お前等、校長のことはなんて聞いている? 辞めたとは思うが……」


 かまをかけてみる。


 男子学生……エリクはそれを聞いて、腕を組みながら、


「ああ、よく知っていますね。というより『辞めた』のではなく、なんでも栄転になったとか。宮廷に入って、魔法騎士団の育成に入るとか……元とはいえ、僕達ディスアリア魔法学園の校長でしたからね。それくらい当然のことです」


 と誇らしげに答えた。


 ふむ……やはり情報がねじ曲げられている。

 まあ校長が死刑になった、なんて生徒が聞いたら動揺するだろうしな。

 しかし栄転とはとんだ笑い話だ。それを疑わず、信じている間抜けなこいつにもな。


「そうか。知ってると思うが、俺達は交流合宿に来たんだ。なにかあったらよろしくな」


 そう手を挙げて、エリクに背を向ける。


 別にここでわざわざ真実を伝える必要もなかろう。

 というか、それについては心底どうでもよかった。


 なので校舎の方へ歩き出そうとしたが、


「待ってください」


 とエリクに呼び止められる。


「そこはあなた達が足を踏み入れていい場所ではありませんよ」

「どういうことだ?」


 交流合宿で来てやったというのに、足を踏み入れてはいけないというのは変な話だ。

 エリクは俺を見下すような視線のままこう続ける。


「僕は今年の交流合宿に反対でした。どうしてわざわざ毎年、王都の劣等魔法使いを僕達の聖域……校舎に入れなければいけない? 汚れるじゃないですか。今すぐ王都に引き返してください」


 はあ。

 溜息も吐きたくなるものだ。


 見れば、周囲のディスアリア魔法学園の制服に身を包んでいる生徒達もクスクスと笑っている。

 エリクは極端な思想でありながらも、基本的なところではみんな同意しているということか。


「お前がなにを言おうと、校舎の中を見させてもらうぞ。どんなものか気になるものでな」

「もし入りたければ、僕を倒してからにしなさい」


 エリクが俺達の前に出て、通せんぼをする。

 こいつが愚かすぎて、頭が痛くなってきた。


「そういえばあなた、なに魔力ですか?」

「魔力色のことか? 俺は黄金魔力……いや、欠陥魔力だ」

「ほら! やっぱり王都の魔法使いは劣等だ! 僕は完全魔力です。欠陥魔力が完全魔力に勝てる道理もありませんね」


 とエリクは勝ち誇った顔で言った。


 まだこいつ等は間違った魔法の常識を信じてるのか?

 まともに相手する気も失せる。


 とはいっても、こいつをどかさなければ校舎に入ることも出来ない。

 仕方がない。


「シンシア、行くぞ」

「うん」


 シンシアの手を引いて、エリクの横を通り過ぎようとした。


「待ちなさい。僕を倒してからだと……」


 すぐに手を伸ばして、俺達を引き止めようとするエリクであったが、


「そ、そんなバカなっ。体が動かないだと……?」


 と必死に体を動かそうとするも、その場から一歩も動けずにいた。


「拘束魔法だ」

「拘束……魔法?」


 エリクが「不可解」と思ってそうな顔をする。


「そうだ。もしや、締め付けが弱かったか? 欠陥魔力の魔法だ。これくらい()()()()のお前だったら、解除出来るだろう」

「一体あなたはなにを……ああああああああ!」


 拘束魔法に込める魔力を強くしてやったら、エリクが悲鳴を上げた。


 パキパキ。

 骨のきしむ音が、ここまで聞こえてきた。


「うむ、少々強すぎたか?」


 今、エリクは巨人に握りつぶされているような痛さが、全身を襲っているに違いない。


「ああああああああ!」


 いい加減、悲鳴がうるさかったので魔法を解除してやった。

 すると拘束魔法を解かれたエリクは、へなへなと地面に寝転がり、口から泡を吐いて気絶してしまっていた。


「たかが魔法で拘束しただけなんだが……口ほどにもないヤツだ」


 周りを見ると、エリクの様子を見て引いているようだった。

 エリクみたいに、俺達を通せんぼしようとしてくるヤツは現れない。


「シンシア、どう思う?」

「憐れ……クルトに逆らうなんて、恐れしらず」

「そうだな」

「こいつ、勇気ある……?」

「勇気? 違うな。これは無謀というものだ」

「ふふ」


 シンシアが小さく笑った。

 俺達はそいつを放置して、改めて校舎の方へ向かうのであった。

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