8・筆記試験は簡単だった
魔法学園は王都で最も栄えている『中央街』とも呼ばれている区に存在している。
そこに辿り着くと、豪壮で煌びやかな校舎が真っ先に目に入った。
「あなたの受験番号は99ですね。頑張ってください」
受付まで行くと『99』と書かれた名札を渡されたので、それを胸に付ける。
さて……試験だ。
ここで落ちてしまって、村に帰るなんて情けない真似は出来ない。
俺は気合を入れ直して、校舎の中へ入っていった。
ロザンリラ魔法学園の入学試験は筆記と実技に分かれているらしい。
まずは筆記試験というわけで、俺達は受験番号によって指定された教室へと詰め込まれた。
「試験時間は九十分間だ。みな、力を尽くすように!」
試験官からの号令により、みんなが一斉に用紙を表に向ける。
さて……実技試験はなんとかなると思っているが、筆記試験の方はいささか心配なのだ。
なんせここは前世より1000年後の世界。
俺の中にあった常識が色々と崩れていてもおかしくないからだ。
というかこの十五年で、俺の中にあった常識にことごとく裏切られていたし……。
気を引き締めて、ペンを握って問題に目を通した。
……うん。これだったらなんとか解けそうだ。
歴史の分野は俺にとっては少し難しかったが、一応勉強してきたのでなんとかなりそうだ。
ここ200年くらいの歴史から中心に出題されている。
1000年前——俺の住んでいた世界は、どうやって伝えられているんだろうか?
文献を読みあさってみたが、1000年前の魔法革命のことは一切書かれていなかった。
昔すぎるからか?
いや、たかだか1000年前のことだ。考えられにくい。
そんなことを考えながら、すらすらと解答していく。
さて、次は魔法の分野だ。
こちらについてはなにも心配する必要性はない。
ただでさえ魔法技術が衰退している世界で、さらに学生レベルまで落としている問題なのだ。
実際目を通していくと、俺にとってはあまりにも簡単な問題が並んでいた。
『問・この魔法式の間違っている部分を一つ答えよ』
ん?
なんだこりゃ。
一つどころじゃなくて、ほとんど間違っている。でたらめな魔法式だ。
こんなもので、魔法なんて組めるとでも思っているのか?
ざっと計算したところ、二十八カ所は間違いがあった。
というか最初から書き直した方が、時間の無駄じゃないくらいだ。
なので魔法式を一から作り直してやった。
『問・マロメルグ魔法博士によって開発されたこの魔法陣の特徴と、戦闘においてどのように使われるか考察しなさい』
マロメルグ魔法博士?
聞いたことのない名前だ。
だが、書いてある魔法陣はあまりにも低質なものであった。
ただでさえ大したことがないのに、このままじゃ暴発してしまうぞ?
ああ、ひどい魔法陣だということを書けばいいのか。
俺はこの魔法陣の欠点を、すらすらと書いていった。
そして戦闘では使い物にならない。それでも無理矢理使うとしたら、俺はこう思うということも一緒に書いた。
こんな調子で問題を解いていく。
だが、最後の問題に差し掛かった時、一瞬ペンが止まってしまった。
そこだけ周りとは明らかに難易度が違っていたからだ。
「ほう……」
思わず声を漏らしてしまう。
それもそのはず。
——これは1000年前、俺が打ち立てた魔法理論が書かれていたからだ。
だが、どうやら書いてあることが間違っているみたいだ。
1000年という月日によって、間違って伝えられたということか。
しかし俺が打ち立てた魔法理論の中でも、これは子どもでも理解出来るように構築されたものだ。
そこまで難しいものでもない。
他のものよりちょっとだけ難しかったが、これも学生レベルの範疇に収まるものだろう。
(……よし。これで終わりか)
と心の中で呟く。
残りは……60分だと?
まだまだ時間は残っているじゃないか。
周りを見れば、まだ全員が黙々とペンを走らせていた。
最後まで見直しをするつもりなんだろう。
だが、あまりにも問題のレベルが低かったので、ケアレスミスをしているとは考えられにくい。
なので机に突っ伏して、残り60分寝ておくことにした。
◆ ◆
「試験終わり……! ペンを机に置きなさい」
試験管の声で目が覚めた。
解答用紙が回収されて、
「次は実技試験だ。みな、校庭に集まるように」
と言い残して、試験管は教室から出て行った。
俺もみんなが向かっていく方向に付いていきながら、周囲の声に耳を傾けた。
「さすが名門ロザンリラ魔法学園の試験だったな」
「ああ、難しかった……四分の一も解けなかったかもしれん」
「特に最後の問題、あれはなんだ? はじめて見るものだったんだが?」
どうやらみんな自信がないらしい。
しかしこれはみんなを油断させるために、わざと自分を卑下しているんだろう。
魔法学園の入学試験を受ける者が、あれ程度の問題を解けないとは考えられにくいからだ。
相手を油断させるのは、戦いにおいて基本だ。
「なかなかみんな侮れないかもしれないな」
まあ良い。
次は実技試験だ。
先ほどの筆記試験よりは退屈しないだろう。
みんなの後に付いていくと、巨大な校庭のような場所に到着した。