41・ダンジョン攻略のすすめ
奥に潜むもっと強い魔物に目をつけ、俺達はパヤゴの洞窟の奥に進んでいった。
「せっかくだから、ダンジョン攻略についてもレクチャーしよう」
歩きながら、俺は二人にそう言う。
「ダンジョン攻略……? 今まで学園の《宝物迷宮》の時と、おんなじじゃダメなの?」
「もちろん、基本はそうだ。だが、今まではどちらかというと二人の基礎能力の向上に努めていった。ダンジョン攻略については、ちゃんと教えたことがなかったもんでな」
将来的に……二人とパーティーを組んで、《宝物迷宮》……欲をいえば、もっと上位のダンジョンを攻略していきたい。
そう考えたら、俺のためにも二人に教えることは有意義だった。
「というわけで、レッスンその一。役割分担についてだ。まあこれは戦闘全般に言えることだが……長く潜ることが多いダンジョンでは、さらに重要となってくる」
「剣士は剣で戦う。魔法は魔法で戦うみたいなヤツかな」
「ララ。正解ではないが、言いたいことはそういうことだ」
今まで何度も言ってきた通り、剣と魔法を組み合わせて戦うことが理想的だ。
1000年前においては、友達を作ることもなかったので、ダンジョンには一人では潜っていた。
そのため、全部のことが出来るオールラウンダーになることが求められていたのだ。
しかし……この世界でパーティーを組むとなったら、負担となる部分は分散しておきたい。
リスクを減らすことにも繋がるからな。
それによって、もっと楽にダンジョンを攻略することが出来るだろう。
「剣と魔法……その二つを分けることはよしとしない。だが、剣を扱うのと魔法で戦うの、どちらが得意か……といった得手不得手はあるはずなんだ」
「つまり自分の長所を自覚して、役割を分担することが大事。クルトはそう言いたいんですよね?」
マリーズに問いかけに、俺は首を縦に動かした。
「そういうことだ。さらには魔力色でも、その人の得手不得手も変わってくるしな」
「魔力の種類って、ただ優劣を決めるだけのもんじゃなかったのー?」
「あー、んー……それは間違った認識だ。忘れてもらいたい」
例えば俺にとっては外れ魔力色、白色魔力(この世界では完全魔力と呼ばれていた)であっても、鍛冶職を志すものにとっては適しているだろう。
魔力色は優劣を決めるものではない。
それによって、適正があるだけのことなのだ。
「そんなこと、聞いたことないですよ? どこの本に書いているんですか」
「どの本にも書かれたことを見たことがないな」
この世界ではな。
「だったら……」
「そこらへんのヤツが書いた本と、俺の言ってることだったらどっちの方が信頼出来る?」
今度は俺から質問してみた。
それに対して、二人は口を閉じるのみであった。
「よし……じゃあ二人の魔力色について、簡単に説明しようか。まずララのは赤色……じゃなくて不遇魔力だったよな?」
「うんっ! 攻撃系統の魔法に向いてないって教わったけど……」
「前にも言ったが、それは間違いだ。不遇魔力は逆に攻撃系統の魔法に向いているんだ」
「今までクルトに教えてもらったことを思い出したら、そんな気もしてきたね……」
「だが、一方で射程距離が短い。どちらかというと接近戦に向いている魔法だ」
俺が得意としているように、物理と魔法を合わせて戦う方法とかだな。
不遇魔力であれば、威力が高い魔法を近距離から放つことが出来る。
なのでこれからは自分の身を固める結界魔法についても、徐々に教えておく方がいいかもしれない。
「そしてマリーズ」
「は、はいっ」
マリーズが姿勢を正す。
なにを言われるのか、緊張している面持ちだ。
「マリーズは紫色……劣勢魔力って言ったっけな?」
「はい」
「それについてはどう聞いている?」
「繊細な魔法を放つことが出来ないと。だから大味な魔法しか使えないので、応力に欠ける……とも言われてました」
「なんだそりゃ」
一瞬吹き出しそうになってしまった。
繊細な魔法ってなんだよ。曖昧すぎるだろ。
それにやっぱり俺の知識からして、マリーズの認識は間違っている。
「劣勢魔力は不遇とは逆に、魔法の射程が長い魔力色なんだ」
「遠距離から魔法を放つことが出来る、ということですか?」
「そういうことだ」
なのでどちらかというと、遠くの標的を探知したり、時間をかけてもいいから丁寧な魔法式を組むことが求められる。
相手の攻撃は前衛職がある程度防いでくれるしな。
そういう意味では逆に『繊細さ』みたいなのが、必要になるかもな。
やっぱり劣勢魔力も、俺の認識とは真逆だ。
「だからもうマリーズも、ファイアースピアくらいだったら二本同時で追尾機能を付けられると思うぞ」
「ほ、本当ですかっ?」
「ああ。スケルトンキング戦は慌ててたかもしれないが、時間をかければ……おっ。丁度いいところに魔物だ」
バタバタと翼をはためかせて、前方から魔物の二体のバットが現れた。
別名『吸血蝙蝠』とも呼ばれている魔物で、一体一体はそんなに強くない。
「俺がバットを食い止めておくから、マリーズは慌てず魔法式を組んでいて。準備が出来たら、いつでも放っていいから」
「分かりました!」
いい返事だ。
俺は剣を抜き、バットの前に躍り出る。
バットが俺の血液を吸おうと、首筋に向かって飛んできた。
「遅いな」
俺はわざと間一髪のところで回避したりした。
途中で剣で攻撃する素振りも見せる。
そのおかげで、バットは俺だけに標的を定めて動いてくれるようになった。
「出来ました!」
欠伸を噛み殺しながらバットの攻撃をかわしていると、後ろからマリーズの声が。
「よし! 放て!」
その瞬間。
俺の横を通り過ぎるようにして、二本のファイアースピアがバットに向かっていった。
バットは弱くはあるが、機動性に優れた魔物だ。
不意を突かれたとはいえ、二体のバットはお互いファイアースピアを避けようとする。
しかし……直進していたファイアースピアはクイッと方向を変え、バットに突き刺さっていた。
「やった!」
マリーズが小躍りして喜びを表現する。
ファイアースピアが命中したバットは、そのまま紙のようにヒラヒラと地面に落ちていった。
「ほら。落ち着いてやればマリーズでも出来るだろう?」
「クルトの言った通りです! ありがとうございますっ!」
「って、ちょっ……!」
マリーズは笑顔のまま俺の両手を握り、小さくジャンプをした。
いつも勝ち気なマリーズなので、こういう姿を見ると戸惑ってしまう。
「あっ、す、すみません! 私としたことがはしゃいでしまって……」
マリーズが顔を赤くして、手を離した。
しばらくこのままでもよかったが……って俺はなにを言ってるんだ。
「いちゃいちゃすること禁止なんだからねっ」
「そんなことしてない」
何故だかララがぷんすかと怒ったように頬を膨らませた。
「……まあ話は戻るが、こういうことだ。これからは魔力色によって自分の適正を意識しておこう」
「「はい!」」
二人から力強い言葉が返ってきた。
俺としても、二人がもっと強くなってくれるとより戦いやすくなっていくだろう。
二人にもっとなにを教えようか? と考えながら洞窟の奥へ奥へ進んでいく。
奥に行くほど魔素が濃くなっていった。
なるほど……おそらく、パヤゴの洞窟を踏破した者はいないに違いない。
だからこそ、定期的に奥からスケルトンキングなんてものが湧いてくるんだろう。
「そういえば、一つ疑問に思ったんだけどさ」
「なんだ?」
「クルトだったら、洞窟の壁とか地面とか壊して一瞬で進めるんじゃないかなー、って」
「ララ。いくらなんでもそんなこと出来ませんよ。迷宮も含め、ダンジョンの壁は壊せないものの代表格なんですからね」
「だよねー」
ララの言ったことをマリーズが否定した。
だが。
「出来るぞ」
「「えーっ!」」
二人が声を揃えて驚く。
「このパターン、前にも見たことあるような気がしますが……」
マリーズの呟き声に返事をせず、俺は話を続けた。
「壁は地面を壊すことは出来る。だが、安易にそんなことをしてしまったら、ダンジョン全体が崩れてしまう可能性もある。いざという時は別かもしれないが、基本的にそんなリスキーなことはしてられない」
それにダンジョンというのは、魔物の脅威もあるかもしれないが、1000年前においては『資源』の一つとして考えられていた。
ダンジョンから取れるアイテムや魔物は、高く換金出来る。
壁や地面を崩してまで、ここで早く攻略することは得策じゃないだろう。
「しかも魔力も無駄にくっちまうからな。すぐに掘っていかないと、魔素で復元されてしまうし……ここでそんなリスキーなことをする必要はない」
「リスキーとかそういう問題なのですか……ああ、私の中の常識が……」
とマリーズは嘆いていた。
なにはともあれ、パヤゴの洞窟を進んでいこう。
俺達は階段を降りて、下層へ足を踏み入れた。
「ん、ここは……!」