表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/189

74・魔剣

「だが、例えお主でも()()剣を扱うことが出来るかな……?」

「どういうことだ?」


 俺が問うと、アヴリルはくるっと背中を向け、


「付いてこい。私の住むところに、お主達が求めている剣がある」


 と先ほどの小屋の方に向かって、歩き出したのだ。


 ふむ……付いてこいということか。

 どうやらアヴリルの口ぶりから察するに、《宝物迷宮》の最下層で得たアイテムとやらは、そこにあるようだ。



「《宝物迷宮》最下層のアイテムってどんなのかな?」

「楽しみですね」

「でも、アヴリルさんの言ってたこと、気になる」



 ララ達三人も興味津々だ。


 俺達はアヴリルの背中を追いかけ、小屋の前へと移動した。


「入るがいい」


 アヴリルに招かれ、小屋の中へと足を踏み入れる。


「中はなかなか広くなっているんだな」


 中はテーブルやベッドといった生活用品は最低限だが、ぎっしりと本が入れられている大きい本棚が目立った。

 本の背表紙だけちらっと見てみると、どうやらほとんどが魔法に関する書物らしい。


 いい場所だ。

 主に魔法の研究や鍛錬が捗りそうである。


「それで……その剣とやらは?」

「これだ」


 アヴリルは本棚の前に立ち、手を掲げた。

 するとそこから青白い光が発せられる。


「わっ、本棚が動いたよ!?」


 ララが驚きの一声を上げる。


 彼女の言った通り、本棚がゴゴゴと音を立て、一人でに左右に分かれるようにして動き出したのだ。

 そして本棚の後ろには、ぽっかりと暗い穴が空いていた。


「この奥に《宝物迷宮》最下層のアイテムは保管している。付いてくるがいい」


 とアヴリルは穴の中に入って、地下に通じているように見える階段を下りだした。



 俺達はアヴリルの後を追いかけ、やがて薄暗い地下室へと辿り着いた。



()()剣だ」



 アヴリルが指を差す。

 その部屋の片隅には、一本の禍々しい剣が置かれていた。


「ほお……なかなかのもんだな」

「お主、なにか分かるのか?」

「ああ」


 俺は首を縦に動かす。


 その剣はまるで封印されているかのように鎖に巻かれて、壁に固定されているようだった。


「見ているだけで、不安になってくるような剣だとは思いますが……クルトはそれ以外になにか感じるんですか?」

「禍々しい魔力を感じるな」


 とマリーズの質問に対し答える。


「禍々しい?」

「所謂、『魔剣まけん』と呼ばれるものだろう。アヴリル、そうだな?」


 アヴリルの方を向くと、彼女は神妙な顔で頷いた。


「ご明察。《宝物迷宮》にとんでもない剣があったものだ。まさかこれほどの魔剣を用意しているとはな……」


 魔剣。

 一般的に魔剣には禍々しい魔力が膨大に込められているため、絶大なる力があると言われている。


 しかし反面、一種の『呪い』が込められていることが多く、並大抵の使い手では魔剣を扱うことが出来ない。


 1000年前において、握るだけで使い手を禍々しい思想に染め、正気を失わせてしまう魔剣もあった。

 だからこそ畏怖の意味も込めて”魔”剣、と人は呼ぶようになったのだ。


「アヴリルでもこの魔剣を扱うことが難しいのか?」

「うむ。不甲斐ないがな」


 アヴリルは悔しそうにギリっと歯ぎしりをした。


「私は《宝物迷宮》から帰還した後、この魔剣を持ち帰った。そしてずっとこの魔剣を扱える者を待っていたのだ。とはいっても、ここ三十年間……ただ一人ですら、私のところまで辿り着いてこなかったがな」


 話は分かった。

 無論、アヴリルがそれだけの理由で、こんな不便なところに居住を構えたとは考えられにくい。

 だが、理由の一端はそれにあるんだろう。


「どうして扱うことが難しいんですか?」


 マリーズが問うと、アヴリルは低いトーンの声で話しはじめた。


「この魔剣は握るだけで、使い手の体力と魔力を吸い上げてしまうのだ」

「剣が……ですか?」

「それが魔剣というものだ。私もなんとか魔剣を扱おうとした。しかし……この魔剣は恐ろしいものだ。魔力量には自信があったが、たった五秒ですら持っていられることも出来なかったよ」


 アヴリルが肩をすくめる。

 彼女ですらそれなのだ。

 俺の見立てでは、ララ達なら魔剣を持っただけで魔力の全てを吸い上げられ、精神が崩壊してしまうかもしれない。


「さて……この魔剣。お主は扱うことが出来るかな?」


 試すような目線をアヴリルが俺に向ける。


 なるほど。

 これがいわば最終試練といったところだろう。


 しかし悩む必要はない。

 俺は徐に魔剣のところまで近寄って、



「扱う? 違うな。俺はこの剣を()()するのだ」



 と魔剣を手に取り、鎖を引きちぎるように引っ張った。


「なっ……!」


 アヴリルが目を見開く。


 魔剣を握った瞬間、脳内に謎の声が流れ込んでくる。


『喰わせろ、喰わせろ、喰わせろ、喰わせろ』


 おそらく魔剣からの声であろう。

 脳がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような声であるが、


「うるさい。さえずるな」


 声を一蹴し魔力を流し込むと、だんだんと小さくなっていき、やがて消滅してしまった。


「な、なんともないのか?」


 震えた声でアヴリルが問う。


「大丈夫だ。なかなかの魔剣だったがな。引っ張られる魔力よりも多く、送り込んでやったら、すぐにかしづいたよ。これでこいつは俺に絶対服従だ」

「魔剣がお主を認めた……というのか? そ、そんなことが……! どれだけの魔力量だったんだ!」

「そうだな…軽く王都三つ分は、吹っ飛ぶ魔法を放てるくらいの魔力量といったところか」

「王都を三つ分だと……!?」


 これでも全盛期に比べたら魔力量は大したことがない。

 しかし魔剣が求める魔力量など、俺に比べたら一晩寝れば全回復するようなものだ。

 とはいっても僅かとはいえ、魔力を消費してしまうことには抵抗はあったが……。

 それよりも、この魔剣を扱えるようになる方が、利点が多いと考えたのだ。


「試し斬りでもしたいところだな」


 一度魔剣を振ってみる。


 うん、軽い。

 最初はワガママな剣だったものの、一度認めさせてしまえば扱うのは容易いものだ。

 


「ま、魔剣がクルトをあるじだって認めたってこと?」

「アヴリルさんでも無理だったものを……あなたの魔力量は底なしですか?」

「クルト、すごい」



 ララとマリーズ、シンシアも賞賛してくれた。


「それでアヴリル。頼みが一つあるんだが……」

「言わなくても分かっておる」


 アヴリルは興奮のためか、震えた声のままこう続ける。


「この魔剣はお主ものだ。強さ以外にも心の正しさを持つお主なら、魔剣も安心して任せられるというものだ。魔剣を……よろしく頼む」


 有り難い。


 この時代にきて、ようやくまともな剣を手に入れることが出来た。


 とはいっても、俺にとってはこの魔剣はまだ完成ではない。

 改良を加えることによって、まだ伸びていく余地があるのだ。

 そのことを考えると、今から楽しみであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ