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75・来訪者

「そんなことよりお客さんが来たみたいだぞ」

「うむ、そうみたいだな」


 俺の言葉に、アヴリルは緊張感を張り詰めた声で頷いた。


「え、クルト……どういうこと? お客さんって——」


 とララが疑問を口にしようとした瞬間、



めっせよ」



 小屋の外からそんな言葉が聞こえたかと思えば、地響きが起こったのである。


「い、一体なにが起こっているんですか!?」


 マリーズが近くの壁にもたれかかりながらも叫んだ。


「どうやらここに向かって、攻撃を仕掛けてきているみたいだな」


 普通なら立ってられないくらいの揺れだ。

 しかし俺は直立した状態で冷静にそう口にした。


「こ、攻撃? ということは……これは魔法なんですか!?」

「そういうことだな」


 これは……地属性魔法のアースクエイク。

 魔法によって大地震を引き起こす魔法である。


 小屋がみしみしと、今にも崩れ落ちてしいそうな音を立てた。

 しかし。


「なかなか丈夫な造りをしているみたいだな。これ程度の魔法だったら、間違いなく持ちこたえるだろう」

「当たり前だっ。いつ何時、命を狙われるか分からぬからな。これくらいの対策はしている」


 素直に褒めると、アヴリルが胸を張った。


「さあて、そろそろ不躾ぶしつけな客を説教しに行くとするか」

「お主の口からその言葉が出るのは、色々と納得いかないところではあるが……」


 アヴリルがなにか言っていたが、今は答えている場合でもないだろう。

 揺れる小屋の中ではあるが、俺は悠々と移動して玄関扉を開ける。

 すると。



「汝が隠者いんじゃアヴリルか?」



 と杖を携えた一人の大柄な男が立っていたのである。


「いきなりこんなことをしていて、一発目の言葉がそれか?」

「答えよ」

「驚いた。ここまで失礼な客とはな」

「答えよ。さもなくば、この渓谷ごと崩壊させてみせようか」

「……まずはこのうっとうしい地震を止めるか」


 俺は手の平を地面に向ける。


 そしてヤツと同じように、アースクエイクを()()した。


「む……我の魔法が打ち消された……だと……?」


 男の顔に戸惑いが浮かぶ。


「正しくは打ち消したんじゃない。反対側に揺らすことによって、相殺しただけだ」


 地面が()に動いたら()に、()に動いたら()に。

 そうやってタイミングを合わせ、地面を人為的に動かすことによって、動きを相殺し止めたのであった。


「汝はなにを言っている。アースクエイクで、そんなことなど出来るはずがない。大地震を引き起こす魔法ではあるが、自分の好きなように揺れをコントロールするなどとはな」

「お前こそなにを言っている。アースクエイクは自分の好きなように大地を揺らす魔法だ」


 低レベルすぎて溜息を吐いてしまう。


 揺れが収まった頃、小屋の中からアヴリルやララ、マリーズとシンシアが外に出てきた。


「私の家になにをしてくれるのだ」


 アヴリルが鋭い視線を男に見せる。


「家? あまりにちっぽけすぎて、馬小屋かなにかだと思ったぞ」

「ペラペラと口だけは一丁前だな。ただ地面をちょっと揺らしただけで、いい気になっているのか? お主は何者だ?」


 アヴリルが問う。


 男は笑いをこらえられない、といった感じで、


「我はザームエル。《四大賢者》の一人であり、神の代行者である。ククク……分かったぞ。汝が隠者アヴリルだな?」


 と返した。


「ほお、私も有名人になったものだな」

「少ない情報ではあるが、隠者は女の姿をしているという。それに……汝の魔力、一人だけ異質すぎる。我の眼を持ってさえすれば、それくらいお見通しだ」


 ザームエルは悦に入っているようにして続ける。


「先ほどの地震を止めたのも、その少年ではなく汝だな? 少年のように見せ、自分は建物の中でなにかしていたに違いない。我の前では、汝等の策略など無に帰す」


 ペラペラ喋ってはいるが、男の言っていることは全て間違っていた。


 だが、それだけでこいつはバカだ……と決めつけるほど、俺も甘くない。

 こいつの本当の狙いはもっと別のところにある。

 自分を見くびらせるためか、狙いを誤認させるためか……もしくはその両方の理由で、こんな一見間抜けにも聞こえることを言っているんだろう。


 それを今指摘してもいいが、相手の出方を見るためにも、ここはもう少し泳がせてみるか。


「一体お主はなにが目的だ? あまりいい話だとは思えないがな」


 アヴリルが鋭い視線をザームエルに向けた。


「偽りの賢者を排除するためだ」

「偽り?」


 アヴリルに応えず、ザームエルは杖を掲げた。


「ゆえに……」


 そして魔法式を組みながらこう続けたのだ。



「汝の命——貰い受ける」



 杖先からイフレート・フレアが発動し、アヴリルを中心に大爆発が起こった。

 だが。


「これ程度の魔法、私にちょっとした火傷を負わせることも出来ぬわ」


 とアヴリルは一瞬で俺達の周囲に結界を張り、男……ザームエルからの魔法を防いだ。


「ほう? なかなかやるものだな、隠者よ」


 しかしそれを見ても、ザームエルは余裕の態度であった。


 それにしても、アヴリル……相手が魔法を放つ前から魔法式を組んでいたとはいえ、これだけの規模の魔法を完全に防ぐとは。

 この時代でそれが出来る魔法使いは限られてくるだろう。

 さすがは《宝物迷宮》の最下層に辿り着いた魔法使い、といっていいだろう。


「もう一度問う。お主はなにが目的だ? もしや、私を口説きにきたというわけではあるまい」

「ふんっ、小さき女よ、戯れ言をほざく。もう一度言う。我は汝を殺すため、はるばる帝国からやって来たのだ」


『殺す』という単語が出て、さらに空気がピリピリと張り詰めたものになる。


「隠者アヴリル。偽の賢者を名乗る女よ」

「私が名乗っているわけじゃあないんだがな。周りが勝手に言っているだけだ」

「そんなことはどうでもよい。自分だろうが、周囲が言っているだけだろうが、この世に賢者という名は一人だけでいいのだ。邪魔な他の《四大賢者》も全員いなくなった。後は汝さえ殺してしまえば、我が頂点となる」


 自分に陶酔しきっているような口調でザームエルは続けた。


「一体お主はなにを言っている。そんなこと……」

「使い魔よ。偽りの賢者を殺せ」


 アヴリルの言葉を遮るかのようにして、ザームエルがそう一言口にした。


 同時に魔法式が展開。

 地面に魔法陣が現れ、そこから体全体が漆黒の犬のような生物が出現した。


「グオオオオオオオオ!」


 犬の形をしたなにかが遠吠えをする。


 これは……シャドウか。

 従者のような存在を作り出す魔法だ。

 それによって生み出された魔物のようななにかを『シャドウ』と呼ぶのだ。


「まずはそれが汝の相手をしよう」


 ザームエルがそう口にすると、魔物が地面を蹴ってアヴリルに襲いかかる。

 光のごとき速さを持つ魔物である。


 魔物の牙がアヴリルの首筋に突き立てられ、血飛沫を上げようとした瞬間。



「この犬っころは俺が相手にするとしよう」



 俺はアヴリルの前に躍り出て、片手でシャドウの動きを止める。

 どれほど速い動きだろうが、俺にとっては欠伸が出てしまうものだった。


「ふん」


 シャドウの顔面をつかんだまま、俺はそれを遠くまで放り投げる。

 シャドウが地面から背中に叩きつけられ悶えながらも、震える足で立ち上がり、敵意の矛先を俺へと変更させた。


「アヴリル。それとララ、マリーズとシンシア。お前にはあの《四大賢者ザコ》を任せたい。いいか?」

「ふむ、お主こそあのザコ相手に一人で大丈夫か?」

「いらぬ心配だ」


 ララ達だけじゃ、まだ《四大賢者》は荷が重いが、アヴリルがいれば安心してそちらを任せられる。

 いい経験にもなるだろう。


「さて……」


 俺はシャドウの前まで走る。

 そして……先ほどの魔剣の先をシャドウに向け、こう口にした。


「丁度試し斬りをしたかったところだ。魔剣のさびとなるがいい」

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