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37・危険度Aの森に入ってみた

 ヒュドラに収納魔法を使ってから、俺達は再び出発した。


 三時間くらい馬車で進んだくらいだろうか。


「お?」

「どうしたの、クルト?」


 ララが目を丸くする。


「また悪い予感がしますね……」


 マリーズにいたっては、表情を渋くしていた。


「いや、今度はいい話だ。面白い反応があるぞ」

「面白い?」

「ああ。もう少し行ったところに魔力の反応がある」

「ということは……敵っ?」


 ララが表情を強ばらせた。

 しかしこれは……。


「生体反応はない。おそらく、魔力を多量に含んだアイテムだと思う。もう少し近付けばはっきりするんだが……」

「クルト。ちなみにもう少し行ったところ、ってどれくらいかかるんですか?」

「二時間くらいだ」

「……相変わらず出鱈目でたらめな探知魔法の範囲ですね」


 マリーズが嘆息たんそくした。


 ヒュドラみたいなことがあったら、またみんなを驚かせてしまうので、範囲をさらに広めたのだ。

 もっと早くから、魔物の気配がある……と言えば、みんなの驚きも少しは押さえることが出来るだろう。多分。


「待ってください。この先、二時間行ったところって……」


 マリーズが地図を広げて、顔を青くした。


「リョベザーの森があるじゃないですか!」

「知ってるのか?」

「とても有名な森です! 危険度Aランクに指定されています。もしかして……その多量に含んだ魔力というのは、そこにあるんじゃないですか?」

「わたしもそんな気がする」


 ララもマリーズの意見に賛成した。


 ララの勘は鋭い。

 ということは危険度Aランクの森とやらに、そのアイテムがあるっぽいな。


 そして二時間後。


「おっ、この森の中から反応がする」

「やっぱりリョベザーの森じゃないですか!」


 マリーズが馬車の中で叫んだ。


 その後、馬車を一旦止めてエリカ先生と校長に相談してみた。


「……というわけで、この森に入りたいんですがどうでしょう? 地図を見る限り、近道にもなりそうだと思いますが……」

「確かに。この森を突っ切ることが出来れば、中立都市には一日早く着くだろう

「いいことばっかりじゃないですか」

「だが……! リョベザーの森だぞ? こんなところ、突っ切ろうと考える人間なんてクルト一人だけだからな? 安全性が確保されない! 私は反対だ!」


 エリカ先生が鋭い視線を向けた。

 彼女の言う通り、リョベザーの森からは禍々しい魔力の気もする。

 ウルフやスライムよりも、少々強い魔物がいるんだろう。


 だが……俺からしたら、あまりにも弱々しかった。

 なんでそんなに危険視するんだろうか……。


 だが、一方でエリカ先生の言う安全性というのも納得出来た。


「だったらいざとなったら、転移魔法で逃げ出しましょう」

「クルト一人だけ逃げるというのか?」

「そんなわけありませんよ。馬車ごと、みんなをここのスタート地点まで戻すんです。大量の魔力を使うから、本当は嫌なんですが……危険だったらやむを得ません」

「……本当にお前という生徒は……」


 エリカ先生は口をパクパクさせて、深く溜息を吐いた。


「よかったら、俺だけこの森に入って中立都市に向かいましょうか? エリカ先生達は正規ルートで行ってくれていいんで」

「いや、クルトと離れる方が危険だ。クルトを信用する。好きにやってくれ。校長もそれでいいですか?」


 校長は黙って首を縦に動かす。


 よし。

 先生達も説得出来たし、早速森の中へ入っていこう。


 馬車が森の中に入り、心なしか少し早足で進んでいく。


「魔物出てこないねー?」

「本当ですね……探知魔法でチラッと反応はあるみたいですが」


 ララとマリーズが不思議そうな顔をしている。

 だが。


「二人とも油断したらいけないぞ。魔物が俺達に付いてきている。いつ攻撃を仕掛けてきても、おかしくない」

「えっ! 私達にっ?」

「しかも複数だ」


 小癪こしゃくにも、気配を消そうとしている。

 二人の探知魔法じゃ気付かなくても仕方ないか。


「そんな大事なことはもっと早く言ってくださいよ!」

「ご、ごめん」

「どらくらいいるんですか?」

「丁度100体だな」

「「ひゃ、100体!」」


 二人が抱き合って声を合わせた。

 馬車を停止させ、外に出るとエビルモンキーという魔物の何体かが、草木の隙間から顔を出した。


「これだったらララとマリーズでもやれるはずだ。今までの授業の復習だ。そうだな……クエスト、100体のエビルモンキーを討伐せよ! といったところか。エリカ先生と校長は馬車の中にいててください」

「そんな無茶ぶりな!」

「ララ、やるしかありませんよ!」


 ララとマリーズが魔法式を展開したら、それに連動するように一斉にエビルモンキーが襲いかかってきた。


「うわっ! 数が多いよ!」

「でもクルトの言った通り、なんとか対処出来そうですっ」


 二人が魔法を放ちながら、エビルモンキーを一体ずつ倒していく。

 数は多いものの、エビルモンキー一体一体はウルフにちょっと毛が生えた程度の強さだろう。

 それでもしっかり冷静に対処しているのは、二人の成長が見られて感心した。


「はあっ、はあっ……もう大丈夫かな?」

「いえ。少しこちらの様子を窺ってるだけですよ」


 二人が背を合わせて、肩で息をしている。

 うん。マリーズも油断していない。


「二人とも、素晴らしいよ。ただちょっと魔法の無駄撃ちが多いな。魔法式にここをこう追加してやれば……」


 戦いの一瞬の間隙に、俺は二人に一言だけアドバイスしてやる。

 だが、そんなに悠長な時間はなかった。


「来ました!」


 エビルモンキーが再度散らばりながら襲いかかってきたのだ。


「丁度いい。お手本をまずは見せようか。二人は下がっておいて」


 俺はエビルモンキー達の前に出る。


 展開する魔法式は……ファイアースピアだ。

 しかしエビルモンキーは残り30体ほど残っている。


 なので30本分のファイアースピアを同時に発射する。

 ファイアースピアはまるで自分の意思を持ったかのように、エビルモンキーを追尾し命中。

 逃げようとしているエビルモンキーもいたが、その背中に炎の槍が突き刺さっていった。


「どうだ。これが魔法に追尾機能を付与する、っていう方法だな。こうすれば当たりやすくなるし、魔法が外れて魔力を無駄に消費してしまうことは避けられるはずだよ」

「「…………」」


 ん?

 なんか二人が固まっているぞ。


「少し難しかったか?」

「ん……いや、追尾機能を付与するのはそれほど難しくないと思うけど」

「クルトみたいに複数……しかもそれだけ正確な精度を両立させることは、出来そうにありません……」


 ララとマリーズも肩を落としてしまった。


 自信を失わせてしまったか。

 しかし心配しなくていい。


「大丈夫だ。二人も練習すれば、これくらいは楽に出来るようになるはずだよ。100本同時となったら、三年はかかると思うが……」

「せ、100本って! メチャクチャだよ!」

「そんなの人間業じゃありません」


 なにを言う。

 前世の俺の最高記録は936本だ。

 今の俺だったら魔力量が足りないので、せいぜいその半分くらいが限度だろうが。


「まあともかく魔物も倒したし、先に進んでいこう。もう少しでお目当てのアイテムがありそうだ」


 俺達は馬車の乗り込んで、再び進んでいった。


 少しすると……。


「おっ、これだな」


 木の根元に生えている光り輝く薬草を見つけた。


「わあ、キレイだね!」

「これは一体……?」

「イズンニアの薬草ってヤツだ」


 この世界でお目にかかれるとは。


 俺はイズンニアの薬草を一束摘みあげる。

 イズンニアの薬草は長い年月をかけて、地脈から魔力を吸い上げていったものだ。


 これは……俺の見立てだったら、400年ものといったところか。

 イズンニアの薬草を用いれば、例えば良質なポーションを作ることも出来るだろう。


 この森はどうやら危険らしいし、しかもイズンニアの薬草はちょっと横道に逸れたところに生えていた。

 探知魔法が一般的じゃないこの世界では……今まで誰も見つけられなかったんだろう。


「寄り道させてすまなかった。お目当てのものも手に入れたし、出発しよう」

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