45・愚かな暗殺者
前回のあらすじ・闇討ちされた。
(ボニートがやられただとっ?)
クルト達が止まっている宿屋の向かい側。
屋根の上で、一部始終を見ていた男……カミロは驚きを隠せなかった。
(まさか……《四大賢者》のアルノルト様を倒した、という話は本当だったのかっ?)
カミロはその話を聞いた時も、半信半疑であった。
しかも相手は子どもだ。
アルノルトは《四大賢者》の中で劣等とは呼ばれているが、カミロが何人束になっても勝てやしないだろう。
それなのに、あのアルノルトを倒すなんて……無理な作り話だと思っていた。
しかし今の光景を見て、それもあながち嘘じゃないと思いはじめている。
(ククク……面白い。しかし相手は暗殺者が一人だけだと思って油断しているはずだ。他には悪いが、手柄は独り占めさせてもらうぜ)
カミロが体勢を起こし、クルトに遠距離魔法を飛ばそうとすると、
「おいおい。そこでなにやってんだ」
不意に後ろから声。
急いで振り返るカミロ。
するとそこには先ほどまで部屋にいたはずのクルトが、腰に手を当て立っていたのだ。
◆ ◆
「おいおい。そこでなにやってんだ」
間抜けにも、俺がさっきまでいた部屋をじーっと眺めているその男に近寄って。
俺は挨拶がてらに声をかけた。
「……!」
男はすぐに立ち上がり、戦闘態勢を取る。
ほう……。
ヤツ等にとっては不測の事態でありながらも、しっかりと魔法式を展開している。
詠唱に頼らず、こういった対処が出来るのはこの世界ではなかなかいないだろう。
やはりこいつ等は……。
「帝国だな?」
と俺は問いかけた。
男はそれに答えず、顔を歪ませながら、
「ど、どうしてお前がそこにいる! さっきまであの部屋にいたじゃないか!」
俺と校長が寝ていた部屋の方を指差す。
「ここに俺がいるということは、移動してきただけのことだが?」
「有り得ない! この距離を一瞬で移動する術など……」
「はあ……偉そうにしておきながら、転移魔法も知らないか」
溜息を吐く。
アルノルトの言ってることを信じるなら、帝国は1000年前に俺が作った魔法を復元させた、ということであった。
ならば転移魔法についても知ってると思ったが……こいつは下っ端だからそこまで知らされてない、ということだろうか?
俺は宿屋の部屋に帰ってきた時から、周囲に六人の反応があることを探知していた。
しかもどいつもこいつも殺気を向けてやがる。
その時から俺はこいつ等が襲撃を仕掛けに来ることを、予想していたのだ。
結果、まずは俺の寝込みを襲ったヤツが一人。
そして向かい側の建物の屋根に、一人潜んでいることも分かっていたので、転移魔法でここまで飛んだだけのことだ。
転移魔法は一度行ったところ……自分の視界に入ったところまでが範囲となる。
魔力を持っていかれるのであまり使いたくなかったが、これだけの近距離だ。魔力の消費も最小限に抑えられる。
相手に逃走の可能性もあったので、やむを得ず使ったわけだ。
「クッ……訳の分からないことを言ってやがる。やはり《四大賢者》を倒したという話は本当……!」
「アルノルトってヤツだったか? ヤツは少々歯ごたえがあったな」
もっとも俺が本気を出すためには、まだまだではあったが。
アルノルトが後200年くらい修行すれば、ちょっとは楽しめる相手になってたかもしれない。
「それで俺の質問に答えろよ。お前等は帝国の人間か?」
「言うわけないだろうが!」
予想していた答えではあったが、改めて陳腐な台詞を口にされると、頭痛がしてくる。
よかろう。
少しは運動させてもらおうか。
「い、今更命乞いしても遅いからな!」
「ほう。無詠唱魔法は使えるか」
こいつは今、ライトニングアローの魔法式を組んでいる。
俺に差し向けてきた暗殺者達なのだ。
今まで話してた間に、無詠唱くらいはやってのけるか。
だが……あまりに遅すぎる。
「くらえ! ライトニングアロー……って、ん?」
男は手の平を俺に向けるが、魔法が発動する気配が全くない。
「どうした? 不発か?」
挑発するような口調で、男に声を投げかける。
背反魔法で相手の魔法を発動前に消したのだ。
「無詠唱魔法が使えるのは褒めてやってもいい。だが、どうして魔法の名前を言いながら発動する必要がある? もしかしてこれは演劇かなにかだと思っていて、自分に酔っているのか?」
「な、舐めるなあああああ!」
「……ふん」
相手は立て続けにライトニングアローを放とうとした。
しかしこいつが一発放っている間に、俺は百発は発動出来るだろう。
男よりも早くライトニングアローの魔法式を完成させ、真っ直ぐと放った。
「ぐはっ!」
ライトニングアローが命中し、その衝撃で後方に吹っ飛ばされる男。
そのまま屋根の上から滑り落ちてしまい、地面へと落下していった。
「おいおい、もうこれで終わりか。身体強化魔法を使いながら、受け身を取っている……ってわけでもなさそうだな」
屋根の上から、地面に倒れている男を眺める。
動きそうにない。
どうやら一発も魔法を使わせないまま、こいつに関しては片付いたみたいだな。
「ヤツは最後までなにも言わなかったが……《四大賢者》が俺に倒されたことも知ってたみたいだしな。十中八九帝国の仕業だろう」
呟く。
俺が《四大賢者》のアルノルトを倒したことは、もちろん帝国の耳にも入っているだろう。
ならば俺がこの世界のレベルから逸脱している魔法を、使うことが分かっているはずだ。
しかも俺は当事者の一人だ。
俺がいたら話し合いが不利になると考え、話し合いの前に暗殺しにきた……といったところだろう。
「……さて」
ゆっくりと振り返る。
すると俺に近付いてくる三人の影。
「残りは四人か。さっさとこいつ等を片付けて、残り一人の真打ちを引っ張り出すとするか」
口元に手を当てると、無意識に口角が上がっていた。
俺の戦闘好きもなかなかのものらしい。
俺が動こうとすると、三人の暗殺者達が一斉に襲いかかってきた。