49・帝国のこれからとフォシンド家
「平和的な話し合いだったな」
「どこがですか」
王都へ戻る馬車の中、マリーズが呆れたような顔で言った。
あれから、当然のことではあるが、最初に予定されていた帝国との話し合いはなくなった。
あのデイブとかいう校長がベラベラ喋ってくれたからな。
もちろんロザンリラ魔法学園の主張が、全面的に認められることとなった。
というわけで大人達が少々事務手続きをしてから、俺達は中立都市を出発した。
エリカ先生と校長は王都に戻ってからも、色々やることがあるらしいが……。
そのあたりは大人に任せておこう。
行きとは違い、帰りは広い馬車にみんなが乗って、俺達はのんびりと王都を目指していた。
「エリちゃん、エリちゃーん」
膝を曲げて座っているララが、エリカ先生に質問する。
「ディスアリア魔法学園の校長は、これからどうなるんですか?」
「ふむ……」
エリカ先生はかけていたメガネを、人差し指で上げてから、
「まず死罪は免れないな。これ程のことをやったのだ。ただそれだけじゃない。関わっていた教師も死罪……最低でも牢の中に入れられ、二度と魔法学園に戻ってこれないだろうな」
「じゃあ……ディスアリア魔法学園って、これから大変なことになるんじゃ?」
「校長も死罪で、大半の教師陣も少なくても退職。もしかしたら魔法学園自体がなくなってしまうかもしれない」
うむ。冷静な分析だな。
校長もいなくなり、教師陣のほとんどもいなくなったディスアリア魔法学園がどうなるのか。
目に浮かぶようであった。
「だが……ディスアリアの責任は追及出来ると思うが、それが国の問題にまで及ぶか……となると疑問だ」
「どうしてですか? クルトの話を聞くに《四大賢者》も出てきたんですよね? 最早学園だけの問題じゃないような気がしますが……」
今度はマリーズが非難するような口調で言った。
「私だって歯がゆいのだ。しかし」
「今、王国としても帝国と戦争をしたくない……といったところだ。帝国もそう思ったのか、魔法学園に全ての責任を押しつけた。《四大賢者》も勝手に暴走した、という形を取ってな」
エリカ先生の代わりに、校長がそう説明した。
しかしマリーズの怒りは収まっている様子がなかった。
「なんですかそれっ? クルトがこんな酷い目にあったのに……政治的な理由で」
「マリーズ。俺はそんなに気にしてないぞ」
「え?」
マリーズが目を丸くする。
「《四大賢者》なんてものが出てきて、ちょっとは暇を潰せる戦いが出来て感謝してる程だ。マリーズが言うような酷い目になんて……俺はあっているつもりもない」
「でも……」
「それに今戦争するのは俺も反対だ。もう少し力をつけてから、帝国とは全面的にぶつかりたい」
「今以上に強くなるつもりですか!?」
なにを言う。
これでも、前世の力を完全に取り戻したわけではないのだ。
しかしこの体も大分馴染んできた。
六割方は魔力の方も、前世に追いついてきただろう。
今のままでも十分に帝国には勝てると思うが……どうせなら、百%の力で暴れ回りたい。
「さて……これからどうするだな」
一人呟く。
とにかく、フォシンド家ってのがこの世界の衰退の鍵を握っていることは分かった。
俺は学園生活を楽しみながら、この世界の真理について探りたいと考えている。
ならば手がかりでもあるフォシンド家、ってのを追ってみようか。
「エリカ先生」
「なんだ?」
「フォシンド家ってのを知っていますか?」
フォシンド家ってのが、どれだけ有名なのか探るために、まずはエリカ先生に質問してみる。
「うむ。もちろんだ」
エリカ先生が即答する。
「どういう人達なんですか?」
「帝国の貴族だ。確か爵位は公爵。政治、商業……そして冒険者の中にもフォシンド家は潜んでいて、帝国を裏から牛耳っていると聞くな」
これは《四大賢者》ブライズの言った通りだ。
一貴族にしては、なかなか力を持っているらしいな。
「メイナード・フォシンドって名前は?」
「メイナード……ああ、確か帝国の《四大賢者》の一人にそういうのがいたと思う。しかしなかなか表舞台に出てこなくて、謎に包まれてるだとか聞いたこともあるな」
メイナードはフォシンド家でありながら《四大賢者》として力を持っている。
アルノルトやブライズを見る限り、《四大賢者》ってのもあまり期待出来そうにないが……。
いつか対峙する機会が出てくるだろう。
「クルト。その人に興味があるの?」
ララが俺の顔を覗き込んでくる。
「ああ」
「うーん、わたしの勘なんだけど、近いうちにクルトとその人会いそうな気がするなー。あっ、変なこと言っちゃってごめんねっ!」
ララが小さく舌を出す。
ララの勘は侮れない。
ならば俺もメイナードを歓迎する準備でもしておこうか。
「フォシンド家について、他に知っていることはありますか?」
「うーん、後は細かいことになるな。興味があるなら、魔法学園に戻ってから図書館に行ってみるといい。フォシンド家について書かれた本もたくさんあるから」
なるほど。
それを読んでも、あまり有意義な情報は得られそうにないがな。
取りあえずフォシンド家について考えるのは、一旦これくらいにして——。
「ああ、そうそう」
最後に。
エリカ先生はこう言った。
「うちの生徒にも、フォシンド家の人間が一人いるぞ?」