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56・王都の平和を守った

 俺はみんなの方に顔を向けて、



「みんな、落ち着いて聞いてくれ——ダークデーモンの群れが王都に向かってきている」



 と言葉を放った。


 俺がそう言うと、最初は小さなざわめきであったが、それがだんだんと広がっていき、



「ダ、ダークデーモンだってっ?」

「確か本で読んだことあるぞ! 魔族の一種だとか……」

「魔族だと? そんなの……王都が滅びるじゃないか!」



 と校庭はパニック状態になっていた。


 俺はみんなを落ち着けるために、意識して冷静な口調でこう告げる。


「だが、みんな安心してくれ。ダークデーモンは確かに魔族の一種であるが、下位も下位。そんなに大したことがないからな」

「「「そんなわけない!」」」


 声を揃えてみんなに突っ込まれた。

 ……まあ魔法文明が衰退しているこの世界では、下位種であっても『魔族』という言葉で混乱してしまうだろう。


「それでクルト。ダークデーモンの群れ……って言ってたけど、どれくらいくるの?」


 中立都市近くの洞窟で、ダークデーモンに一度遭遇しているララは、みんなに比べて比較的落ち着いている様子だった。


「うーん……正確にはまだ探知出来てないが、おそらく二十体は越えるな」

「に、二十体っ?」

「この調子だったら、十五分後くらいには王都に到着してしまうな」


 王都はこれだけ立派な都市でありながら、ろくに結界を張っていない。

 ダークデーモンとはいえ、これだけの数に襲撃を受ければ、あっという間に壊滅的な被害が出てしまうかもしれなかった。


「クルト! どうしようっ!」

「このままだったら、王都が滅びてしまいます!」


 ララとマリーズが俺に顔をぐいっと近付けてきた。

 ……無論、ダークデーモンの王都への侵入を許してしまうほど、俺は甘くない。


「今からちょっとダークデーモンを殲滅しに行ってくる」

「そ、そんなちょっと買い物に行くみたいに……」

「私も行きますから! クルト一人じゃ行かせられませんから」

「いや……今回は俺一人だ。ちょっと二人じゃまだ荷が重い。それに二人にはまだやってもらおうと思ってる仕事があるからな」


 それにダークデーモンのところまで行くのに、二人も一緒だったら時間もかかってしまうだろう。

 すぐに済むだろうし、俺一人の方が好都合なのだ。


「で、でも……!」

「二人は俺がダークデーモンごときにやられるとでも?」


 俺がそう言うと、二人は口を閉じた。


「分かった……でも絶対生きて帰ってきてね!」

「私を残して死ぬなんて、そんなの許しませんからね!」


 大袈裟だな。

 まあ戦地に赴くのは間違いない。


「あっ……それからシンシア」

「ん?」


 ダークデーモンとはまた別の魔力に気が付いていた俺は、シンシアにとあることを耳打ちをした。


「分かった……クルトを信じる」


 シンシアが胸のところに手を置いて、力強い言葉で返事をしてくれた。

 これで()()()の準備も出来た。


 それから俺はみんなに手を振って、学園から離れた。




 それから魔法で身体からだを強化した。

 王都から出てなにもない平原を突っ切り、ダークデーモンの近くまで到達したのだ。


「まだヤツ等は俺に気付いてないようだな」


 どうやら隠蔽魔法が上手くきいているようだ。


 空を見上げると、ダークデーモンの群れがバッサバッサと翼を動かし、空を飛んでいた。

 数は……二十四体。これくらいだったら一瞬で済みそうだ。


「さて……さっさとやるか」


 俺は手の平を空に掲げ、魔法式を組む。

 そして光属性魔法のサンクチュアリ・ファントムを使用する。


『グボッ! なんだ! なにが起ごっている!』

『分がらん! 突然、光弾が……』

『人間の攻撃か? だが、こんな魔法……人間なんぞに使えるばずが……』


 ダークデーモンが光弾こうだんの襲撃を受けて、見るからに混乱している。

 陣形も崩れている。


 サンクチュアリ・ファントムは、光弾を浴びせる魔法である。

 光弾一つ一つは学生寮を一発で崩壊させるほどの威力を持ち、さらに自動的に追尾機能が付けられている。

 なので空を飛んでいるヤツ等にも、光弾を命中させることが可能なのだ。


 光弾はダークデーモンの体、翼に当たり一体ずつ地面へと墜落してくる。


「よし。トドメを刺させてもらうか」

『な、なんだお前ば!』

「人間だ」


 剣を抜き、地面に落ちてきたダークデーモンを一体ずつ狩っていく。

 ここまできたら、隠蔽魔法を解いても大丈夫だろう。



 そして……五分後には、あれだけいたダークデーモンを一体残らず殲滅したのだった。



「やはり……ダークデーモンごときじゃ、本気を出せないか」


 パンパンと手を払う。

 ダークデーモンを持ち帰って、今後使う武器やアイテムに加工するための素材を得たいところだが……収納魔法に魔力を割くのももったいない。

 それに気になることもあった。


「一旦急いで王都に帰るか」


 俺は再度、身体強化魔法を使い、魔法学園へと駆け足で戻った。



「ダークデーモンは全部倒したから安心してくれ」



 みんなのところへ戻り、安心させるためにそう告げる。

 俺の姿を見るなり、校庭にいる生徒は歓声を上げた。



「またクルトがやっちまったぞ!」

「一体あの光はなんだったんだ? オレ達にはなにが起こったか分からねえ……」

「なんか分からないうちに、王都の平和が守られた!」

「クルトがびゅっと行ったら、びゅっと王都を守ってた!」



 ちょっと王都から離れたところで戦闘していたからな。

 みんなの目から見て、なんだかよく分からないうちに終わっていたように見えるだろう。


 それよりも……。


「ララ、マリーズ。シンシアは知らないか?」


 きょろきょろと周囲を見渡してみても、シンシアの姿が見えない。


「そ、そういえばいない!」

「校舎の方へ戻ったんじゃありませんか? 外にいるよりは安全でしょうし……何人かの生徒も屋内に行きました」


 ララが慌て、マリーズが腕を組んで言った。

 確かにマリーズの言っている通りかもしれない。

 しかしこれは……。


「やはり目くらましか」


 そう。

 ダークデーモンの襲撃は、俺達の目を惹くための囮だったのだ。


「えっ……じゃあシンシアは……」

「ああ、多分誰かにさらわれたな」

「そ、それってヤバいじゃん!」

「まあこのまま放っておいたら、ヤバいな」

「どうしてクルトだけそんなに落ち着いてるの!」

「ん……まあシンシアの魔力を逆探知して、居場所なら分かるからな」


 シンシアには悪かったが、相手の思惑を知りたかった。


「じゃあ……わざと泳がせたと?」

「そういうところだ」


 ダークデーモンのところに向かう前、シンシアには「必ず助け出す」と耳打ちをして、()()()あちらの好きなようにさせてやったのだ。

 それに……俺の予想では、ドサクサに紛れてシンシアをさらった犯人は、大方予測が付いている。

 これだけ人がいて誰も気付かなかった、ということは相手は転移魔法の一つや二つは使えるのかもしれない。


「念のためにシンシアには結界魔法もいくつか付与している。隠蔽もしているので、相手は気付いてないと思うが……」

「でも……クルトが言った通りなら、どうして相手はシンシアをさらったのですか?」


 マリーズが疑問を吐く。


「おそらくシンシアの魔力が目的だろうな」

「シンシアの魔力……?」

「ああ。これ以上の説明はまた後でだ。早くシンシアを救い出さないといけないからな」


 逆探知……うん。どうやらシンシアは校舎の屋上まで連れ去られたらしい。


 俺がそこまで向かおうとすると、ララとマリーズが服の裾をつかんできて、


「ま、待って! 今度こそわたしも行くからね!」

「私もです」

「二人の気持ちは嬉しい。だが……二人にはもっと大切な仕事を任せたいんだ」

「「大切な仕事?」」


 二人が首をかしげる。


「ダークデーモンは倒した。しかしまだ王都に後から魔物の群れが向かってきているみたいなんだ」

「そ、それは本当っ?」

「ああ。なにもしなかったら、三十分後には魔物は王都にぶち当たる。そこに来るまでに、なんとか二人にはその魔物を倒しといて欲しいんだ」


 もちろん、俺の方間に合えば加勢するが、この調子だったら少々時間がかかってしまいそうだった。


 俺がそう告げると、二人は不安そうな顔になって、


「わたし達に出来るかな……」

「大丈夫。俺の見立てでは二人も十分強い。二人を信じてるから、こういうことを任せられるんだ」


 二人の肩に手を置いて励ました。


「う、うん! 頑張るよ!」

「クルトのお墨付きをもらったんですからね。それだけで私、なんでも出来そうです」


 すると二人ともギュッと握り拳を作った。

 うむ。この調子だったら、やはり心配はいらないようだな。


「じゃあ二人とも……任せたぞ」

「クルトもね!」


 まずは俺は俺の仕事をしよう。

 すぐに屋上に向かうか。

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