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51・シンシアの謎

「……って! あなたはなにをしているんですか!」


 突如、後ろから頭を叩かれた。

 振り向くと、マリーズが怒ったような顔をして腕を組んでいた。


「なにって……シンシアと話をしよう、と思っただけだが?」

「強引すぎます!」


 とマリーズは語気を強くした。


 俺がシンシアに声をかけようとしてから、マリーズが角に隠れてずっと見てたのは分かっていたが……。

 追いかけてきて、頭を叩かれるとは思ってなかった。


「強引すぎる? 逃げたのはシンシアの方じゃないか」

「それはそうですよ! 男性がいきなり話しかけたら、誰でもビックリするに決まっています」

「別に俺は戦おうとしたわけじゃないぞ?」

「いきなり戦おうとするバカが、どこにいますか!」


 なにを言う。

 前世では「話し合いの前に、取りあえず戦え」という言葉があったほどだ。


 魔法を交えることによって、相手のことがよく分かる。

 だが……この平和になった世の中で、それをするのもいかがなものかと思い、平和的な対話を求めただけだ。


「あ……あ……」


 何故か俺がマリーズに叱責されていると、シンシアが戸惑ったような表情を見せていた。


「ごめんなさい。私はマリーズ。あなたがシンシアですね?」


 一転。

 マリーズはニコリと微笑みかけて、シンシアに手を差し伸べた。


 しかしシンシアはその手を取らなかった。


「…………」

「クルトはやり方を間違っていましたけど、あなたに話を聞かせていただきたいだけなのです」

「おい。俺のどこが間違っていたんだ?」

「ちょっとお時間、いただけませんか?」


 俺の言葉を無視して、丁寧にマリーズがシンシアに尋ねた。


「話……?」


 それに対して、シンシアは首をひねる。


「ええ」

「シンシアと話をすることなんてある? シンシア、なにも面白いことないよ?」

「あなた……というよりもフォシンド家のことです」

「……!」


『フォシンド家』という単語が飛び出した瞬間、シンシアはさらに暗い顔をして俯いた。


「…………」

「すいません。ですが、クルトはフォシンド家に興味があるようなのです。よかったらお話、聞かせていただけませんか?」

「…………」


 マリーズの問いかけに、シンシアは口を開こうとしなかった。

 ……戦闘なら、こういう時どうすればいいか分かるんだがな。

 いまいち、コミュニケーションのことになったら、次の一手をどうすればいいか分からない。コミュ障つらい。


 ……いや、時間の無駄だしここは直線的に聞くか。


「フォシンド家というのは、帝国で有名な貴族なんだろ? それなのに、どうしてディスアリア魔法学園に通おうとしない?」

「ちょ、ちょっとクルト!」

「なんだ」

「いきなりすぎですよ! それに……シンシアの気持ちも考えてみてください!」


 マリーズがずんと顔を近付け、怒ってきた。

 うむ。

 なんで彼女が怒っているのか分からん。


「……シンシアは」


 しかし一方でシンシアは重い口を開き、


「シンシアは落印らくいん魔力だから……」


 落印魔力?

 ああ、そういやこの世界では緑色魔力のことを落印魔力……って呼ぶと、文献で読んだことがあったな。


 それを聞くと、マリーズが「あ……」と口を開いていた。


「どうして緑色……じゃなくて、落印魔力だったら王都の魔法学園に通うことになる? 話が見えてこないんだが……」

「クルト。落印魔力は序列でいうと下から二番目。一般的にあまり良くはありません」

「そうなのか」


 この世界では落印魔力の扱いが、やけに適当……というか酷いことは分かっていた。


 だが、下から二番目というのは初耳だぞ。

 なんだその間違った常識は。今更だが。


「というと欠陥魔力が一番下、っていう扱いなのか?」


 俺の問いかけに、マリーズは黙って頷いた。


「もっとも……クルトを見ていたら、欠陥だとか落印だとか劣勢だとか……どうでもいいことのように思えてきましたけどね」


 魔力色はそれによって、明確な序列が定められるものではない。

 例えば俺にとって超当たり魔力である黄金色であっても、魔法をそんなに極めたくない者にとっては、使い勝手が悪いだけだろう。

 魔力色だけで、他者を上や下に見ることは愚かなことであった。

 しかし。


「なるほどな。つまり落印魔力で期待されてないから、帝国の魔法学園に通わせてもらえなかった、ということか」


 俺の問いに、シンシアから答えは返ってこなかった。

 というかどう喋っていいか分からないようにも見えるな。


「シ、シンシアはフォシンドの≪失敗品(エラー)≫…そう言われてた。だから、家から追い出されて……ここに来た」


 たどたどしい言葉で、シンシアは続けた。


「マリーズ。フォシンドってのは、魔法を重視しているのか?」

「資産家でもありながら、何人もの有名な魔法使いを輩出している一族ですね。今ある魔導具のほとんども、元はフォシンド家が開発したものらしいですよ?」


 マリーズが補足する。


 ふむふむ……話が見えてきた。

 フォシンド家で落印魔力の女の子が生まれた。

 彼等にとっては、落印魔力なんて失敗品。《失敗品エラー》なんて大層な名前も付けて、忌み嫌った。

 家族内では厄介払いもかねて、帝国内ではないこんな遠い地まで送還したんだろう。


 だが、ここで疑問が一つ生まれる。


「どうして帝国で落印魔力が下に見られていたんだ?」

「クルト? どういうことですか?」


 俺のふとした呟きに、マリーズが疑問で返した。


 そう。

 帝国というのは、1000年前の正しい魔法……つまり《魔王魔法》を復元させ、俺の作った魔法理論についても取り入れていた。

 代表的なのは《四大賢者》も、あの暗殺者ですらも無詠唱魔法を使っていたことだな。


 それなのに……どうして落印魔力が下に見られている?


 まだ俺の言っていることが浸透していない王都ならともかく、としてだ。

 さらにフォシンドは魔法の真理に精通している者だ、とブライズは言っていた。

 ならば落印だとか欠陥だとかいう、魔力色の本来の意味くらい分かっていてもおかしくない。

 それなのに……どうしてシンシアを追い出す必要があったんだ?


「シンシア。家族からはなんて言われていたのか、もっと聞かせてもらってもいい?」

「…………」


 シンシアは辛そうな顔をしながらも、


「シンシアは……危険って言われてた」

「危険?」

「あ……うん。シンシアにも分からない。だけど落印魔力だから……魔法を暴発させちゃったりする、と思ってた。小さい頃、読んだ本にそう書かれていたから」


 ……なんか裏があるように思えるな。


 それにさっきから、シンシアの魔力が気になる。

 まだ一度しか見てないのではっきりしないが、なにか抜け落ちているように思えるのだ。

 本来ある魔力のピースが、半分しかはまっていないような。

 その辺りにシンシアが家を追い出された本当の理由、というのが隠されているかもしれない。

 ……まあバカなヤツ等のことだから、魔力色の真理について気付いてない可能性もあるが。


 とにかくシンシアからもっと話を……と思った時であった。


「……ふんっ」


 シンシアに目掛けて、小石が飛んできた。

 俺はすぐさま結界魔法を展開して、小石を防ぐ。


「誰だ? こんなことをするのは」


 俺は小石が飛んできた方向を見やった。

 すると男子生徒が二人ほどいて、



「どっか行け! この落印魔力が!」

「あんまり喋らなくて気持ち悪いんだよ! 僕達エリートの《サード》クラスには不必要だ!」



 なんてことを言いながら、どこかに走り去ってしまったのだ。


「やれやれ。どうやらバカなヤツがいるもんだな」

「…………」

「シンシア。こんなことをされのは、今日だけなのか?」


 シンシアは唇をぎゅっと噛んで、答えは返ってこなかった。

 この様子を見るに、常時やられているようだな。


 ああいう輩は嫌いだ。

 自分達は大したことがないのに、安全圏から相手を攻撃する。

 色々話を聞かせてもらったお礼だ。


「ちょっとヤツ等にお灸を据えようか」

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