40・魔力の周波が人間とは違っていたからな
前回のあらすじ・不死なる王を倒したら…?
「わっ! 魔物だ!」
「クルト、どういうことですかっ?」
倒れている男……というか正体を現した魔物に、ララとマリーズが同時に声を出した。
「これはミミクリドールという魔物だな」
「ミミクリドール……?」
「マリーズでも知らなかったか」
ミミクリドールというのは、他のものに化けることが出来る魔物である。
変身先とうり二つ……といったくらいに似ているため、目で区別を付けるのは至難の業だ。
「それなのにどうして分かったんですか?」
「ああ。魔力の周波が明らかに人間とは違っていたからな。魔物……まあこれくらい変身出来るのはミミクリドールしかいないんだが……であることはすぐに分かった」
「魔力の周波……そんなこと分かるんですか?」
「マリーズも練習すれば出来るようになる」
「それに……すぐっていつからですか?」
「言っただろ。最初からだ」
ギルドにこいつが来た時からだ。
俺からしたらバレバレであったが、わざとこいつの話に乗ってやったのだ。
不死なる王、ってヤツの存在も気になったしな。
こいつが嘘を吐いている……という可能性もあったが、それはそれで面白いことが起きるだろうと思ったから。
「そもそも俺達が行く、ってなった時。こいつ反対もなにもしなかったよな?」
「あっ」
「なにが言いたいの、クルトー? マリーズちゃんもなにかに気付いたみたいだけど」
聡明なマリーズは俺の言葉で気付けたらしい。
そう。
他国から来て全然有名じゃない子どもの俺達に、助けを求めること自体がおかしいのだ。
慌ててたということもあって、俺達がヒュドラを倒したことは知らなかったみたいだしな。
普通なら「子どもが? お前等じゃ役に立たん!」と反対するところだろう。
だが。
「こいつは普通に俺達を案内した。ミミクリドールってのは悪戯が好きな魔物だ。明らかに戦力になりそうにない子どもを連れてきて、場をさらに混乱させたかったんだろうな。そして隙に乗じて……」
ファイアースピアで胸を貫かれ、絶命しているミミクリドール。
人型ではあるが、カラカラに渇いた枯木のような外見だ。
そいつの右手には短剣が握られていた。
「……スケルトンキングを倒して油断した俺達を、その短剣で刺すつもりだったに違いない。もっとも返り討ちにされてしまうという、間抜けな結果になってしまったがな」
「なんということ……じゃあクルトが気付いていませんでしたら……」
「ああ。全員は無理かもしれないが、一人や二人はこいつにやられていたかもしれない」
ミミクリドールの戦闘能力は低い。
だが、この衰退した世界での冒険者基準では、なかなかに強い部類に入ってくるだろう。
ララかマリーズだったら、なんなく倒せると思うが。
「それにしてもガッカリだな」
「クルト。どうしたの?」
ララが目をクリクリとさせる。
1000年前のミミクリドールは、魔力の周波数すらも変えていた。
中には魔力色自体を偽装出来る厄介なミミクリドールもいた。
そうなってくると、俺でも見分けを付けるのは困難なのである。
ミミクリドールなんて、この世界で見るのはじめてだった。
だから「どんなことを企んでいるんだろう?」と興味があって、わざと乗ってみたが……どうやら期待はずれだったらしい。
「おお……そんな魔物がいるなんて!」
「ミミクリドール? そんなの聞いたことないぞっ?」
「冒険者が入れ替わりが激しいから、知らないヤツがいたとしてもあまり気にしなかったが……まさかこんなことがあろうとは」
「スケルトンキングとの戦いで必死だったしな」
周りの冒険者達も騒ぎ出した。
「し、しかし! オレ達はスケルトンキングを倒したんだ!」
「なにを言ってんだ! オレ達なにもしてないだろっ?」
「細かいことは気にするな」
「ギルドに戻ろう!」
「スケルトンキングの死体はもちろん君達のものだ! 高値で取引されるはずだよ!」
うむ。
戦いを終えて、みんなが油断しているように見える。
しかしそんな彼等に対して、
「先に街に戻っていてください。俺達はちょっとこの先に行ってみますから」
と告げた。
「どういうことだ?」
「洞窟の奥からもっと強い魔物の気配がします」
「な、なんだとっ? それは本当か?」
「はい」
「どうしてそんなことが分かる?」
「探知魔法……ああー、地形とか魔物とかを把握する魔法を、洞窟全域まで広げていたからです」
これだったら……おそらくデーモン系の魔物か。
『気』を消そうとしているっぽくて、はっきりとは断定出来ない。
離れているとはいえ、俺の探知魔法で完璧に把握出来ない魔物……興味があった。
最悪危険になったら、転移魔法でここを脱出すればいいだろう。
「むう……そうなのか。それにしても探知魔法? ってのは便利なんだな。さすが魔法使いだ」
「んー、まあ練習すれば誰にでも出来るようになりますよ」
範囲の広さと精度の正確さを追及するのは別の話だが、探知魔法自体はさほど難しいものじゃないからだ。
「……クルトの言う『誰にでも』というのが、わたし達とは違う意味で使ってる気がするね」
「ララ、奇遇ですね。私もそう思ってました」
ララとマリーズにジト目を向けられてしまった。
コホンと咳払いをしてから、
「そいつを放置してたら、少々厄介なことになるかもしれません。なので俺は洞窟の奥に進んでみます。ララとマリーズも来るか?」
「もちろんだよっ」
「あなたを置いて、一人街に戻るなんて真似……出来ません!」
「頼もしいよ」
これは本音だ。
最近、二人の力はめきめきと伸びている。
探知魔法でこの奥になにがあるのか把握はしているものの、それでも不測の事態というものは起こりえる。
その時に仲間がいるというのは、やはり心強かった。
「ま、待ってくれ! オレも行くぜ! 子ども達だけに危険を背負わせる真似なんて出来ん! そりゃあ、強い魔物ってのは怖いが……」
と冒険者の一人が声を上げる。
「んー……」
腕を組んで考える。
困った……。
その気持ちは嬉しいんだが、残念ながら力不足だ。
悪い言い方をすれば『足手まとい』なのだ。
どうにか断りたいんだが……。
「大丈夫ですよ。俺達だけで行きますから」
「で、でも!」
「あっ、それから反応はそれだけじゃありませんよ?」
「えっ?」
「スケルトンキングも奥から反応がありますね」
「不死なる王のことかっ?」
これは断るための嘘ではなく、本当のことだ。
ギルド職員はスケルトンキングは『定期的に出てくる』言っていた。
この調子だったら、洞窟の奥の方に潜んでいたスケルトンキングが、たまに人間の前に姿を現す……といったところか。
「しかも五……いや、六体いますね」
「ろ、六体だとっ? 一体だけでも討伐するのが困難だっていうのに……」
「それでどうします? 少々危険かもしれませんが、付いてくる人はいますか?」
俺のそんな問いかけに、手を挙げる冒険者は誰一人いなかった。
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