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43・魔族の下位種がいた

 それは小部屋に入った瞬間であった。


『ドウシテ人間がここにイル?』


 精神に直接語りかけてくるような声。


「やっとお出ましか」


 声が聞こえたかと思えば、()()()は片手に槍を携え、天井から降下してきた。


 ララとマリーズは反応しきれていない。

 そいつの槍がララに突き刺さろうとした時。


『むっ』


 不可視の壁に槍が弾かれ、そいつがもう一度浮上していった。


「えっ? 一体なになに?」

「今……なにかがララを通過したような……」

「二人とも、魔物だ。結界魔法で一撃目は防いだが……戦闘態勢に入れ」


 俺のその言葉と同時に、二人は魔法式を展開させていった。


「で、でもどこにいるの……?」

「ララ! 上です!」


 マリーズが洞窟の天井を見上げ、そう叫んだ。


『ククク……ニンゲン、久方ぶりだな。せっかくのキカイだ。喰わせてモラウゾ』


 その姿は異形のものであった。

 人間のような体の造りをしているが、顔は牛のようである。

 そして背中から翼を生やし、天井付近でバッサバッサと飛んでいた。


「クルト。あれは……?」

「ダークデーモンという魔物だな」


 これが俺の探知していた「強い魔物」というものだったらしい。


 ダークデーモンは魔族の下位種だ。

 その時点で少し残念には思ったものの……今まで遭遇してきた魔物に比べれば、大分強いことは変わりない。


眷属けんぞくよ。パーティーのハジマリだ。人の血を喰らワセテヤル』


 本来魔族は完全に人語を操り、中には人間社会に溶け込んでいる個体もいるほどだ。

 それに比べ、下位種のダークデーモンは所々発音がおかしい。

 さらに独特の声をしている。いや……これは声というより、音波に近いんだろう。


 ダークデーモンが「パーティーのはじまり」とやらを告げると、どこからともなく大量のバットが俺達を取り囲んだ。


「二人とも! 怖がっている暇はないぞ。ダークデーモンは俺が相手をする。二人は雑魚バットを頼んだぞ」

「わ、分かった!」

「これくらい出来なければ、学園を首席で卒業なんて無理ですよね!」


 二人は少し震えながらも、比較的冷静に魔法式を組んでいった。

 一応なにかあったらいけないので、二人の体の周囲に結界を施しておこう。


 うむ。

 これで心配ない。


「おい、ダークデーモン」

『ナンダ?』

「お前はどれくらいの時を生きている?」

『命乞いをするかと思えば、ナニを言ってるノダ。我は300年の時を過ごし者。貴様等、短命のニンゲンごときでは、我にカテルわけもない』

「300年か……」

『ん? どうした、その顔ハ? ビビっているのか? 弱きニンゲンよ。ガハハ!』


 ダークデーモンが高笑いをする。


 ビビっているわけではない。

 ガッカリしているのだ。


 魔族というのはかなり長命な種もいる。

 中には1万年以上生きているものもいるほどだ。

 だから……例えば1000年以上生きてるとしたら、この世界の衰退についてなにか知ってるかと思ったんだが……。

 とんだ期待外れだ。


「……お前、この世界の衰退についてなにか知ってるか?」

「衰退……? 貴様はなにを言っているのだ?」


 それでも一応聞いてみたが、やはり知らないらしい。

 俺がガッカリしていることもつゆ知らず、ダークデーモンは気持ちよさそうに話し続けた。


『貴様は我ニ、触れすらもデキナイ』

「奇遇だな。俺も汚いデーモンなんかに触れたくねえよ」


 そう言って、俺は鞘から剣を抜く。


『死ネ!』


 ダークデーモンの手からファイアースピアが放たれる。

 全部で俺に向かってくる二十本の炎の槍。

 魔族の中には、魔法を操る種も多くいる。

 こいつもその中の一体だったんだろう。


 しかし……。


「どうした? お前、もしかしたら魔族の下位種の中でもさらに下位……かなり弱いんじゃないのか?」


 同じく、ファイアースピアを放って()()()同威力で相殺する。


『わ、我のマホウを防ぐダト?』

「それが本気か?」


 やれやれ。

 こんなんだったら、またも本気を出せそうになかった。


 こいつが()()()300年しか生きていないし、かなり弱いことも分かった。

 さっさとケリを付けよう。


 俺はライズパワーで身体を強化し、そのまま地面に思い切り蹴って飛び上がる。


『ムッ』


 ダークデーモンと同じ目線の位置。

 俺はそのまま剣を振り上げ、ダークデーモンを一閃した。

 だが……間一髪のところで後退され、()()()の攻撃は避けられてしまう。


『ふう。そのようなマホウを使うニンゲンなど、はじめて見たものだからオドロイタが……やはりニンゲンは弱い。我に触れることもデキナイみたいだ』

「だから言っただろ。お前なんかに触れたくないって」

『な、ナニヲ言って……——!』


 ダークデーモンの目が開かれる。

 俺の攻撃はまだ終わっていない。


 一閃した剣に魔力を込めていたのだ。

 これはそのまま剣の勢いや風圧で魔力を飛ばし、相手に攻撃する魔法技術である。

 1000年前に俺が作った技術テクニックだ。

 慣れによっては魔力の消費量も抑えられ、戦闘ではかなり重宝する。

 これを1000年前の俺は『魔撃』と名付けた。


「つまらんな」


 その後、怯んだダークデーモンに追撃の魔撃を浴びせまくっていく

 ダークデーモンの姿がボロボロになっていき、ご自慢の羽もゴミみたいになってしまった。

 その猛攻にダークデーモンはなすすべがない。


『我がニンゲンゴトキニィィィィィィ!』


 そのまま断末魔の叫びを上げながら、ダークデーモンは地面に落下していく。


 不甲斐ないヤツだ。

 俺も地面に着地し、ダークデーモンが絶命していることを確認してから、ララとマリーズに加勢しようとした。


「……と。その必要はなさそうだな」


 この短時間で二人はほとんど、バットを倒してしまっていた。

 教えた通り、ララは至近距離から。マリーズは少し離れたところから魔法を放っている。


 これだったら、二人に任せておいたらいいだろう。

 いい経験値稼ぎにもなるしな。


 俺は近くの岩に腰掛けて、二人の戦闘を見ていることにした。

 そして……五分くらいしてからだろうか。


「ふう! やっと倒せたよ!」

「やりました! わたし達だけで、これだけのバットをやっつけました!」


 ララとマリーズが手を握って、小さくジャンプしながら喜んでいた。


「二人とも、すごいよ。教えたことが十分出来ているみたいだな」

「クルトの方は……って! さっきの強そうな魔物が死んでる!」

「本当です……戦いに気を取られていて、気が付きませんでしたが」

「まだ説明してなかったな。ダークデーモンと言って、魔族の下位種だ」

「「ま、魔族っ?」」


 ん?

 二人が前のめりになって、あんぐりと口をあけた。


「魔族って! 一体でも現れたら、街が滅びるくらいの危険性があるんじゃ……?」

「上位種だったら、それくらい出来るかもしれないが、下位種にそんなこと出来る力はないぞ。街にある結界で……ってそんなもん、ろくに張ってるところないか」


 頭をかく。

 そう考えたら、二人の言うことも一理あるかもしれんな。


 ならばどうしてダークデーモンはこの洞窟から出てこなかった?

 ……なにかきな臭い予感がするな。


「よし。ダークデーモンを収納魔法で収めて……と。ギルドに持っていこう。報酬がもらえるかもしれないぞ」

「なんかとんでもないことになる気がするんだけど……」


 ◆ ◆


 ララの言った通りになった。


「おい! また受付嬢ちゃんが立ったまま気絶してるぞ!」


 ダークデーモンを受付に出したら、ヒュドラを持ってきたよりも騒然としてしまった。


「こ、こんなとんでもないヤツ……どこにいたんだ?」

「パヤゴの洞窟の奥ですね」

「奥? もしかして……下層に行ったんじゃ?」

「行きました」

「なんてことを! あそこは別名帰らずの洞窟と言われていて、下層に行った冒険者で帰ってきた者はいないんだ! それなのに……ってあんたに言うのもおかしな話か」

「後これ、道中で()()()に倒したスケルトンキング……いや、不死なる王です。六体分あります」

「もう訳が分からない!」


 その後、ギルド職員はダークデーモンの処理にバタバタと追われていた。

 だが、そこらへんはギルドの方で好きにしてくれればいい。


「あのー……もう帰っていいですか?」

「ま、待ってくれ! 報酬の話がまだだろう! ……だが、すまない。これに相当するような報酬をギルドではすぐに用意出来ないのだ。少し待ってもらえるかな? 一週間もあったら用意出来ると思うから……」


 一週間後にはこの街を出てるじゃないか。


 なのでダークデーモンを倒した報酬とやらは、王都のギルドを通じて渡してもらうことになった。

 帰ってからのお楽しみ、ということで置いておこう。


「それから……この中立都市の市長にも連絡するから! ってどこに行くっ?」


 なんかこれ以上話がややこしくなって、長引くのも面倒臭い。

 報酬は有り難く貰おうと思うが、今回の件は人に感謝されたくてやったわけじゃないのだ。


「ごめん。ララ、マリーズ。そろそろ宿屋に戻ろうか」

「そ、そうだね……わたし達、もしかしてとんでもないことやっちゃったのかな?」

「もしかして……じゃなくて、十分とんでもないことだと思いますよ」


 さて。

 暇潰しも終わったし、次は帝国の番だ。

六体のスケルトンキング戦はカットです。

不死なる王とはなんだったのか…。

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