表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/189

69・古代文字で書かれた地図

「ク、クルト! これってどういうこと!?」


 百層に着いて、ララは真っ先に声を上げた。



「なにもないよ!」



 とララは辺りをキョロキョロと見渡して、慌てるようにして続けた。


 ララの言った通り、せっかく百層に到着したというのに、アイテムも魔物もいる気配がない。

 だだっ広いだけの部屋の中央、そこに剣の台座のような場所があるのみであった。


 これは……どういうことだ?


「クルト……また私達では発見出来ないくらいのところに、アイテムが隠されているということでしょうか?」

「いや」


 マリーズの問いかけに、俺は首を振った。


 その可能性も考え、俺はすぐに探知魔法を使った。

 しかしめぼしいものはなにも反応しない。

 空になった百層の部屋は、明らかに異質なものであった。


「最下層ってこういうもの?」


 今度はシンシアが問う。

 俺はそれに対しても首を振り、


「そんなわけない。迷宮の最下層というのは、一番いいアイテムだったり一番強い魔物が配置されているものだ」

「だったら、もう他の誰かが取っちゃったのかな?」


 ララが首をかしげる。


「……その可能性は考えられるな。しかし《宝物迷宮》の最下層には、誰も辿り着いたことがなかったんだろう?」


 俺の言葉に、みんなは一様に頷いた。


 俺達がここに辿り着くまでに、誰かが百層に辿り着いてアイテムを取ってしまった……というのはあり得る話だ。

 しかし今までここ百層は未踏だったという話だから、おかしいことだ。


「ここで考えていても仕方ないな」


 俺は頭をかいて、


「学園に戻ろう」

「戻る? まだなんにも手に入れてないのに?」

「ああ。ここにこれ以上いても、アイテムが出てくるわけでもない。このことを知ってそうな人に話を聞くんだ」


 それにもう一度百層に来たければ、《秘匿された道筋(シークレット)》を使えばすぐに到着することが出来る。

 あまり使いたくないが……一度来たところなので、転移魔法を使うことも可能であった。


「待ってください、クルト。このことを知ってそうな人って……」


 俺が歩き出すと、後ろからマリーズが真っ先に追いかけてきた。

 俺は振り返らず、彼女に対してこう答えたのであった。


「校長だ」


 ◆ ◆


「おお、クルトよ。いきなりどうしたのだ?」


 校長室に行くと、彼は両手に棒のようなものを持っていて、床に視線を注いでいた。


 床には小さなボールが置かれている。

『ゴドゥフ』と呼ばれる、この時代のスポーツの一つである。

 校長は趣味としてゴドゥフをこよなく愛していて、勤務中にも鍛錬に勤しんでいる……という話も聞いたことはあったが、そんなこと今は重要じゃない。


「校長。《宝物迷宮》について聞きたいことがあります」

「迷宮か? クルトでも分からないことがあるんだな。いいぞ、なんでも聞くがいい」


 と校長は棒を壁に立てかけて、椅子に腰掛けた。


 本来は一生徒がこんな気軽に校長室に来るのは、いかがなものか……という感じはするが、俺と校長の関係だ。

 校長には「困ったことがあれば、いつでも校長室に来てくれ」と予め言われている。


 俺は校長が座っているところまで近付いて、こう質問を続けた。


「今日、百層に辿り着きました」

「……ん? すまんすまん、クルト。最近耳が遠くてな。もう一度言ってくれんか?」

「百層に辿り着きました」


 俺が繰り返すと、一瞬校長は固まる。

 しかしすぐに目を飛び出さんばかりに大きくして、


「ええええええ! ひゃ、百層に辿り着いただと!? ()()を除いて、誰も辿り着かぬ未踏の地だと思っていたが……」

「ということは、俺達以外にも百層に辿り着いた者がいる。そういうことですよね?」


 俺の問いに、校長は口を閉じた。

 そして神妙な声音となって、


「うむ、まさか《宝物迷宮》の最下層に辿り着く者がまた現れるとは——いや、クルトだったらあり得る話か」

「そういう話はいいんです。今日、最下層に行ったらアイテムもなにも残されていませんでした。最初に辿り着いた人が、アイテムを根こそぎ取ってしまった……そういうことですよね」


 俺が問うと、校長は「うむ」素直に頷いた。


「いかにも。あれは三十年前だったか……」


 校長はそんな切り出しで、最初に最下層に辿り着いた『ある者』について語りはじめた。


「三十年前もここ魔法学園の校長をしていた儂の元に、一人の女性が尋ねてきたのだ」


 彼女は校長にこう言ったのだという。



『悪い。《宝物迷宮》の百層、攻略しちまった』



 と。


「随分軽いね……」

「それにどうして謝ったんですか?」


 ララとマリーズが相づちをうった。


「そういう人間だったのだ。それに……《宝物迷宮》は生徒の教育のためにも使われる。無関係の自分が百層まで攻略してしまったことに対して、生徒のやる気を削がないか、といったことを危惧したんだろう」

「最下層に行っても、アイテムもなにも残されていないかもしれない……と生徒が考えてしまうからですか?」


 俺の問いに、校長は首を縦に動かした。


「そして彼女はこう続けたのだ。


『最下層のアイテムは頂かせてもらう。しかし……もし生徒の中で、最下層に辿り着いた者がいたとするなら……きっとその子はとてつもない才能を秘めた子だ。私も一度会ってみたいから、その時は私を訪ねてくるように言ってくれ。もし私がその子を気に入れば、最下層にあったアイテムを譲ってもいい』


 とな」


 うむ。なるほど。

 地下迷宮のアイテムは早いもの勝ちで、遅かった者が文句を言う筋合いもない。

 だから仕方ないと思っていたところだが……どうやら、まだ諦めるには早いみたいだぞ。


 それにこの時代で《宝物迷宮》の最下層に辿り着く者がいるとは。

 彼女に対して興味も湧いてきた。


「その人はどこにいるんですか?」

「ふむ。それなんじゃが……」


 そう言って、校長は金庫からとある一枚の紙を取り出した。


「彼女にこの地図を渡された。彼女はそこに住んでいるらしい。とはいっても、三十年前の話なのだが……」


 しかしそれしか現状手がかりがないので、地図を頼るしかないだろう。

 校長から少し黄ばんだ地図を受け取る。


「わわわ! なんて書いてあるか分からないよ!」

「これは……古代文字でしょうか?」

「シンシアも分からない」


 と横からララとマリーズ、シンシアも地図を覗き込んでくる。


「うむ……彼女いわく、これ程度も読めない者は私のところに辿り着く権利なし、と言っていたな。彼女にとって、いわば古代文字で書かれた地図は試練なのだろう」


 試練か……。

《宝物迷宮》の《秘匿された道筋(シークレット)》も、そういう側面があるからな。

 今日は試されることが多い日だな。

 だが。



「古代文字なら読める。彼女はそう遠く離れていない、ソキヘマーの渓谷けいこくというところにいるはずだ」



 この時代の人間が『古代文字』と呼んでいるのは、1000年前に当たり前のように使われていた言語なのだ。

 俺は地図を一瞬で看破し、それをララ達に伝える。


「ク、クルト! すごいよ!」

「そういえば、あなた……以前《宝物迷宮》の一層にある古代文字も、解読していましたね……」


 ララがはしゃぎ、マリーズがあんぐりと口を開けていた。


「クルトは強いだけではなく、博識なのだな! それにしても、ソキヘマーの渓谷とは……あそこは凶悪な魔物も蔓延っていると言われている。そんなところに彼女は住んでいるというのか」


 と校長も驚きを隠せないでいるようだが、俺は彼女にシンパシーを感じていた。


 凶悪な魔物が蔓延っている?


 そんなの……最高の場所じゃないか!


 寝て起きたら、すぐ隣に魔物がいる。

 絶好の鍛錬場所だ。

 今すぐにでも彼女に会いたくなった。


「では早速行ってみます。ララ、マリーズ……そしてシンシアも、一緒に付いてくるか?」

「あ、当たり前だよっ」

「ここまで来て抜けるなんて、有り得ないんですから!」

「シンシアもクルトに付いていく」


 どうやらまだしばらく三人との旅は続きそうだ。


 地図を読むに、ソキヘマーの渓谷までは一日もあれば辿り着きそうだった。

 そこの一番奥に彼女は住んでいるらしい。

 問題は三十年前のことなので、もしかしたらもういない可能性もあるが……その時はその時で考えればいいだろう。


「そういえば、校長。その彼女の名というのは?」

「うむ」


 校長は口髭を撫でながら、彼女の名前を口にした。


「アヴリル。大賢者とも呼ばれ、その姿を見た者は少ないとも言われている。彼女に会うことが出来れば、きっとクルトのかてになるはずだ」


 大賢者アヴリルか。

 今から彼女ことを考えると、胸が弾むようだった。




 ……校長室から出て。


「そういえば、三十年前も校長って校長してるって言ってたよね」

「そうみたいだな」

「だったらあの校長、一体何歳なんだろう?」


 ララの疑問に、俺も首をひねるしかなかったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

マガポケ(web連載)→https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331722340188
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000349486

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新3巻が発売中
3at36105m3ny3mfi8o9iljeo5s22_1855_140_1kw_b1b9.jpg

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ