63・一人騎士団
俺の力試しをする。
そんな話になってから、訓練場とやらに通された。
訓練場はとても広く、百人以上は悠々と収納出来そうな場所であった。
「どうした? 怖じ気づいたか?」
騎士団長のアークが「ククク」と笑う。
「魔法学園にあるホールより、かなり広いものでな。ここだったら、少し激しく運動しても大丈夫そうだと思っただけだ」
「……! その不遜な態度、今すぐ改めてやる!」
アークは俺の態度を見て、なにやら激昂しているようだった。
いちいちこいつに敬語を使うのも億劫だからな。
いつも通りの口調で問題ないだろう。
「クルトよ。儂もそなたの力を目の前で見られること、楽しみにしておるぞ」
国王が声をかけてくれる。
ちなみに……国王や大臣、その他王宮にいた人々の何人か二階席で俺達を見下ろしている。
吹き抜けになっていて、様子を眺めることが可能なのだ。
たかが訓練場なのに、こんな設備が整えられているなんて、立派なもんだ。
「じゃあ騎士団長よ。早速戦うか?」
「まあ待て。そんなに慌てるな」
アークが余裕の態度を崩さず続ける。
「そもそも私がわざわざ手を下す必要があるのか……まずはそれを見極めさせてもらう」
「ほう?」
「あまりにも力の差が離れていれば、弱い者イジめになってしまうからな。これは私なりの優しさだ」
「ごちゃごちゃ言っているが、どうでもいい。だったら俺の力をどうやって試すのだ?」
「まずは騎士団の選りすぐりの者と戦ってもらう」
とアークは指を鳴らす。
すると奥の方から、五十人の鎧を着けた男共が姿を現した。
「この者達は全員騎士団員だ。さらにこの中から、騎士団の五本指に入る実力の者を選出する」
アークがそう言うと、五十人の騎士団員の中から、五人の男が一歩前に出てきた。
「まずはこの者達と順番に戦ってもらおうぞ。どちらかが戦闘不能に陥るか、ギブアップと言うまでだ。念のために言っておくが、不正は許さんぞ。この戦いを見守る観客達、そして騎士団員がお前の動きを全て見ている。正々堂々と戦うんだな」
うむ。
勝ち抜き戦とやらか。
なにか不審な動きを見せれば、二階席で見ている国王やその他一般人の目はともかく、歴戦の騎士団員は誤魔化せないといったところだろう。
まあやるつもりなんてなかったが。
だが……アークの表情を見る限り……それだけの理由で、五十人もの騎士団員を連れてきた、というわけではなさそうだ。
もし万が一その五人が負けそうになった時、適当な理由を付けて戦う人数を増やしていくつもりなんだろう。
『そういえば、そいつは右足を怪我していた。本当の実力者はこっちだ』
なんてことを言ってな。
なかなか卑怯なヤツだ。
しかしまともに付き合ってやる必要もない。
「アーク。お前はなにを言っているんだ?」
「ん? クルト殿は、ダークデーモンといった魔族を一人で倒したんだろう? まさか五人対一人の勝ち抜きは不利だなんて言うつもりか? クルト殿の実力を考えれば、妥当なところだと思うが……」
アークは嫌らしい笑みを作った。
こうやって、用心深く勝利を目指す姿勢は嫌いではないが、時間の無駄だ。
俺は代表に選出された五人の騎士だけではなく、その後ろに控える者達も眺めて、
「全員だ。全員まとめて相手にしてやるから、一斉にかかってこい」
と言い放った。
「……は?」
さすがのアークも計算違いといった感じで、口を間抜けに開く。
「クルト殿……正気か?」
「ああ。それにどうせ負けそうになったら、五人以外も選出するつもりだったんだろう? それならまとめて相手にする方が早い」
俺がそう続けると、アークは真っ赤な顔になって、
「も我が騎士団を愚弄しすぎだっ! その減らず口を今から教育してやる! おい、お前等! 当初の予定と狂うが……全員だ! 全員でこの小僧をぶっ潰せ!」
と言って、残りの騎士に指示を出した。
五十人の騎士は戸惑いながらも、各々が剣や弓矢といった武器を構えた。
「よし。じゃあはじめるか」
俺も鞘から剣を抜く。
すると一斉に、騎士達が俺に襲いかかってきた。
「ほう……」
しかし愚直に突っ込んでくるわけではない。
前衛で突っ込んでくるもの、タンクの役割を担うもの、中衛で支援に集中するもの、後衛で弓矢を放つもの。
戦略的に陣形を組んでいるのだ。
ここはさすがに国の軍事を担っている騎士団といったところか。
しかし。
「実力不足すぎる」
俺はそう呟いてから、突っ込んでくる前衛に向かって剣を振るった。
身体強化魔法、さらには魔撃を使いながら近〜中距離攻撃で相手をなぎ払っていく。
「な、なんだこのガキ! 動きが速すぎて見えないぞ!」
「慌てるな! 陣形を崩すな……グハッ!」
「こっちは五十人いるんだぞ? 各々が役割を守れば、たかが子ども一人に負けるわけがない……!」
見る見るうちに騎士団の陣形が崩れていく。
しかしこいつ等は決定的な勘違いをしている。
「一人で前衛・中衛・後衛の役割を兼任すれば、それで済むだけの話だろう?」
前世で俺はパーティーをほとんど組んでこなかったので、一人で戦ってきた。
その結果、前衛の攻撃力・防御力を兼ね備え、中衛として戦いを整えることも出来れば、後衛で治癒魔法や大規模魔法を使う……といった全てのことが同時に出来るようになったのだ。
あいつ等は俺が一人で戦っている……と思っているから、こんなに慌てるんだ。
せめて一万人の軍勢と戦っている、と思ってもらわなくちゃな。
俺が剣を振るうたびに、戦闘が可能な騎士の数は減っていった。
残り二十人……といったところか。
さて、後はまとめて片付けさせてもらうか。
「そうだな……神槍ボーリキアとやらを使うか」
収納魔法から先ほどもらった国宝とやらを取り出す。
「あ、あれは神槍ボーリキア! 一体どこから取り出したんだ!」
「あんなの使いこなせるわけがない。一度手に取らせてもらったことがあったが、重すぎてまともに持てなかったぞっ?」
「あれをどうやって振り回す気だ……」
使いこなす? 振り回す?
そもそもこんな神槍を、『愛用の武器』みたいに使うつもりはない。
「……ふん」
なので……俺はその槍を固まっている二十人の騎士達に向かって、投擲した。
真っ直ぐに神槍は向かっていく。
「「「「「ああああああああ!」」」」」
すると二十人の真ん中に突き刺さり、着弾地点を中心として爆発を起こした。
騎士達が宙に舞い上がり、地面に体を叩きつけて、そのまま目を覚ましてこなかった。
「……まともな武器にはならないが、無駄にいい素材も使っているし、三十の魔法も付与しているからな。こうやって放り投げるだけでも、当たった瞬間に魔法が展開し、相手を殲滅出来る……というわけだ」
近付いて、地面に突き刺さっている槍を抜いてから再度収納魔法でしまった。
とはいっても、まともに結界魔法を展開出来る相手なら、こんなただ適当に放り投げただけでは通用しないだろう。
やはり使い捨ての爆弾……みたいな使い方も実用的ではないか。
「こ、国宝を、そんな適当に放り投げるだと? か、考えられない……!」
五十人の騎士達が地面に倒れ伏せている光景を見て。
少し離れた場所で見ていた騎士団長のアークが、声を震わせていた。
俺はそっちの方を向き直して、こう口を動かした。
「さて……次はお前の番だな」