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79・学園への帰還

《四大賢者》のザームエルを撃破した後、俺は魔力の供給を絶って、シャドウを消した。

 激しい戦いを物語るかのように、周囲が一変としていた。


「クルト、さっきの魔法って!?」

「相変わらずとんでもないことをしますね、あなたは……」

「クルト、すごい。《四大賢者》も敵じゃなかった」


 風景を眺めていると、真っ先にララ達がそんなことを言いながら、俺を取り囲んできた。

 これくらい、大したことではない。

 はじめてではないが、こんなことを言われると、やはりむず痒いものだな。


「お、お主は本当になのものなのだ!?」


 ララ達を押しのけて、アヴリルが詰め寄ってきた。


「だから言っただろう、ただの学生だって」

「お主のような()()()学生がいるものか」


 信じてくれない。


「俺の方からも質問したいことがある」

「なんだ?」


 アヴリルが首をかしげる。

 ララの視点を通して見たザームエルとの戦闘を思い出す。


 アヴリルの魔法、そして魔力。

 ララやマリーズ、シンシアにも劣らない……いや、超えているだろう。


 さらにはホワイト・キャッスルなんていう魔法も使っていた。

 ホワイト・キャッスルは1000年前の基準でいうなら、上級魔法に位置していたものである。

 俺なら容易く使うことが出来るが……1000年前を思い出しても、ホワイト・キャッスルを使いこなせるものは魔法使いは少数であった。


 さて、ここで疑問が出てくる。


「アヴリルの力はこの世界の()()から考えて、明らかに逸脱している。その魔法の力、どこで手に入れたのだ?」



 どうして、こんな魔法使いがこの時代にいるんだ?



 いくつか可能性の候補は考えられたが、決定的な決め手がない。

 それに……アヴリルの魔力を見た時、どこか懐かしくもなったが、この気持ちはなんなんだろうか?


 俺がそう問いかけると、アヴリルは少し考え込む素振りをしてから、


「ふむう……それは言わなければならなことか?」


 と俺を見上げるようにして言った。


「言いたくないのか?」

「……()はな」

「だったら無理して言わなくてもいい。無理矢理聞き出すつもりもないからな」


 肩をすくめる。


 実際のところ、アヴリルにはかなり興味がある。

 しかしアヴリルが俺に敵対していない限り、強引に聞き出すのも違うような気がする。


 それに『今』は、と言ってくれているのだ。

 いつか話してくれるに違いない。


「私からしたら、お主の方が何十倍……いや、何百倍、何千倍もおかしいと思うのだがな。お主こそ、その力、どこで手に入れたのだ?」

「小さい頃から鍛錬を欠かさなかっただけだ」


 これは本当だ。

 あの生まれ故郷にいる頃から、魔力を増大させるトレーニングを欠かさなかったり、ラビット狩りによく出掛けていた。

 前世からの知識や力だけで、ここまでにはならないだろう。


「嘘だな。それだけで、お主みたいに強くなれるとは思えない」


 本当のことを全て伝えてないが、嘘じゃないんだがな。


「教えてくれぬか?」

「……俺も()は教えたくない」


 と言って、俺はララ達の方を見た。

 ララとマリーズ、そしてシンシアは一様にきょとんとした顔をしていた。


 正直、俺が1000年前から転生してきた、ということをララ達には伝えてもいいような気もする。

 しかし……そもそもララ達にとっては、突拍子もない話なので信じてくれないだろうし、関係性が変わってしまうかもしれないことが億劫だ。

 だから、未だに俺はララ達にも転生してきたことについては、なにも伝えてなかった。


「そうか……では私も聞かぬとしよう」


 アヴリルは息を吐いた。


「それで……お主達はこれからどうするつもりなのだ?」

「魔法学園に戻るつもりだ」


 お目当てのものは手に入ったし、邪魔者も排除した。

 これ以上ここにいる必要もないだろう。


「ロザンリラ魔法学園にか?」

「ああ、もちろんだ。アヴリルとは少しの別れになるな」


 俺がそう言うと、


「大賢者様……またすっごい魔法見せてくださいねっ」

「ララ、ずるいですよ。私も見せてもらって、習得して、クルトに褒めてもらうんです」

「シンシア……寂しい」


 ララ達も名残惜しそうな顔になった。

 しかしそれを見てアヴリルは、


「むう……話が勝手に進んでいるが、私からも一言言わせてもらっていいか?」

「なんだ?」


 俺が返事をすると、アヴリルはニヤッと笑みを作ってこう言った。


「久方ぶりに、あの校長に会いたい。私も人里に降りて、魔法学園に顔を出そうではないか」


 ◆ ◆


「ア、アヴリル様!? どうしてここにっ!」


 アヴリルを連れて魔法学園の校長室に戻ると、校長は驚き椅子からすぐに立ち上がった。


「うむ、久しぶりだな。前会ったのは……三十年前だったか?」

「そうですね。アヴリル様はお変わりなく」

「そういうお前も変わってないな」


 ハッハハ、とアヴリルは笑った。

 校長がアヴリルの前ではたじたじである。

 ますます校長……そしてアヴリル、この両者は何歳なんだろうか? と疑問が深まる。


「それにしても、このクルトという少年。本当にただの学生なのか? とんでもない魔法を使うぞ」

「……少なくても()()()学生ではないですね。ですが、ちゃんとした魔法学園の生徒ですよ」

「ふむ……もしや、私がしばらく人里離れている頃に、魔法文明は飛躍的に進歩していたのか?」

「いえ、三十年前よりは確かに変わっているのですが、アヴリル様が想像するようなものではありません。ごくごく普通に進歩していったのではないかと。クルトが変なだけです」

「ではこのクルトはなんなのだ」

「それは……私にも分かりません」


 校長が「お手上げ」といったポーズをする。


「アヴリル様、昔話は取りあえず後にしておきましょう。クルト」

「はい」


 不意に名前を呼ばれる。


「お目当てのものは手に入ったのか? この調子だったら、聞くのも愚問かもしれないが……」

「はい、いいものが手に入りました。教えてくれてありがとうございます。ついでに《四大賢者》が襲ってきたので、倒しておきました」

「な、なぬっ。《四大賢者》だと! 大丈夫だったのか!?」

「もちろんです。犬にお尻を噛まれたようなものですね」


 まあ噛まれすらもしてないような気もするが。


 俺がそう返すと、


「むう……そんなついでで帝国……いや世界でも有数の魔法使いである《四大賢者》を倒すとは。最早ツッコミが追いつかんのう」


 と校長は頭の処理が追いつかないみたいだった。

 顎を手で撫でながら、こう続ける。


「しかしこのタイミングで『交流合宿』の話がくるとは。やはり、なにか企んでいるものとしか思えんのう……」

「交流合宿?」


 校長から聞き慣れないかつ不穏な単語が飛び出したので、即座に反応する。


「うむ。授業にも慣れてきたと思われるこの時期に、毎年帝国の……ディスアリア魔法学園との交流が行われるのだ」

「前の交流戦とは違うんですか?」

「違うな。前の交流戦は『戦』の意味合いが強かったが、今回のものは『交流』の意味合いが強い。一緒に授業を受けたり、レクリエーションを受ける。交流戦は王都でやったが、今度はロザンリラ魔法学園の生徒が帝国に向かうことになっておる。全員連れて行くのはなかなか難しいので、王都からは三十人の選抜メンバーを送り出すことになっているが……」


 交流合宿か。

 ディスアリア魔法学園の校長は、中立都市の一件で死刑にされてしまった。

 中にいた教員のほとんども、クビになってしまったらしい。

 あれからというものの、ギリギリのところでディスアリア魔法学園の存続になったらしいが……エリカ先生や校長から聞くに、なかなかに学園内は混乱しているらしかった。


 それなのに、毎年恒例とはいえそんなものをやろうとは。

 なにか企んでいるとしか思えない。


 だが。


「いいじゃないですか、交流合宿。帝国がなにを企んでいるか分かりませんが、行ってやりましょうよ」

「正気か、クルト?」

「はい」


 ザームエルは言っていた。


『まだ汝を殺す者は、帝国から派遣されていくであろう』


 と。


 しかしいい加減待ちの体勢で、相手の出所を探るのも疲れた。


 ならば……こちらから、帝国に足を運んでやろうではないか。

《四大賢者》を全員倒したところだし、そろそろいい頃合いだろう。


「俺に考えがあります。なにかあれば、俺がなんとかしますし……交流合宿、やりませんか?」

「う、うむ……クルトがそう言うなら……まあディスアリア魔法学園になにかやれるほどの力が残っているとは思えんしな」


 どうして交流合宿として帝国に行くのか、についての理由は二つある。


 一つは『いい加減、待っているのも疲れたからこっちから仕掛ける』という意味。

 もう一つは、あちらがなにか企んでいるのならば、交流合宿として帝国に行くのならあちらの油断を誘えるかもしれない、と思ったからだ。


「決まりですね」


 背を向ける。


「クルト、もう帰るのか?」

「はい。それにアヴリルと積もる話もあるでしょう? 俺はお邪魔みたいだから」


 校長室の扉のドアノブに手をかけた。


「ふふふ、分かっているではないか少年よ。私は少々こいつと話をしたいことがある」

「あなたがそう言う時は、なにかよからぬことを考えている時なので……嫌ですね」


 校長が心底嫌がってそうな声が聞こえた。

 話の内容は気になったが、聞き耳を立てるのも無粋というものだろう。


 俺はそのまま黙って、校長室を後にした。

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