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67・三つの魔法陣

秘匿された道筋(シークレット)》を通って、五十七層に到着する。


「一層に似たような場所だね」


 着くなり、ララが声を上げた。

 五十七層は《宝物迷宮》の名にふさわしい、入り組んだ道の迷路のような場所であった。


「ここも攻略して、五十八層に降りる道を探すんですか?」

「まさか」


 マリーズにそう返す。


 俺の経験上、《秘匿された道筋(シークレット)》で辿り着いたこの五十七層にも、同じものが隠されている可能性が高いのだ。

 そうじゃないと、ここからまた五十八層や五十九層に降りてなんてすると、時間をくってしまうからな。

 ショートカットの意味が薄くなる。


「さて……ここの《秘匿された道筋(シークレット)》だが」


 探知魔法を使う。


 すると、俺はとあるものに気が付いた。

 今すぐそれを指摘してもいいのだが……。


「シンシア」


 その前に、俺は彼女の方を向く。


「シンシアも探知魔法を使ってみてくれ。トラップや隠し通路を見つけることも、落印魔力持ちの仕事だ。今のシンシアだったら、きっとなにか発見するはずだから」

「……分かった」


 シンシアは一瞬少し驚いたような表情になりながらも、探知魔法を展開する。

 時間はそんなにかからなかった。


「こっち」


 シンシアは道を真っ直ぐ進んでいき、俺達はその後をついていった。


「……ここ」

「シンシア? ここ行き止まりだけど……」

「私の探知魔法では、なにも感じられません」


 ララとマリーズは戸惑ったような顔。


「まあ二人には仕方ない。かなり巧妙に隠されている。シンシアだからこそ見つけられたんだ」

「「?」」


 きょとんとした二人。


 一方シンシアは淀みない動きで、行き止まりとなった壁の一部を触って魔力を送り込んだ。

 すると……。


「わっ! か、壁がなくなったよ!」

「どうやら道が続いているようです」


 驚くララとマリーズ。

 壁がすーっと霧状のものに変化し、そのまま消えていったのだ。


「よくやった、シンシア」

「ん」


 シンシアは短く返事をするが、頬がピンク色に薄く染まっており、どことなく嬉しそうだった。


「どうやら五十七層の《秘匿された道筋(シークレット)》はこの先にあるらしい」

「これ自体が《秘匿された道筋(シークレット)》じゃないんですか?」

「違うな。だとしたら、いくらなんでもぬるすぎる」


 俺達は出現させた道を歩いていると、開けた場所に出た。

 なにもないが、広い部屋のようだ。

 だが、これ以上道もなく、アイテムもなにも隠されている様子じゃない。


「外れでしょうか?」

「いや……」


 俺が言葉を続けようとすると、



『よくぞ現れた、探求者達よ。迷宮は強き汝等を歓迎するぞ』



 誰もいないのに、部屋の中に突如男性の声が響き渡ったのだ。


「て、敵!?」

「ララ。慌てなくてもいいから……どうやら五十七層のマスターのようだ。そうだよな?」


 俺が問いかけると、


『うむ』


 といった先ほどの声が返ってきた。


「実体はない……といったところか。いうなれば、五十七層の意思が俺達に話しかけてきているんだ」

「そ、そんなことってありえるんですか?」

「迷宮にはこういうこともある」


 声からは俺達に対して、好奇心を抱いているように感じられた。


「《秘匿された道筋(シークレット)》はここにあるのか?」


 俺は声の主に問いかける。


『《秘匿された道筋(シークレット)》……人間がどう呼んでいるか分からぬが、九十九層へと続く転移ショートカットはこの部屋に存在している』


 当たりだ。

《宝物迷宮》は百層まで続くといわれる。

 ならば九十九層までといけば、最下層までは後一歩といったところだろう。


『汝、転移ショートカットを求めるか?』

「ああ」

『よかろう。ならば我からの三つの問題に答えることが出来れば、転移ショートカットを授けよう』


 三つの問題?


「それはなんだ?」

『そう慌てなくてもよい。今からこの場所の地面に、三つの魔法陣を順番に書く。この場所に汝等を永遠に閉じ込める魔法陣だ。その三つの魔法陣を解除出来た時、転移ショートカットを授けよう』


 なるほど。

 こいつの言葉を信じるなら、今度はただ戦うだけではないらしい。

 いうなれば、五十七層ダンジョンマスターとの『知恵比べ』といったところか。


「永遠に! それって大変なことじゃ……」

「もし解けなかったら、私達一生この場所にいるってことですよね!?」


 ララとマリーズは動揺している。

 それを見てもマスターは、


『ほっほほ。もしそうなったら、ここで永遠に我と知恵比べをしようではないか。なんせ人間など1000年ぶりなのだ。我を楽しませてくれ』


 とうきうきしたように声を弾ませていた。


『どうだ、やるか?』

「ああ、もちろんだ。ララもマリーズも安心して」


 俺はそう語りかけると、二人はお互いに体を寄せ合いながら頷いた。


『では第一問。まずはこれだ』


 地面から光が発せられる。

 そうかと思えば、巨大な魔法陣が描かれていた。


『どうだ? 人間にとっては難解かもしれぬが、これ程度を解けなければ残り二つなど絶対に無理だぞ?』

「ふん、このどこが()()だ?」


 俺は一瞬で魔法陣の綻びを見つけ、魔力を注ぎ改ざんして、解除する。

 魔法陣から発せられる光が弱くなっていき、やがてパリンとガラスが割れるような音とともに消滅した。


「どうした、こんなものか?」

『まさか』


 続いて二問目がマスターが出される。

 先ほどと同じような魔法陣だ。

 しかし。


「うーん……わたし、全然分からないよぉ」

「私もです」


 二人は難しそうな顔をして、お手上げ状態であった。


 先ほどより、少し複雑になっているのだ。

 これでは魔法の解除といった分野に慣れていない二人では、解答の突破口を見つけることも出来ないだろう。


 だが、その中で一人。手を挙げた者がいた。


「シンシア……出来そう」

「シンシアでも少し難しい問題だと思ったが、そうきたか。よし、失敗してもいいからやってみて」

「うん」


 今度はシンシアが魔法陣の解錠に挑戦する。

 何度も言うようであるが、彼女の持つ落印魔力は魔法式や魔法陣の分析にも長けた魔力なのである。


 シンシアは自分の魔力を注ぎ、一つずつ丁寧に魔法陣を壊そうとしていた。

 時間にして十五分くらいだっただろう。


『ほう……これも正解に辿り着くか』


 魔法陣が消滅すると同時、マスターも驚いたように声を出した。


「ふう……やれた」


 シンシアが額の汗を拭う。

 魔力とともに、相当集中力を使ったみたいだな。


「シンシアちゃん、すごいよ!」

「ホントです……私は全然分からなかったのにっ」


 ララとマリーズも嬉しそうに、シンシアに抱きついた。

 シンシアは無表情のままであったが、二人に抵抗しないところを見たら、満更でもない様子。


『しかし喜ぶのは早い。最後の問題は難問だ。今なら引き返す権利を与えてやってもいいが?』

「俺達に魔法陣を解かれるのが、そんなに怖いか? 早く魔法陣を書いてくれ」

『その言葉、後悔するではないぞ』


 マスターから少しむっとした声。

 やがて部屋の地面びっしりに魔法陣が描かれ、眩いばかりの光が放たれた。


「うわっ、なにこれ!」

「本当にこれ魔法陣なのですか? それすらも分からないです……」

「シンシアもこれは無理……」


 三人がそれを見て、焦りの声を出した。


 それを聞き、主(マスタ−)は機嫌良さそうにして、


『ほっほほ! どうだ? 我が1000年間かけて、考え抜いた魔法陣だ! 人間では到底解けるものではないだろう! なあに、解けなくても永遠に時間はある。1000年もかければ、もしかしたら汝等だったら解けるかもしれぬ!』

「なにを言っている?」


 確かに今回のは先ほど二つのものと比べて、質が段違いだ。

 しかし。



「この程度の領域、俺は遙か昔に辿り着いている」



 それこそ1000年前にな。


 マスター渾身の魔法陣を俺は一瞬で解除し、消滅させた。


『なっ……! こ、この魔法陣を……人間ごときが解くだと……?』


 これは完全に予想外だったのか。

 マスターも驚きを隠せないようであった。

 魔法陣にはダミーとして、いにしえの魔法式も混ぜられていたが、そんなもの俺にとっては目くらましにしかならない。


 そうこしていると、部屋の中央に光の球体が現れた。

 どうやらここに飛び込めば、九十九層に行けそうだ。


「じゃあな。また暇だったら、遊んでやるよ」

『グッ……! 悔しいが、末恐ろしい人間よ……いや、汝? 本当に人間か?』

「人聞きの悪いことを言うな」


秘匿された道筋(シークレット)》を使って、九十九層に行く前に。


「あっ、そうだ。この迷宮って1000年前からあるんだよな」

『そうだ』

「だったら、この1000年間……地上でなにがあったか知らないか?」

『地上でか? 我はずっとこの五十七層を守っていた。地上の話は耳には入っておらぬが……』


 もしかしたらなにか知っているかもと思ったが……。

 この調子なら、この世界の衰退の理由も知らなそうだ。

 俺は少し残念に思いながらも、光の球体に飛び込んで九十九層へと転移したのであった。

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