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6・都会にはかわいい女の子がいるらしい

 ロザンリラ魔法学園は王都にある。

 なので俺は馬車に乗って、入学試験の前日に王都に足を踏み入れた。


「ここが王都か……」


 さすがこの国で一番栄えているといわれる王都。

 俺が生まれ育った村とは大違いだ。


 人が溢れかえっている。

 建物がひしめいている。


 だが、やはり魔導具の類は一切見かけなかった。


「やはり王都でも魔法技術は衰退しているということなのか」


 例えば、前世で魔法革命が起こった後は、ちょっと走るだけでもクイックムーヴを使っていた。

 さらに重い荷物を背負ったり、家を造ったりする職業の人達も、ライズパワーという身体強化の魔法を使っていた。


 それがここでは使っている様子がないのだ。

 どうやら、魔法技術の衰退はあの村の中だけではなかったらしい。


 まあ本とか読んで、それは大体予想付いていたことだ。


 俺が今日泊まる宿屋を探すために、王都内を歩き回っていると、



「や、止めて!」



 と高い女の声が聞こえた。


 どうやら少し行った先の、路地から発せられているらしい。


「なんだ?」


 俺は探知魔法を使って、路地の状況を把握した。


 女が一人……さらに男三人がそれを取り囲んでいる。

 怖がっているのか、女は悲鳴を上げるばかりである。


 女からは魔力を感じられる。

 魔法を使えば、窮地を脱することも出来ると思うんだが……。


 だが、ここでこうしてても仕方がない。

 放っておいてもよかったが、それで後から『女が一人殺されました』という報せが耳に入るのも、気分が悪いしな。



「おい」



 俺は路地に入って、そいつ等に声をかける。


「なんだ? てめえは?」

「オレ達になにかいちゃもん付けようっていうのか?」

「オラ達は泣く子も黙るアラン三人組だぞ!」


 探知魔法で把握した通りだ。

 頭の悪そうな男が、一人の少女を囲んでいる。

 そのアラン三人組だとかいう男は、俺を見るなり鋭い眼光を向けてきた。


「ただのナンパには見えないんだがな。ナンパにしても、強引すぎる。その子、嫌がってるじゃないか」


 そう言いながら、俺はそいつ等を観察した。


 ……あの一番背の高い男。まあまあ鍛えているみたいだ。他のヤツ等と比べて、筋肉の付き方が違う。

 しかしあまりに非効率な鍛え方だ。そんなのじゃ、岩を砕くことも出来やしない。


 一番注意すべきなのはあのちっちゃなヤツだ。

 弱そうだが、小剣を懐に潜ませている。

 まあだから「なんだ?」という話なんだが。


「ふんっ……! こっちの女から喧嘩をふっかけてきたんだ。歩いていたら、肩が当たってよ。謝りもしない」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる男達。


「う、嘘だよ! 普通に歩いていたら、この人達が止めてきて……こんなところに連れ込まれた!」


 女が身を乗り出して、そう訴えかける。


 よく見ると……俺と同じくらいの歳くらいだろうか?

 かわいらしい、栗色の髪をした女の子だ。

 こいつ等がただのナンパだったのか、暴力を働こうとしたのかは分からない。様子を見るからに後者なんだがな。 

 だが、可憐な容姿をした女は明らかに嫌がっていた。


「てめえ……! 変な口利くんじゃねえよ!」


 男の右手が動いた。

 拳が握られている。どうやら女に振り下ろそうとしているらしい。



 ——女を殴るのはいただけないな。



 俺はクイックムーヴの魔法を発動させて、そいつの元へと一瞬で駆けた。


「おい。止めてやれ、って言っただろ」


 そいつの手首を握って、声を出す。


「あれ? お前、いつの間に?」


 どうやら目で追い切れなかったらしい。


「うおっ!」


 俺はそのまま混乱しているそいつの手首を捻り上げて、固い地面に叩きつけてやった。


「てめえ! なにしやがる!」

「アラン三人組に喧嘩を売ろうなんて大した度胸だ!」


 ああ、うるさい。

 耳障りだ。


 そいつ等は一斉にかかってきた。

 男達の動きがひどすぎる。これだったら村にいたシリルの方がよっぽどマシだぞ。


 これは攻撃魔法を使ってやるのも、もったいない。

 動きを速くする魔法、クイックムーヴだけで十分だ。


「うおおおおおお! くらえ! ——うおっ!」


 拳を振り上げてきたそいつの足を払う。

 地面から頭を強く叩きつけた男は、そのまま意識を失ってしまった。


「てめえ! 兄貴の仇いいいいいい!」


 右拳を振り上げて、襲いかかってくる男。

 だが、そいつの狙いは懐に入れた左手にある。

 そこから小剣を取り出して、俺の喉を引き裂こうとしているつもりだ。


「遅いな」


 ぼそっと呟く。


 ヤツが右拳を振り下ろすのに2秒。

 その後、左手で小剣を取り出し、俺の喉に突きつけるまで0・5秒。

 俺はそれまで一回欠伸をしてから、余裕をもってそいつの後ろに回り込んだ。


「もらったあああああ! ……あれ?」

「俺の残像でも見てたのか?」


 ついでにそいつの小剣を取り上げて、刀身を頬にペチペチと叩いてやった。


「あ、ああ……」

「もっと鍛え直すべきだ。良かったら教えてやろうか? 俺の授業料は高いがな」

「て、てめええええ!」


 男が振り返って、俺に体当たりをかまそうとしてきた。

 俺が体の位置を少しだけずらすと、体当たりをしようとした男はそのまま建物の壁に突っ込んでいった。


「もう二度とその女にちょっかいを出すんじゃねえぞ」

「うおっ! な、なんだこりゃ!」


 俺は痛がっているそいつの背後から近付き、エアリアルリムーヴを発動する。

 風の力によって、男の体がふわっと空中に上がっていき、


「ぐはっ!」


 地面へと叩きつけた。

 ろくに受け身も取れなかった男は、そのまま気を失ってしまった。


「王都のレベルもこんなものか」


 パンパンと手を払う。


 まあこいつ等は魔法使いじゃなかったみたいだしな。

 ただのチンピラだ。

 魔法学園に行ったら、もっとレベルの高いものが見られるに違いない。


「あ、あの!」


 顎に手を置き、そんなことを考えている先ほどの女から声をかけられた。


「ありがとう! とってもカッコ良かった!」


 女は近付いてきて、見上げるような視線のまま俺の両手をぎゅっと握った。


 不覚にも思ってしまった。

 かわいい……と。

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