39・不死なる王
前回のあらすじ・中立都市のギルドに行った。
「どうしたっ?」
突然現れた男に、職員が問う。
「街の近くにパヤゴの洞窟があるだろう? あそこに魔物……『不死なる王』が出現したんだ!」
「な、なんだとっ?」
「その時、潜っていた冒険者でなんとか対処しているが……とてもじゃないが、手に負えん! 誰か助けてくれ!」
どうやら緊急のようらしい。
「あの……その不死なる王って魔物は強いんですか?」
「定期的にパヤゴの洞窟に出る魔物だ。20年前に出てきた時は、討伐クエストの最中十六人の冒険者が犠牲になったという記録が残っている。こんな時に……」
なるほど。
冒険者とギルド職員の話を聞くに、不死なる王というのはかなり強い魔物らしいな。
問題は名前だけで、どんな魔物か分からないことであるが。
「そうだ……君達! 丁度いい! 助けてくれないか?」
と男がクルッと俺達の方を向いた。
——ああ、なるほどな。
この男……。
「ねえ、クルト」
考えていると、ララが服の裾を引っ張ってきた。
「どうした?」
「行こうよ。助けてあげよう」
「もちろんだ」
どちらにせよ、不死なる王という魔物も気になる。
行かないという選択肢は、俺の中ではなかった。
マリーズにも視線を配ると、真剣な顔のまま頷いた。
「よし……分かりました。そこまで案内してください」
「あ、ありがとう……!」
胸の鼓動が高まっていくのを感じた。
俺達は急いでギルドを出て、パヤゴの洞窟とやらに向かうのであった。
◆ ◆
不死なる王が出現したというパヤゴの洞窟に着くと。
「なんだこれは……」
不死なる王を見て、俺は愕然とし声を漏らしてしまった。
「たかがスケルトンキングが不死なる王って名前で呼ばれているんだけど?」
1000年前において、スケルトンキングはFランク冒険者がよく喜んで狩っていた魔物……というくらいのレベルだ。
どんな強い魔物がいるのか、と思って胸が弾んでいたがガッカリだ。
「援軍か! 助かる!」
「しかし子どもだと……? ギルドにはこいつ等しかいなかったのか!」
冒険者が俺達の方を向く。
十人くらいのパーティーだ。
体のいたるところに傷を負っており、満身創痍の状態……といったところか。
「こいつ……どれだけ攻撃しても、再生しちまうんだ!」
冒険者の一人がスケルトンキングの方に目をやらいながらも叫ぶ。
当たり前だ。
スケルトンキングは魔法で攻撃しなければ、何度でも甦ってしまう魔物なのだ。
だが、冒険者の中に魔法を使える者はいないらしい。
どれだけ剣を振るったとしても、スケルトンキングは再生を続け、いつまで経っても倒せないのだ。
スケルトンキングは攻撃力自体は大したことがない。
しかし……魔法が使えない者にとって、再生を無限に繰り返すので、持久力が切れてやられてしまう。
だからこそ、俺達が来るまで持ちこたえることが出来ながらも、傷一つ付けることが出来なかったのだろう。
「クルト、大変だよ! 早くわたし達も加わろっ」
「強そうですが、逃げるわけにはいきません!」
「んー、あー、そうだな……」
「どうしてガッカリしてるの、クルト!」
だってスケルトンキングだぜ?
こんなの1000年前だったら、みんな魔法使ってたから、簡単に倒すことの出来た『ザコ敵』なんだぞ?
……まあだからといって、ここで帰るわけにもいかない。
「ララ、マリーズ。せっかくだから、連携っぽいことをしてみようか」
「う、うんっ」
「あなたの足を引っ張らないように頑張ります!」
「よし……じゃあリョベザーの森で教えた……」
二人に作戦内容を伝える。
「頼んだぞ、二人とも!」
「うん!」
「はい!」
いい返事だ。
俺は剣を鞘から抜き、スケルトンキングに向かっていく。
スケルトンキングが冒険者達をその手に持った剣でなぎ払おうとしていた。
そんなスケルトンキングに、ララが放ったファイアースピアが突き刺さる。
「グオオオオオ!」
スケルトンキングが悲痛の叫びを上げた。
「よし、その調子だ。ララ!」
だが、ちょっと威力が足りなかったか。
スケルトンキングは俺達の方をゆっくり見た。
……成功だ。
なにも今の一発で倒せるとは思っていない。
ただこちらに気を引かせただけである。
スケルトンキングが剣を振り回してくるのを、俺は片手でいなしていた。
「マリーズ! 頼むぞ!」
「は、はい!」
マリーズの手からファイアースピアが放たれる。
俺の死角で起こっていることだが……探知魔法を使っているので、視認しなくても分かるのだ。
スケルトンキングはファイアースピアを避けるため、一度俺から距離を取った。
だが……マリーズの放ったファイアースピアは方向を変え、相手を追尾するように動いたのだ。
「突き刺され!」
夢中になってるのか、マリーズが叫んだ。
ドゴォォォオオオン!
見事、追尾機能を付与したファイアースピアがスケルトンキングに命中。
しかし……追尾機能を付けるのに集中してしまったためか、威力があまり出ていない。
「それで十分だ」
一瞬だけ怯み、体勢を崩してしまった相手。
俺はその一瞬を見逃さず、剣に魔力を込め相手に斬りかかった。
もちろん【鋭利化】や【魔撃】を付与している。
魔法が付与されている剣ならば、スケルトンキングを倒すことが出来る。
一閃。
体を構成していた骨がバラバラになり、スケルトンキングは動かなくなってしまった。
「おお……! 不死なる王を倒したぞ!」
「しかも相手は子どもだぜ? 一体なにが起こっているんだっ」
それを見て、にわかに活気づく洞窟内。
「はあ……」
「クルト。どうして、そんなに落ち込んでるの?」
強い魔物だと思って来てみたら、たかがスケルトンキングだったからだ。
俺は溜息を吐きながら、剣を鞘の中に戻した。
「お、おい! お前等、一体どこの冒険者だ? シフレアでは見たことないが……」
冒険者の一人が俺のところまで駆け寄ってきて、質問を投げかけてきた。
「王都です」
「王都か! やっぱり王都には凄腕の冒険者がいるんだな!」
「いえ……正しくは冒険者じゃないんですけど」
「えっ?」
「魔法学園の生徒です」
そう言って、生徒証を見せる。
「が、学生だとっ? 学生が不死なる王を倒したっていうのか?」
それを見て、冒険者はさらに驚いていた。
「そんなに大したことありませんよ。魔法さえ使えれば、あなた一人でも倒せる相手ですから」
「そんなわけねえだろう! それに魔法なんて一部の才能のある者しか使えないんじゃ? オレが使えるわけねえよ……」
冒険者は肩を落としていた。
さて……取りあえず、一体目の魔物は倒した。
スケルトンキングを倒したくらいから、殺気がだだ漏れだぞ。
「どうしたの、クルト?」
ララの問いに答えず、俺はそいつに向かって歩き出した。
「ん……お? なんだ?」
そいつとは、俺達をここまで案内してくれた冒険者のことである。
「今だったら見逃してやってもいいぞ」
「どういうことだ?」
「どうせろくでもないことを企んでいるんだろう?」
「一体、お前はなにを言ってやがる。オレはなにも——」
「……ふんっ」
と言いかけたところで、俺は至近距離でファイアースピアを放ち、そいつの胸を貫いた。
「ちょ、ちょっとクルト!」
「なにを考えているんですか!」
二人が慌てて駆け寄ってきた。
だが。
「ど、どうじで分がっだ……」
「え?」
ララがそれを見て目を丸くする。
俺の魔法で胸を貫かれた男。
そいつの姿が徐々に変わっていき、人間にはとてもじゃないが似ていない魔物へと、変貌を遂げてしまったからである。
「最初からバレバレだ」
溜息を吐く。
魔物の体が、そのままゆっくりと地面に倒れていった。