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53・クラス全員でかかってこい

「ちょ、ちょっと待ってくれ! いくらなんでも僕達二人だけでは不利すぎる!」


 勝負をはじめようとした時。

 またもサイラスはそんな往生際の悪いことを言い出した。


「サイラス……なにを言ってるんだ?」


 既にやる気満々だったダレルは、それを聞いて怪訝そうな顔つきになる。


「よく考えみてみろ。相手は交流戦の代表にも選ばれた男なんだぜ? いくら僕達でも、勝つのはなかなか難しいかもしれん」

「だが……二人で力を合わせれば……」

「君は力の分析も出来ないほど愚かなのか?」

「だ、誰が愚かだとっ?」


 あーあ。

 サイラスとダレルは仲間割れをしている。

 しかし冷静に分析出来ているのはサイラスの方だ。


 サイラス達はしばらく言い合いを続けていたが、


「そこで……だ。ハンデを付けてくれ!」


 とサイラスが提案してきた。

 偉そうに言っておいて、口から出てくる言葉はそれか。


「好きにすればいい」

「その言葉嘘じゃないな?」

「ああ」


 こいつ等くらいなら、()()のハンデなら負ける気はしないしな。

 サイラスは口角をニヤッと釣り上げて、


「よし……! じゃあ僕達は《サード》から十人用意する。君一人と僕達十人で出現させたファイアースピアの合計本数……それで勝負だ!」

「サイラス。それはやりすぎじゃねえのか? そんなのしたら、オレ達の楽勝じゃねえか!」

「ダレル! 君は黙っていてくれ!」


 お前等はなにを言ってるんだ。


「十人……? それはダメだな」

「なにを言ってるんだ! 好きにしろと言ったのは、そっちの方じゃないか。今更……」

「十人じゃ少なすぎる、と言ったんだ」

「はあ……?」


 サイラスが口を半開きにする。


()()()。お前等サード全員と俺一人とでいい」

「なっ……! ぼ、僕達をバカにしすぎだ!」

「それともなにか? 《サード》全員でも、俺一人に勝てないと?」

「……! その言葉、後悔するんだなっ。おいみんな!」


 サイラスが指揮を執る。

《サード》全員でこい……とはいったが、シンシアは参加しないみたいだな。

 サイラスもシンシアを戦力の一人として数えていないんだろう。


「いくぞ、みんな!」

「「「おおおお!」」」


 サイラスの一声で、一斉にみんながファイアースピアの魔法式を組みだした。

 一本ずつ展開を終えたものから、順番に炎の槍が出現していく。


 そして……最終的に出現したファイアースピアの数は75本。

 俺が予想していたよりは、多く出せたようだった。


「はあっ、はあっ……どうだ? いくらなんでも、君一人でこの数を超えるのは不可能だろう。言っておくが、同時展開だからな? 時間をかけて順番に……ってのはダメだからな」

「ククク。同時展開ってのは、それだけで頭の中で脳を二つにするような所業だ。そんな簡単に出来るもんじゃねえ!」


 やれやれ。

 さっさと終わらせよう。


「よっと」


 手を掲げる。

 ファイアースピアを発動。


「「なっ……!」」


 ()()を見て、まずサイラスとダレルから声が漏れた。



 何故なら……俺が動じ展開した1000本のファイアースピアが、空を覆い隠さんばかりに出現したからだ。



「一目見ただけで、どっちが勝ったか分かるよなな」


 1000本のファイアースピアを見て、二人は驚きのためか口を開けない。ようだった。


「おっと」


 1000本のうちの一本の槍が、二人の足下に着弾した。


「うわあああああ!」


 二人は高く舞い上がり、屋上の床に体を強くぶつける。


「すまんすまん。どうやら手が滑っちまったみたいだ」


 もちろん、ただの意趣返しみたいなものだ。

 俺が魔法を暴発させるわけないだろう?


「これでもういいよな? 今回は俺の勝ち……ということで」

「ちょ、ちょっと待った! こんな勝負無効だ!」


 膝を押さえながら、ゆっくりと立ち上がるサイラス。

 この期におよんで、まだそんなことを言うか。

 最後まで諦めない姿勢……には少し感心を覚えるが、ここまでくるとただの無謀だ。


「だったらどうすればいい?」

「そ、そもそも! 魔法の同時展開は苦手だったんだ! 次は僕の得意分野で勝負してもらう」

「それでダメだったら、お前は負けを認めるのか?」

「ああ! 謝罪でもなんでもしてやる!」


 サイラスが唾を飛ばす。

 そうは言うものの、サイラスには魔力がほとんど残っていないようにしか思える。

 この状況でなにをするつもりなのか。


「あの小石をよく見てやがれ!」


 サイラスが指をさす。

 言われた通りに視線を動かすと、校庭の地面にちっちゃい石が転がっていた。


 サイラスはそこに手を掲げ、


「万物の理よ。法則をねじ曲げ、今こそ我が手に収まるがいい」


 と意味の分からないことをぶつぶつ呟いた。


 おいおい、なんだそりゃ。

 もしかして……詠唱なのか?

 最近ではほとんど見ることがなかったので、驚いてしまったぞ。


 だが、なかなか大袈裟な詠唱文律えいしょうぶんりつとやらだ。

 そこからどんな魔法が放たれるというのだろうか。


「はあっ!」


 サイラスは体に残っている魔力を掻き集め、絞り出すようにして声を出した。

 すると。


「ははは! どうだ、成功だ!」


 小石が一人でに動きだし、宙に浮いたのであった。


「どうだ? これが遠隔操作の魔法というヤツだ。僕はこんなことも出来るんだ! 欠陥魔力じゃこんなこと……出来ないだろう?」


 サイラスは早口で捲し立て、魔法を解除した。


「…………」

「ククク。どうだ? 絶望しているのか? こいつには勝てない、って」


 呆れてものが言えないだけだ。


「……とにかく。同じように遠隔操作の魔法を使えばいいんだな?」


 サイラスはたった一個の小石を動かして、悦に入っていた。

 対して俺はヤツに実力の差を思い知らせてやるには、なにを動かせばいいか……?


 俺はキョロキョロと辺りを見渡す。

 おっ、あれなんか丁度よさそうだ。


「いいだろう。この学園の中にあって、一番大きいものを今から動かしてやる」


 俺は()()に向かって手を掲げる。


 ……分析完了。

 まずは土台と基礎を離して……。


「き、君はなにをする——!」


 サイラスの言葉が途中で止まる。


 みしっ。

 地面が軽く震えた。

 すると……。



「こ、校舎が……持ち上がっていくだとっ?」



 校庭にいるみんなが悲鳴を上げる。


 そうなのだ。

 ロザンリラ魔法学園の学舎……それがゆっくりと宙に浮き上がっていったのだ。


「まあこんなもんか」


 ゆっくりと校舎を元に戻した。

 無論、取り外した建物の基礎と土台も全て元通り修復する。

 丁寧にやったので、校舎の中にいる生徒には気付かれていないだろう……たぶん。


「バ、バカな……。これほどまでに、こいつが出鱈目でたらめだなんて聞いたことがないぞ」


 サイラスは腰が抜けたのか、へなへなと地面に座り込んでしまった。


「さて……謝ってもらえるか?」

「す、すまない。僕では君には勝てない……」

「俺にじゃない。シンシアにだ」

「落印魔力に……?」


 サイラスの顔がゆっくりとシンシアの方を向いた。


「そうだ。今回のことで、お前等自分が大したことないって分かっただろう?」

「…………」

「もしもう一回シンシアに嫌がらせなんかしてみろ。俺が魔法で校舎を持ち上げられることが分かったな? その魔力をお前等に向けたら……どうなるか分かるな?」

「ひ、ひいいいいいい! ご、ごめんなさい! ほらダレルも早く!」

「ごめんなさいいいいいい!」


 サイラスとダレルが地面に額をつけ、涙を流しながら謝った。

 無論、ただ言葉だけの謝罪じゃ、ほとぼりが冷めた頃にまた元に戻る可能性もある。

 そのあたりは……。


「エリカ先生。すいませんが」

「うむ。後は私に任せろ。ティム先生。あなたにも後でお話がありますからね?」


 エリカ先生が力強く頷き、ティムの方を見た。

 ティムはそれを見て、戦々恐々(せんせんきょうきょう)としていた。


 この後はエリカ先生、さらにデズモンド……校長にも頼んで、二人を説教してもらうことになっている。

 ヤツ等がシンシアに嫌がらせをしている証拠なんて、こちらで山程抱えているからな。

 プライドもへし折られ、学園の名だたる教師陣から叱責しっせきを受ける。

 戻ってきた時……ヤツ等がどんな人間になっているか、今から想像出来そうだ。


「シンシア。少々大袈裟になってしまったが、これで二人がお前等を悪くすることはないと思う」

「あ……」

「ん?」

「あ、ありがとう……」


 ぽっとシンシアは頬を紅潮させ、俺を見て一言ぼそっとお礼を口にした。


 ふう。とにかく一件落着といったところか。

 とにかく、今日の放課後にでももう一度シンシアにフォシンド家の話を聞いて……。


「んんんんん!」


 そんなことを考えていると。

 突然、シンシアは頭を抱えて、地面に座り込んでしまった。


「シンシア? どうしたんだ?」

「ん、あ……!」


 シンシアの肩を持って、尋ねる。

 なにか苦痛に耐えているようだ。


 それよりも気になるのは……。


「魔力が……暴走している……?」


 シンシアの体が緑色の発光し、膨大な魔力が一挙に漏れ出しはじめたのだ。

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