42・トラップを見つけた
「なんだかここにいると……頭がふらふらする……」
下層へ着くなり、ララがそう声を上げた。
少し顔色が悪そうに見える。
「ん、そうか? もしかしたら上層より魔素が濃くなってるから、そう感じるかもしれん」
「クルトはなにも感じないの?」
「魔素の濃さは分かるが、気持ち悪くなったりはしないな」
だが……《宝物迷宮》においても、三階層までしか進んだことがない二人にとって、ここの魔素はなかなかきついかもしれない。
しかし俺の場合、1000年前において、なんら結界も施していない人間が吸うと、意識を失ってしまうほどの魔素も経験した。
それに比べれば、大したことのないように思えてしまうのだ。
「やはりな……このパヤゴの洞窟。なかなか質のいいダンジョンのようだ」
だんだんと探知魔法で感知したデーモン系の魔物に近付いていっている。
どうやら、この層はあまり人が踏み入れたことがなさそう……と感じた。
いいアイテムも残っているかもしれない。
もっとも、探知魔法で探ってみた結果、あまり期待は出来そうにないのは残念だ。
俺達は魔物を倒しながら、先に進んでいくと……。
「あっ、ララ。ちょっと立ち止まってくれ」
「えっ?」
ララの肩を持って制止させる。
「《宝物迷宮》三階層までだったら、こういうのはなかったから仕方ないんだけどな」
「クルト。いきなりなにを言ってるの?」
「これもダンジョン攻略の際の注意点だ。よく見ておいて」
と俺は口にして、近くの小石を拾い上げた。
そしてなんの見た目はなんのヘンテツもない地面に放り投げる。
すると……。
「わっ、穴が空いた!」
「トラップですかっ?」
小石が当たった地面に、突如大きな落とし穴が出来たのだ。
「そう、トラップだ。魔素が濃いダンジョンではこういうものも多くある」
基本的にダンジョンには魔素が満ちている。
その魔素によってダンジョンが作り替えられ、このような冒険者を騙すトラップを作成するのだ。
一説によると、ダンジョンには意思があり人が入るのを拒んでいる、という話もある。
なのでこのようなトラップがあったり、守護者となる魔物を生み出したりしてるのだと言う。
それを二人に説明すると、
「そんな話、聞いたことありませんよ!」
「そうかもしれないな。まあそのあたりは、俺でもまだよく分かってない。いつかは解明したいとも思っているが」
強いヤツを求めるためなら、俺はなんだって取り入れる。
そのために、ダンジョンを分析し尽くしたいと思うことは当然のことだ。
「この穴……クルトに言われてなかったら、引っ掛かってたよ」
「かなり深くまで穴が続いています。クルトに言われなかったら……ぞっとしますね」
二人が出来た穴を覗き込んだ。
ちなみに落とし穴が出来るのトラップは、比較的優しい方だ
仮に落ちたとしても、落下時の衝撃に耐えればなんとかなるからな。
「ダンジョン攻略の時はこういうトラップにも要注意だ。これは落とし穴だったからまだよかったが、層に踏みいっただけで全体に毒ガスを散布する、というトラップもある」
「全滅しちゃうじゃん!」
「き、気をつけなければいけませんね……」
二人がぞっとしたような表情になった。
無論、トラップに引っ掛からないことが大前提だ。
しかしもしトラップに引っ掛かってしまった場合のリカバリーも、大切になってくる。
例えば……毒ガス散布というトラップについては、解除魔法か毒を治癒する魔法かで対処することが出来る。
それもこれから教えていかなければならないな。
「じゃあ気を取り直して進んでいくねっ」
「トラップには気をつけなければいけませんね」
「今度はわたしも探知魔法を頑張るよ」
二人がそう気合を入れ直して、進もうとした時。
「ちょっと待ってくれ、二人とも」
「「えっ?」」
俺は二人を制止させる。
やはりトラップの探知は二人にはまだ難しいらしい。
俺は二人より一歩前に出て、ロックフォールの魔法式を展開した。
罠解除魔法でもよかったが、トラップの脅威を二人に見せるためだ。
前方の地面に大量の石が落下していった。
すると……石が当たった地面から「ぼこぼこ」と次から次に穴が空いていったのだ。
「わわわ!」
「すごい数です!」
穴が出来ていっている光景を見て、二人は驚きの声を上げた。
「……どうやらこの周辺一帯が落とし穴のトラップだらけみたいだな」
ロックフォールの魔法を止める。
「クルトは気付いて……?」
「ああ。この層全体のトラップの位置については、把握しているよ」
この層に足を踏み入れた瞬間、次から次へと探知魔法にトラップが引っ掛かったのだ。
前方の地面は穴だらけになっていて、ただ歩くだけでも苦労しそうだった。
だが、通れないことはない。
「うわ……この穴の下。骸骨があるよ」
「この層に足を踏み入れた冒険者の方でしょうか?」
ララが穴を覗き込み、マリーズが青い顔をしていた。
「ああ。おそらく、このダンジョンが奥まで踏破されていない理由の一つだろうな。なんとかしてここに来たとしても、トラップに引っ掛かって返らぬ人になってしまう」
穴はまあまあ深い。
落下の衝撃に耐えたとしても、骨の一本や二本は折れてしまっているだろう。
そうなってしまえば、魔法でも使わなければ、ここから這い上がってくるのは至難の業だ。
「わたし……探知魔法頑張る、って言っておきながらトラップを見極められなかった……」
「今のところは気にすることはない。そもそもトラップは気付かれないからトラップになり得るんだ。必然と探知魔法で引っ掛かりにくいようになっているんだ」
特にララの不遇魔力は攻撃系統に優れているものの、こういった探知する魔法は苦手なのである。
しかしトラップの怖さは十分分かってくれたようだ。
それで今日はいいとしよう。
俺達は穴に落ちないようにしながら、奥へ奥へと進んでいく。
「……それにしても、罠解除に優れた魔法使いが欲しいところだな」
ララとマリーズの魔力色も戦闘には向いているものの、補助系には向いていないのだ。
この世界ではどうか知らないが、トラップを探知したり解除する魔法を中心に使う人々のことを『シーフ』と呼んだ。
緑色魔力がそれに対応するのだが……。
まだこの世界に来てから、見たことがないな。
見つけたら是非勧誘したいものだ。
「まあそれは置いといて……近いぞ」
「なにが?」
「俺達がここまで潜ってきた理由……強い魔物にだ」
俺の言葉に二人の顔がピリッと引き締まった。
「ど、どこにいるの?」
「あそこの小部屋だな。あっちは俺達に気付いている。部屋に入った瞬間に仕掛けてくると思うから……油断するなよ」
なかなか隠蔽の上手いヤツではあるが、さすがにここまで近付けば分かる。
俺達は警戒しながら、小部屋に入った。